第27話 佐川清正 陸軍入隊
昭和18年
大平洋戦争終盤、南洋諸島を次々に手中に収めた米軍は、最新鋭の航空機と艦船、豊富な物量に物をいわせ、日本本土の主要都市並びに軍事施設に対して日夜攻撃を仕掛けていた。
おりしも主戦を唱える東条首相は、「一億玉砕」のスローガンを唱え、都道府県各大学校の生徒に繰り上げ卒業「学徒動員令」が発せられた。
文部省主催の壮行会が神宮御苑広場で挙行され各都市から選ばれた2万人余りの大学生が、明日の日本の勝利を信じ、国家の礎になる決意に燃えこの広場に集合した。
整然と整列した学生たちを前に、紅白のリボンで飾られた壇上では、第一種軍装の凛々しい東条首相が立ち、壇下には同じく軍装で着飾った陸海軍の幕僚及び閣僚が整然と控える中、壮行会が行なわれた。
神宮の森に木霊する、東条首相の大東亜共栄圏の稀有壮大な演説と鼓舞雄大な吹奏樂に、集まった若者達は胸を弾ませ、整然と隊伍を組み、関係機関方々と身内友人、女学生達の見守る中、力強く雨中行進をしたのである。
時に昭和18年10月21日の事であった。
その中に、郷里香川県を遠く上京し某大学の教育半ば、医師の志を捨て、鉄砲を肩に行進する佐川清正の姿もあった。
注: 学徒出陣生の入隊は18年12月1日で、2ヶ月間、最寄りの陸軍部隊で軍人としての基礎訓練を終えた後、陸海軍の航空隊に配属された。主に航空機の操縦が目的であった)
入隊した佐川士官候補生は、陸軍第三師団、姫路野砲連隊、六十七士官教育隊に配属された。
日夜、士官としての実務教育、軍務に専念していたが、まさかこのような事件に巻き込まれるとは思いもよらなかった。
それは皆が待ちに待った俸給日の、深夜から明け方迄に発生した「金銭盗難事件」であった。
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