第16話 遺体回収(二)
「先ず捜査に先立ち『鬼頭自衛官』が井戸に落ち込んだ時と、脱出時の検証を行った後、井戸底からの遺体の回収に掛ります」
水野課長が手順を伝える。
「鬼頭さん、此方に来て昨夜の状況をできるだけ詳しく説明して下さい」
「分かりました。私は、病院の明かりをほぼ正面に見て進んでいたので、おそらくここら辺りから井戸に落ち込み、冷水の中でのパニック状態になりました。数時間後、仮ロープを張り、ここに『円匙』を打ちこみ脱出しました」
わが指差した場所に『円匙』の跡があり、井戸には雑草が垂れ込み昨夜の状態のままだった。
「この草木の状態なら夜間平地に見え、井戸の存在に気付かず落ち込む危険性が多いにあるね。しかしよくもこの井戸から出られたものだ。正に奇跡だ!良く助かったものだ、冷たい泥水の中での呼吸の確保と、脱出作業が大変だったろう!」
水野課長は私の苦労をねぎらった。
「そうです、大変でした。それと井戸の存在には全く気付きませんでした。特に闇夜に前方の灯で周囲の視界がかき消された状態でしたのでなおさらです」
日が差し込む井戸の中には脱出時の「偽装網」が残され、巻尺を持った警官が計測を行っている。
そしてその都度ノートに計測結果を記録、捜査課長に渡し課長はそのノートを見て、井戸の底を覗きこんだ。
「ところで鬼頭さん、遺体はどの辺にあると思われますか?」と尋ねてきたので
「はい、正面の壁際辺りと思います。当時井戸の中を歩き廻りましたが、手前にはそれらしき物体は無いようでしたので・・・」
と私は指を指して説明をした。
「よし、分かった!それでは、必要な水を容器に溜めてから、排水作業を始めて下さい。」
合図と同時に待機していた消防隊員が特殊自動車を井戸傍に定め、給水ホースを井戸の中に落し入れた後、「ゴウン」という力強いエンジンの音と共に、数個の容器に水を張り終えると、勢い良く泥水を遠くへ飛ばし始めた。
放水を始めておよそ30分後には、井戸底が見える様になった。
それを確認した消防隊員は放水を止め、残りの水は一人の署員が井戸底に降りて、ロープに結んだバケツでの手作業となった。
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