第11話 病院内にて (二)

翌朝 9時過ぎ


担当医者が見え

「鬼頭さん!昨日の当直医から聞きましたが、昨夜は転落事故に逢い大変だったそうですね?暗黒と冷水の中での脱出作業の話も聞きました。とにかく助かった事に驚いています」


診察カルテを見ながら、血圧、検温、胃腸の洗浄、眼底検査、洗眼、等測定及び処置をして頂く。


「今の数値は少し高いようだが4~5日休養すれば下がるでしょう。食事は、食べれましたか?」


「ハイ、食べれました。食欲は普段どおりあります」


「それは良かった食欲がでれば回復も早く、痒み等も治まるでしょうが、暫く様子を診ましょう。看護婦さん!食事はどうなっていますか?」


「暫くの間、五分粥を申し込んでいますが?」


「そうか・・・下痢が治まれば普通食に切りかえ、良く食べ体力を付けるのが先決、判断はお任せします」


「分かりました。様子を診て食事の切り替えをします。それと注射は?」


「そうですね、後2~3本打って状況を診ましょうか?」


「分かりました。それで様子を診ます。それと運動の方は?」


「普段鍛えている自衛官だから、先ず大丈夫でしょう。しかし体は極力動かし、鍛えた方が良いと思うよ」


「わかりました、体を極力動かすようにします」

そう答えながら私は井戸の中で起こった怪異を担当医に話すべきかどうか心の中で逡巡していた。

しかし科学の最先端を走っている医者に非科学的な話をしても、にわかには信じてもらえないだろうと思い話すことを断念した。


「ところで、前にも聞いた話ですが戦時中、旧日本軍の兵隊さんが同じように井戸に落ち込み、当病院へ度担ぎ込まれた後、死亡された方もいたそうです。鬼頭さんは日頃の体力と、咄嗟の判断力で助かったと思いますが、以後気を付けて下さい」

と言いながら病室を出て行きました。


「ありがとうございます」


お礼を言った後、振り返って窓から覗くと、演習場内は松林に霧が立ち込め、梅雨独特の小雨が降り続いていた。

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