第46話輝く導(2)
「まぁ敵であるフェルシュルグの事は置いといて、問題は彼のゼルネンスキルがかなり厄介なモノだって事なんだよね」
「その切り替えは見習うべきかな? ……フェルシュルグのゼルネンスキルで分かっている事は?」
そういうお兄様の切り替えも流石ですよ?
フェルシュルグのゼルネンスキルは光精霊に何かしらの強い干渉を行う事が出来るというモノじゃないかと思っている。
人を洗脳する時は光精霊を『光信号』に変換させる事で脳内の信号を乱し混乱させ、其の上で必要な脳内麻薬物質を分泌させる。
この効果だと魔法や他のスキルのように明確に「〇×をしろ」的な命令を実行させる事は出来ない。
けどその分脳内を騙しているようなモノだから、洗脳だと分かりずらいんじゃないかと思う。
興奮物質を分泌される事により好感を抱いたり、逆に鎮静物質を分泌させる事で好感を下げたり。
そういった曖昧だけど、使いようによってはかなりの驚異になる効果が出ると思う。
残念な事に私は生物学的な事は詳しくは無いから、どれだけの『地球の知識』があれば出来るかどうかなんて分からない。
けどこの世界はイメージがモノを言う世界だから。
最終的に必要なのは明確で鮮明なイメージ。
頭の中に「どうしたいか」「どういう事象を引き出したいか」を脳内で鮮明に描き出す事で成功率は跳ね上がる。
『テレビ』で見た事のある脳の断面図やシミュレーション映像を思い浮かべる事が出来るから、私でも相手の好悪の指針を誘導する事ぐらいは出来るはず。
……それが実現できてしまうこの世界こそ恐れるべきだとも言うけれど。
リアやお兄様は『地球』の科学に対して畏怖の念を抱いているけど、私にしてみればこの世界のイメージ一つであらゆる事象を起こす事が出来る理-コトワリ-が恐ろしい。
まぁ未知に対しての畏敬ってのもあるし、お互い様って奴なんだろうけどさ。
姿を偽るのは多分光の屈折を利用しているんだと思う。
陽炎とはちょっと違うけど、光の屈折により本当にある姿とは別の姿を映し出している。
これこそイメージ最優先だし『地球』で同じ事をしようとしたら、天才科学者を探さないといけないレベルだ。
だけど光精霊を何かに変換させる事が出来る力と『地球』の知識があれば不可能じゃない……と思う。
胸張って説明して置いてなんだけど、本当に出来るのか? って問われると言葉に詰まるんだよね。
私は『地球』で普通の人だった。
別に研究者を目指していた訳でも無く、化学大好き少女だった訳でもない。
娯楽に溢れて様々な真偽問わぬ情報を『映像』として取り込む事が出来ただけの普通の人。
だから脳内の『ドーパミン』だの『アドレナリン』だのの事を詳しく説明する事なんて出来ないし。
『光の屈折率』なんて『高校時代』に習ったきりだから曖昧もいい処だし。
ゼルネンスキルの持ち主である彼が私と違って天才科学者だったとかじゃない限り、知識は然程変わらないと思う。
いやまぁ『文系』と『理系』に差も甚だしいんだけどね。
ともかく……その程度の知識とイメージ先行のこの世界の理によって全てが成功するのか? っていう大きな問題が私の前には立ちはだかっているのは事実だった。
私が分かっている事実は「光精霊を『光信号』に変換した」「腕を透過し頭に向かって『光信号』を飛ばした」「動揺した彼の姿が変わるたびに光精霊が何かに変換され、見慣れた姿に戻っていた」という事。
そして動揺のあまり自ら暴露した「『地球』の知識を持つ」という事だけだ。
それらを私が勝手に組み立てて推測したのが「光精霊を何かに変換する事で洗脳や変装を可能としている」という事。
反論しようと思えばできる程穴だらけの推測である事は否めない。
成功例が目の前にあって、過程と方法を推測しないといけないから余計おかしな事に成っているしね。
――犯人が分かっていてトリックを推理するタイプの推理小説じゃあるまいし。
しかも穴だらけだろうと何だろうと私はこの推測にある程度自信を持っていないといけない。
だって『地球』の事を知っているのは私だけだから『科学』だのなんだのを推測に盛り込む事は他の人には出来ない。
この世界においてイメージが成功率の秘訣となっている事に疑問を持っているのも私しかいない。
この世界で生きているあらゆる存在はそれは当たり前だから疑問に思う事すらない。
更に言えば娯楽に溢れていた『地球』で実際に見た事のある『映像』はこの世界においては有り得ないレベルのアドヴァンテージとなっている事を知っているのも私だけだ。
様々な事を鑑みても私以外にこの推測は立てられないし、論破する事も出来ない。
出来るとすれば、それこそゼルネンスキルの持ち主であるフェルシュルグだけだ。
つまり敵である存在にしか突っ込みは入れられないし、そもそもスキルの持ち主ならば、どういうスキルなのか知らない訳がない。
間違っている部分を「違う」と否定されれば、それで終わりだ……敵だから素直に肯定も否定もしないだろうけどね。
私は穴だらけと分かっていても自信を持って推測を口にし、そこから対策を練らないといけない。
……そろそろ考えすぎで胃が痛くなってきそう。
そんな事言ってもどうにも出来ないけど。
私は痛む胃を綺麗に無視すると出来るだけ事実に即した推測を話した。
その際分かっている絶対的な事実と推測を徹底的に分けて話したのは……まぁ自己保身です、ごめんなさい。
「――……とまぁこんな感じかな?」
「うーん。『カガク』とかちょっと分からない所が多いから何とも言えないんだけど……注意しなければいけない事なんか分かるかい?」
多分シュティン先生とかお父様ならもっと細かい所を突っ込まれて、私の浅学がバレたんだろうなぁ。
いや、お兄様も多分分かって口に出していないだけだと思うけど。
そういうお兄様の優しい所が大好きです。
「相手が光精霊を根源に何かをしているのは事実だから、一番良いのは彼の周囲から光精霊を遠ざける事なんだけど」
「かなり難しいね。精霊避けなんて普通はしないものだし」
「精霊は基本的に力の塊であり力を分け与えてくれるモノだもんね」
「遠ざけるって発想がまずないよ」
「だと思った」
私は精霊には好悪の微弱な感情は存在していると思っているけど、それは私の精霊のイメージに対する先入観のせいでもある。
この世界での精霊はあくまで力の塊で人の周囲、多分物質の周囲を舞飛び力を貸している存在でしかない。
意志も持たない力の塊を遠ざける理由なんて、純粋な自分の力で何かをしたいと思っている変わり者か、戦闘中相手の力を削ぐためくらいしか思いつかない。
この世界には多分精霊使いは存在しないか精霊の力を100%引き出し使いこなす事の出来る人の事を指し示すんだと思う。
エルフとかの異種族ってこの世界にも居ると思うんだけど、精霊使いってエルフの代名詞だよね? この世界ではエルフってどんな存在なんだろう?
一瞬どうでも良い事を思いついたけど、取り敢えず置いといて。
精霊を積極的に遠ざける方法は無いし、あったとしてもそれを局地的に発生させる事は難しい。
下手すると我が家の結界に何かしらの不具合が起こりかねない。
そんな危険な事は出来ない。
「他は、常に魔法を防ぐ結界を発動して置く事?」
「それは魔力量的な意味合いで難しいよ。後、仮にもゼルネンスキルだからね。多分結界は役に立たないと思っておいた方が良いと思う」
「あーかも」
実際お母様の結界もお父様の【結界陣】も掻い潜っている。
魔法や魔道具は効かないと想定しておいたほうがいっか。
「『光信号』を物理的に避ける?」
「多分精霊が見えていない人間には見えていないよ。だから今まで誰も気づかなかったんじゃないかな?」
「そっか。そうかも。――動揺させて変装を引っぺがす?」
「フェルシュルグは簡単に動揺するのかい?」
「うっ」
多分無理。
あの時まで声一つ出さなかったんだし。
私と対峙したあの時は多分想定外の事によって酷く動揺したから、大した事は無いとはちょと思ったけど、実際フェルシュルグが強敵である事には変わりない。
少なくとも簡単に動揺して変装を解いてしまうなら、姿を常に変える事なんて怖くて出来ない。
常にあの姿でいられる程度の精神力があると考えた方が良い。
「どうしよう。対策が思いつかない」
「……取り敢えず最終的にしなければいけない事を整理しようか」
私が困った顔のまま頷くとお兄様は苦笑して私の頭を撫ぜてくれた。
こういう些細な温もりが嬉しいんだよね。
私ってブラコンだなぁと思うんだけどさ。
「私はマリナートラヒェツェ攻略に置いてフェルシュルグが一番の脅威だと思ってる」
「そこは僕もそう思っているよ」
「だからフェルシュルグを排除するか、排除出来なくても最悪遠ざけたい」
「手助けをされないように、だね?」
「そう。だからフェルシュルグの身元を探ったし、正体を知りたかった。……結果としてフェルシュルグはゼルネンスキルを持つ平民だったという事が分かった」
そして私を【属性検査】の時害した男と同一人物ではないかと思っている。
「お兄様は本来の色彩を纏っているフェルシュルグを見る事ができれば分かりますか?」
「――分かる。あの時僕とダーリエは下からのぞき込んだ。だからフードの下の顔がはっきり見たからね。……珍しい取り合わせでもあった事だし」
気持ちは分かる。
金の銀の眸ははっきりって珍しい。
猫じゃないけどオッドアイの人を私は初めて見た。
しかもどっちも神々の貴色だというのだから珍しいなんてモンじゃないはずだ。
「(そういえば、彼の場合【神々の愛し子】と言われないのかな? 少なくとも片目は髪色と同じ神の貴色を纏っているのに)」
半端故に【神々の愛し子】とは呼ばれなかった?
あれだけの精霊が彼の周囲を飛び交って言うと言うのに。
あれだけ精霊に愛されていると言うのに。
本当に彼は【愛し子】ではないと言うのだろうか?
「――けど【神々の愛し子】を憎悪しているのだし、彼がそうである可能性は低い、か」
「ダーリエ?」
「……何でもありませんわ、お兄様」
少なくとも今考えなければいけない事じゃない。
頭の片隅にでも置いておこう。
「フェルシュルグが私を害した男と同一人物であると分かれば、引き離す事は容易いよね?」
「そうだね。上手くいけば指示した相手としてマリナートラヒェツェまで手を伸ばす事が出来るかもしれない」
「家同士のやり取りはお父様の領分だから、私達は少しでも多くの証拠を見つけ出して、提示する事」
「……せめてフェルシュルグがゼルネンスキルを使用している事を証明出来れば、いいかもしれないな」
「スキルを使い姿を変えてラーズシュタインに居た理由を問う事が出来るからだよね?」
「うん。贅沢を言えば姿が変わる所を押さえたい。ゼルネンスキルは違う所に使用しているという言い訳を塞ぐために」
「……やっぱりフェルシュルグのスキルをどうにか解析しなきゃいけないって事かぁ」
「発動条件や強引でも対処する方法が欲しいって事だからね。……手を出す大義名分も必要だし、ね」
あー確かに。
幾らラーズシュタインの家格が上でフェルシュルグが平民だったとしても、強権発動は不和の元にしかならない。
最低此方には動かざるを得なかった理由がある事を対外的に示さないといけない。
権力を持つという事は、私情で、私的な理由で権力を無暗に行使してはいけないという事だと思っている。
高い権力はそれだけで一つの力だから、私達の意志一つで多くの人を不幸にする事も出来るって事を忘れちゃいけない。
忘れれば貴族主義の人達と同じ所まで堕ちる事になる。
そんなの絶対に嫌!
「フェルシュルグのゼルネンスキルは光精霊ありきなのは分かってるんだけどなぁ」
「それを証明出来るのがダーリエしかいないから、証言能力としては弱いのがネックだな」
「(本当はシュティン先生もだけど。流石に自分以外のスキルをばらしちゃダメだしね)――まだ半人前だしね、私」
一応【属性検査】によりラーズシュタインの家の者だという事は認識されたけど、半人前である事には違いない。
デビュタントもしていない小娘程度の扱いなんだよねぇ私。
まだ社交界に一度も顔を出していないのも痛い。
そういう意味では私よりもタンゲツェッテの方が信用される。
ある程度のミスや間違いが許される反面、信頼という意味では半人前程度のモノしかもらえない。
普通に考えれば仕方ない事ではある。
まさか五歳かそこらの子供に大事な案件を任せたり、その発言を最重要視したりする事が出来る訳がない。
不合理な子供の意見に惑わされて取り返しのつかない事になったら、それこそ大問題だしね。
だからそこを責めるのはお門違いなのは分かっている。
分かってるけどもどかしかった。
とこの時点では思っていたんだけど、次にお兄様の言った言葉で一時的にそこらへんの葛藤が吹っ飛んでしまった。
其処まで考えていなかったから正直、驚きまくったし、この時私は相当間抜けな顔をしていたんじゃないかな、って思う。
「逆に言えば僕やダーリエはまだミスをしてもある程度は許される立場にいるって事。だからこうやって子供だけで計画を立ててもお父様達は辞めろとは言わない。大局には大して影響がないからともいうけれどね」
「あっ! ……言ってしまえば私がフェルシュルグをどう排除しようともタンゲツェッテを排除しようとも問題はないって事になる、んだよね?」
「マリナートラヒェツェに関しては最終的にはお取り潰しになる可能性が高い。それだけの事をしているからね、あの家は」
「最終的な扱いが決まっているから口を挟まず見守っている、って事?」
そう考えれると笑えないんだけど?
多分私は今口元が引き攣ってます。
幾ら貴族の家に生まれて貴族の常識を学んでいるとは言え、地球での庶民意識は抜けない。
だからか「当たり前」だという思う私と「こわっ!」と思う私が混在している。
お兄様は苦笑しているけど然程驚いていないし。
……これが貴族社会という奴なんですね。
以後気を付けます。
これから私も生きる世界だもんね。
「そもそも其処に気づいていなかったのかい?」
「……うん。考えてみれば子供の私に好きにしろなんて言う訳ないよね。今の今まで忘れてた」
地球でそれなりに生きていたからか、私は時々自分が今何歳なのかすっぽ抜ける事がある。
今回だってそうだ。
まだ五歳かそこらの子供の計画なんて笑って聞き流される程度のものだし、貴族だからと言って生まれが違うだけで子供が全員天才になる訳じゃあるまいし、英才教育だって限度がある。
こうしてお兄様とリアと私しかいない空間で今後の計画を立てられるって事がまず有り得ないって事をすっかり忘れてた。
……お兄様もリアも私みたいな反則染みた存在じゃないのに賢いし子供と話している気分にあんまりならないから、気にならなかった。
けどよくよく考えてみれば現状が既に色々見逃されている異常だと言う事に私はよくやく思い当たった。
「(最悪お父様達は私達がどうするか見極めている? 貴族としての資質を探るために放置している、可能性を否定できない)」
お父様はあまり貴族らしくないし、立案は貴族よりも平民よりな意見である事が多い。
けどお父様はこの国の宰相なんだ。
貴族の中でも上位に存在する公爵家の当主でもある。
そんなお父様が貴族としての思考を把握できない訳がない。
貴族の在り方を知り、それでも平民としての思考を取り入れているだけなんだ。
子煩悩で家族を愛していたとしても、それはそれ、これはこれって割り切れるはずだ。
それが出来なくて国を動かす宰相なんて地位にいる事が出来る訳がない。
今回私達は好きしても良いと思われている……だって大局には影響がないのだから。
多分マリナートラヒェツェは今回私達の「教材」にされている。
人道的な慈悲は一切鑑みられる事は無く、ただ丁度良いから、という理由で選ばれた「教材」
どうしようと末路は決まっているから私達は見守られている。
普通に不敬罪やらで罰せられるよりも扱いは悪いと言えるかもしれない、と今分かった。
「此処でマリナートラヒェツェに対して同情の一つでもすれば『地球』で生きていた人間らしいのかもなぁ」
「つまり同情はしてないんだ?」
「してない。だってそれが貴族だし、自業自得だから。私と違って貴族として生まれ落ちた上、他の考え方を知らない。だと言うのに自分から滅亡の道を選んだ。そんな相手にどうして同情しなければいけないのさ。全部自業自得だよね?」
喧嘩を売って来たのはあっち。
だから私は負けないように考えて、相手の負けた後の事なんて考える必要は無い。
負けた側がどうなるか、なんて分かってて売ってきた喧嘩なんだから。
私なんかよりもそういう事に精通していて、それでも喧嘩を売って来たのだから、私達は粛々と買うだけの事。
「私のする事は変わらないよ。お父様達がほぼ介入してこないと分かったから……好きしても良いってわかったってぐらいの意味しかないし」
「本当にダーリエは強いな。僕はこれに気づいた時、父上達の思惑に薄っすら恐怖を覚えたのに」
「私も怖いよ。ってかお父様達今回ヒントも無かったし。最後まで気づかなかったから何を言われていた事やら」
少なくともシュティン先生には相当嫌味を言われそうだし。
お父様も「もう少し頑張ろうね」くらいは言われそうだし。
計画が上手くいっても嬉しくないよ、それ。
「幸いにも私も気づく事が出来た。――だから問題無いよ。ただお墨付きをもらっただけ」
思う存分、子供らしく暴れて良いってね?
私は清々しい笑顔を浮かべるとお兄様も苦笑から勝気な笑みに変わる。
「まぁ売られた喧嘩は買わないとな」
「そういう事」
だから問題はない……うん、問題はないよ?
ちょっと貴族って云うモノが何かを再認識しただけだしね。
話を戻しましょう。
貴族について考えていたら怖くて夜も寝れなくなります。……まぁ冗談だけど。
「大義名分を作り出すか、誰にも知れずにフェルシュルグを排除する方法かぁ」
「此処は私が……。」
「「却下」」
リアさん、その物騒な思考気を付けましょう?
え? 主従そっくりですか? 誉め言葉ですよね、それ。
とまぁお遊びはともかく、いい加減道筋くらいはたてたい所なんだけど。
私は頭を一度リセットするために席を立つとテラスに出た。
後ろからリアが付いてくる気配を感じつつ、空を見上げる。
「……星は何処の世界でも同じなんだなぁ」
「そうなのですか?」
「うん。満天の星空は変わらない。まぁこの世界には『星座』とかはなさそうだけど」
導の星である北極星くらいはあるかもしれないけど。
方向的にはこっちかな?
私は北の方を見上げると、一等輝く星を見つける。
あれが北極星かな?
動かない星・北極星。
船旅に置いて動かない星は方向を定めるために必要であり、北極星は導の星として知られていた。
光の等級に置いても二等星としてかなり強い輝きを発する星。
星に詳しくは無い人でも知る有名な星・北極星。
この世界では一体何と呼ばれているんだろうか?
それともこの世界では動かない星は存在しないのかな?
「『十二星座』『星占い』『ギリシャ神話』」
「全てチキュウという世界の言葉ですか?」
「うん。全部星に関する単語かな? いや『ギリシャ神話』はちょっと違うけど」
地球では星は人が眺めたりする反面研究される代物でもあった。
月ですら人が足を踏み入れる事が可能だった世界。
気軽に一般人が行き来する事は不可能だったけど、宇宙という存在を認識し、地球が球体である事すら解明した科学というモノが発達した世界。
この世界とは全く違う進化を果たし、違う理によって時が流れる世界。――私にとってもう一つの故郷。
星は地球において様々な物語を生み出した存在だった。
私は星が好きだった。
研究対象とかじゃなくて、ただ眺めるのが好きで、星座や神話の逸話が好きだった。
だから夜空をよく見上げていたし、星を見るために夜中に家をこっそり出た事だってあった。
「星を見る施設なんて通いすぎて受付の人と顔見知りになったりしたくらいだし」
「星を見る施設、ですか?」
「うん。向こうにはあったんだ、そういった施設が。劇場くらいの広さがあって、時間になると真っ暗になって――」
私は唐突に思い浮かんだ事に思わず説明を途中で辞めてしまう。
不思議そうな心配そうなリアとお兄様には悪いけど、今私は何かを思いついたし引っかかった。
一体私は何に引っかかった。
そして私は今何を思いついた?
星見る施設――闇と光で構築された空間。
劇場程度の広さ――我が家のホールもまたかなり広さを誇っている。
時間になると真っ暗――夜空を模した闇の空間。
フェルシュルグのスキルはどうして私に効かなかった?
私に『光信号』を発した時、それは何処でどうやって防がれた?
私にとって『闇』とは『闇属性』のイメージは?
「(私の考えがあっているのならば、もしかしたら密かにフェルシュルグから光精霊を引き剥がす事が可能かもしれない)――お兄様、リア」
色々作らないといけないモノがある。
場所の提供に相応しい舞台も用意しないといけない。
これが本当に成功するかは分からない。
けど……。
私は見習いとは言え錬金術師なんだ。
必要なモノがあるなら作れば良い。
相応しい舞台が必要ならば用意ですれば良い。
それが私には出来る。
成功するかなんてやってみないと分からない。
けど今はそれでよい。
だって私はまだ子供なんだから。
子供の特権を最大限に使って何が悪いというの?
私は顔を上げるとリアとお兄様を見据える。
もしかしたら私は今、笑っているかもしれない。
けど仕方ない。
ようやく、道筋が見えたのだから。
けれど、まだまだ立案時点だから。
まずは協力してくれる心強い味方に意見を求めよう。
突拍子も無くて、けど成功したらこれ以上無く満足感を得る事が出来る計画が成功するか否かを。
最終的には計画を知らない人も驚く結果になるかもしれない。だって……――
「――我が家のホールに星空を作り出してはみませんか?」
鮮やかに、けど輝かしい満天の星空を。
――……私以外には彼ぐらいしか思いつきもしないモノを創り出そうとしているのだから。
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