第59話 見つめる先には

 日は既に傾いている。西日に照らされたキャメロンが、思い出したように声を上げた。


「今回は振り回しちまって悪かったな。――つぅかよ、よく考えたらあいつの悪逆非道が童話になる訳ねぇんだよな。誰が読みたいんだそんな救いのねぇ物語」

「えぇー。最初はいいアイデアとか言ったのにっ!」


 けろりとするガロンに、私は猛抗議をした。

 誰のために頑張ったと思っているのだ。まぁ、たまたま古書店の店主から話を聞けただけで、大して頑張ってはいないのだけれど。


「これでいいの? ガロン」

「これでいい。もともと俺様はあいつの最期を知りたかっただけだしな。ヘトロって奴の活力を見てりゃ、俺様たちが手を貸さなくても、作られたレンテの物語は、そのうち童話になるだろうさ」


 悟ったようなガロン。ガロンが納得しているなら、無理に童話をすることもない。

 きっとレンテも、自分の最期を戦友に看取ってもらえて喜んでいることだろう。


「ま、何にしても、お祭りは楽しかったよね。毎日お祭りならいいのにね」

「俺はほとんど楽しめてないんだが……」


 茜色の塊を眩しそうに見上げて、ヴェルトが言う。


「そうだよな。祭りってのは楽しむためのもんだよな。そこに変な思惑はいらないんだ」

「童話と一緒だね」

「お前に言わせりゃ何でも童話と一緒だろうが」


 そう言って久しぶりにヴェルトは笑った。


「んじゃ、今日失った分も含めて、何も考えずに祭りを楽しませてもらおうか。リリィ、お前なんか欲しいもんあるか?」


 私は力強く答える。


「童話!」


 祭りの屋台を見つめるレンテ像が、今はどこか優しく微笑んでいるように見えた。



第六章 了

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