カインズ王国の王妃になる少女 4
グニーは悩んでいた。
というのも、婚約者であり、もうすぐ結婚する事になっているレイアード・カインズの意外な一面を見てしまったからだった。
妹であるフェール、キリマ、ナディアの事を語り、表情を変えていたレイアードは、とてもじゃないけれども、普段の様子からは想像が出来ないものであった。
あのレイアードは、夢だったのだろうかと思えるほど、グニーの前にいるレイアードはいつも通り、”完璧な王太子”としてそこにあるのだ。
王と王妃。
夫婦になる関係。
だけれども、”完璧な王太子”としての姿以外の姿がレイアードにあるというのならば、グニーは知りたいと思っていた。
夫婦になるからこそ、政略結婚なのだから隠し事はあるだろうが、それでも、歩み寄りたいと思っていた。だからこそ、グニーは、いざ、切り出した。
「あの、レイアード様。私、この前、聞いてしまったのです」
「聞いてしまった? 何をだい?」
「レイアード様とライナス様の会話を」
グニーがレイアードに向かってそう告げれば、レイアードは固まった。
今までに見た事もないような表情に、グニーは思わず笑ってしまう。
「その時、レイアード様は普段と様子が違っておりました。私はそのことに驚きはしました。でも……そういうレイアード様を見たいと思ってもいます」
グニーは正直に、自分が何をどんなふうに感じているのかをレイアードに伝えようと思った。
だからこそ、驚いたように黙っているレイアードの赤目を見つめる。
レイアードほど美しい異性の目をまっすぐに見つめる事はグニーにとって恥ずかしかった。だけれども、向き合いたいからこそ告げるのだ。
「私はレイアード様の事を何でも知りたいのです。貴方は私の前で完璧であろうとしているように思えますが、私は……そうではないレイアード様の事もきちんと見たいのです。レイアード様の事をきちんと知った上で、貴方の正妃としてありたい。なので……ライナス様と話されていたような一面を、私の前でも見せていただけませんか?」
夫となる相手の事をグニーは知りたいと思っている。
だからこそのまっすぐな言葉。
レイアードがどのような反応をするのだろうかと、グニーははらはらしていた。怒ってしまわれたらどうしよう、などと考えていたわけだが、レイアードは予想外の反応をした。
「……見られていたのかい」
と恥ずかしそうに、片手を顔に当てた。
その姿に、今まで見た事がない表情に、少しだけグニーはきゅんとした。
「……私はグニー様の前で完璧にしようとしているつもりはなかった。ただ、私は妹や弟の事がとても大切なのだ。妹の事も弟の事も可愛いと思っている。私にとって大切な弟妹達だ。でも、王太子として、そのような姿を外に見せるわけにはいかないと思っていたのだ。……ライナスにはグニー様にこのような姿を見せたら引かれるといわれていたが、引いたかい?」
「いいえ。確かに見てしまった時は普段との違いに驚きはしましたが、妹様や弟様を大切に思うのは良い事だと思いますわ。家族を大切にする気持ちは私にもわかりますもの。なので、その、ライナス様に話していたように私に話していただけると嬉しいですわ。私はレイアード様と仲良くなりたいのです」
グニーは驚いて、混乱した。それは、普段の様子とレイアードが違ったから。だけれども、だからといって引いたりはしていない。レイアードの完璧じゃない一面を知って、グニーは嬉しいと思っていた。完璧な王太子であるレイアードへのあこがれはあったけれども、完璧すぎて人間味がないように思えていたから。
だからこそ、レイアードのそういった面を知られたのは、グニーにとって嬉しい事だった。
グニーの言葉にレイアードは、
「そうか、それは嬉しい」
と心からの笑みを零した。
その心からの笑みに、グニーはまた胸を高鳴らせた。
それから、第二王子であるライナスには「こんなに妹の事が煩い面を知っても引かないとか、義姉さん心広いな!」とか言われたり、レイアードは「フェールが~」「キリマが~」「ナディアが~」「ライナスが~」と弟妹達の話ばかりするようになっていたが、グニーは寧ろカインズ王国でのこれからの暮らしが楽しみで仕方がなかった。
(王妃になった後もこんな楽しい生活が続くのかしら?それは楽しみだわ。それに、姫様たちとも仲良くなりたいわ)
三人の姫君はレイアードの妹が大好きな一面は知らないらしいというのを知って、益々面白くなっているグニーはそんなことを思っていた。
それに加えて、『破壊神』ヴァンの魔法についても知っていきたい。そして、召喚獣を持ってみたいという願望もある。沢山のやりたい事や楽しみがある。そのやりたいことや楽しみたいことをなるべく叶えていこうとグニーは決意するのだった。
それから数年後、カインズ王国に召喚獣と契約をした王妃が誕生するのは別の話である。
―――カインズ王国の王妃になる少女。
(少女は王太子と会話を交わし、距離を縮めた。そして少女は後に王妃となる)
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