181.二人の関係について
ダーウィン連合国家の公子、ゾンド・ヒンラはヴァンの力を目の当たりにして——またヴァンの召喚獣たちに脅しをかけられて逃げるように去って行った。そもそも幾らダーウィン連合国家の公子であろうともあれだけの召喚獣を従えた存在を敵に回そうとはまず考えない。
召喚獣たちとのお話合いから、ヴァンにビビってしまっていたので即急に帰っていった。おそらく、ダーウィン連合国家で、『火炎の魔法師』の弟子は本当にやばいという事実が改めて広まっていくことだろう。
さて、互いに気持ちを伝えあった二人はと言えば――――、
「俺の誕生日頃に婚約発表? 本当に? 俺、ナディアと逃げなくていいの?」
「ええ。逃げなくていいのよ。言ったでしょう。ヴァンは凄いから大丈夫だって」
二人でのほほんとそんな会話を交わしていた。
ナディアに口づけをされて戸惑っていたヴァンだが、ナディアから大好きといってもらえて、もし一緒に居られなさそうならナディアをさらってどこかで暮らそうなどと物騒な事を考えていた。……実際にそれが出来てしまう能力がなんと恐ろしいことか。
とはいえ、元々これだけの力を持っているヴァンを繋ぎ止めるためにナディアと婚約をさせることを前向きに考えていたのもあって、もちろんすぐに二人の婚約話は認められた。《ファイヤーバード》のフィアの上でやらかしてしまった二人の姿はすっかり目撃されており、召喚獣の姿に貴族たちも恐れおののいていたので止める声はなかった。
国王であるシードル・カインズと王太子であるレイアード・カインズが「ナディアを攫わせるか」と貴族達を説得していたのも彼らが黙った理由の一つであるが。
ほのぼのと会話を交わすナディアの腕には、ヴァンから誕生日プレゼントとして渡された腕輪がある。
(……この腕輪も私を守るためのもの。そして魔法を放つことも出来るもの。本当にヴァンは心配性だわ)
誕生日の当日、プレゼントを渡してから自分の気持ちを伝えようとしていたらしい。だけど、ヴァンはゾンド・ヒンラがナディアが嫌がっているのに手を伸ばそうとしていたというのもあって、プレゼントを渡す前に上空での告白劇をしてしまったのであった。
「何だか信じられない気分だ」
「私と、婚約出来ること?」
「うん……それもだけど、ナディアが……俺の事、好きだって言ってくれること」
ヴァンにとってナディアは初恋の王女様。手が届かないけれども、笑っていてほしいから守ろうと決めた大切な人。――その人と婚約をするとか、その人が自分を好きだと言ってくれるとか、そんな可能性を一切考えていなかった。だから、何だか夢みたいだと思ってならない。
「私も……ヴァンが私を好きになってくれたこと、夢みたいだと思うわ」
「なんで?」
「だって、ヴァンは凄いもの。召喚獣を従えて、魔法を使えて、私よりもずっと凄くて……そんなヴァンが私を好いていてくれることが本当にびっくりしたもの」
夢みたいだと、ナディアも思う。
自分の事を好きだといってくれること、召喚獣たちが守ってくれること、性能がいくつもついているような国宝級の魔法具をプレゼントしてくれていること———全て、本当に自分でいいのかと思うようなこと。
「やっぱり、私はヴァンに相応しくありたいからもっと頑張るわ。……ヴァンを取られたくないもの」
「……ナディアっ」
ヴァンを取られたくないと告げて恥ずかしくなったからかそっぽを向くナディア。
そしてそんなナディアの態度に嬉しそうな顔をするヴァン。
そんな二人の側に侍っている召喚獣たちは、
『……本当、主いちゃつきすぎだろ。俺の背中でいちゃいちゃしてたし。面白いけど』
『至近距離でご主人様とナディア様が結ばれるところが見れたのでしょう? 羨ましいですわ』
『そうだよ。僕もご主人様がキスされて落ちそうになるところ見たかった』
それぞれ感想を零していた。
その場にいるのは《ファイヤーバード》のフィア、《ブラックスコーピオン》のカレン、《スカイウルフ》のルフである。フィア以外は、あの告白劇の場に居なかったのでそれを見たかったと不満をもらしている。
「俺も、ナディアを取られたくないから頑張る!」
「大丈夫よ。私はヴァンから離れる気ないもの」
互いがどんなふうに感じているかというのを確認し合ったのもあって、ヴァンもナディアも召喚獣やナディア付きの侍女たちの前にも関わらず躊躇いもせずに口に出していた。
それからしばらくして、『火炎の魔法師』ディグ・マラナラの弟子であるヴァンとカインズ王国の第三王女であるナディア・カインズの婚約が結ばれた事が国内外に正式に発表された。
―――二人の関係について
(互いの気持ちを伝えあった二人は、また距離を縮め、婚約は正式に発表された)
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