160.突入について 2

 さてヴァン、キノノ、フロノス、ミィレイアが突入して好き勝手にしている頃、誘拐された被害者たちの救出を頼まれた《サンダースネーク》のスエンは、小型化した体のまま、するすると進んでいく。

 建物の中にいる者達は、外から超音波を放ってきた《アイスバット》のスイ、また建物の中で好き勝手しているヴァン達の対処に追われており、スエンの存在には気づいていないようであった。



(さて、攫われている者達はどこにいるのでしょうか。小生、人助けはあまりしたことはありませぬから上手くいくかわかりませんが、死人を出さないほうが良いという話ですから気合いをいれましょう)



 スエンはそういう思考をする。ヴァンの召喚獣の中でも特に冷静な性格をしているスエンである。これが好戦的な性格の召喚獣であるのならば、ヴァンと一緒に突入することを選んだだろう。



 するすると、移動しているスエン。

 移動しながら神経を研ぎ澄ませて、攫われてしまったものたちがどこにいるのだろうかと思考をする。

 そして周りの声を聞きながらさらわれているものがどの場所にいるか把握したスエン。頭の回転も中々速い。



 スエンは、その場所まで行くと慌てふためいている声が聞こえてきた。




「大きな音がなってた!」

「何が起こっているの!?」



 丁度、スエンが見つけたのは浚われた女性たちがとらえられているエリアだったらしい。



 スエンにとって、正直人間というものはどうでもいい存在である。契約主であるヴァンを除いてはどうでもいい、そう思っている。ヴァンといるのはスエンにとって楽しいことで、そのために興味がない人間さえもスエンは助けようとしている。



(本当に、小生をこのようなことに使うなど主様以外しないでしょう。だからこそ、主様は面白い)



 強大な力を持つ召喚獣。それを常に呼び出すことはよっぽど魔力がなければ出来ないことだ。ヴァンは強大な魔力を持つ、二十匹もの召喚獣を引き連れている。だからこそ、こういうことに召喚獣を行使できる。



 スエンは、とらえられているもののいる場所の目の前に向かうと、見張りをまず自分の得意とする雷で気絶させる。その様子を見ていたとらわれているものたちが唖然としているが、スエンはその様子を一切気にしない。



『さて、ナディア様のご友人であるイクノ・オーラン、主様の命により、貴方を助けにきました。他の者達はついでに助けるので出てください』



 鍵穴を開けて、スエンはそう告げた。相変わらず彼女たちは唖然としたままだが、そんな状況でスエンは男たちがとらえられている方の鍵穴もあける。

 力を持つ者。明らかに誰かの召喚獣でしかない蛇を前に何人かは警戒や驚愕を向けている。そんな中、スエンに話しかけたのはイクノである。



「貴方様は……ヴァン様の召喚獣でしょうか。今回は助けていただきありがとうございます」

『そうです。主様の召喚獣です。そしてお礼は必要ありません。主様はナディア様に望まれて行動しただけであり、小生も主様の命に従っただけですから』



 スエンは、ヴァンに畏怖と尊敬の念を抱いている。人間でありながら圧倒的な力を持つ存在。そんなヴァンの命だからこそスエンは聞いている。スエンはヴァンとじゃなければ契約さえも結ばないし、いう事さえも聞かない。ヴァンの言うことを自分が聞きたいから聞いているのであって、その結果誰かを救ったとしてもお礼を言われなくてもいいと思っている。そもそもお礼を言われて嬉しいと思うほどの関心はない。



「そうですか……あの、大きな音はヴァン様が……?」

『主様と、主の姉弟子の仕業ですな。それよりも早くこの場を抜け出しましょう。主様たちが外を引き付けている間に抜け出しましょう。なるべく音を立てずに小生についてきてください。小生はなるべく貴方たちを守りますが、小生も主様もナディア様の友人さえ助けられればそれでよいのですから』




 冷たいスエンの声に、皆が青ざめた顔をする。それが本気だとわかるから。そして英雄の弟子であるヴァンがそういう人間であることを召喚獣のスエンの言葉からも理解出来たから。

 その中で、ヴァンの幼馴染のビッカは、ヴァンの召喚獣とスエンの事を見据えている。




(ヴァンは、私のこと心配はしていないのかもしれない……ヴァンの召喚獣、王女様の友人のことしかいっていない。ヴァンは本当に王女様のことを……そして私のこと、気にしてないんだろうか。そして、私は……ヴァンの側にはもういれないのだろうか)



 ずっとずっと目を背けていたこと。ヴァンは周りに流されているだけだと思い込んでいたこと。その事実が、ヴァンの召喚獣を見て余計に感じられていた。そんなビッカの寂しさとか、複雑な気持ちとか、そんなものスエンには一切関係がないので、ビッカのことは放置してとらわれている人たちを誘導していくのであった。




 ――突入について 2

 (突入したガラス職人の息子の召喚獣、スエンはとらえられたものたちを助け出すのであった)

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