159.突入について 1
ヴァンはナディアが悲しむことがないようにしたいというその一心で、誘拐犯たちが被害者たちを集めている建物までやってきた。
ヴァンは《ナインテイルフォックス》のキノノの上に騎乗している。それとは別に《サンダースネーク》のスエン、《アイスバット》のスイも共に来ている。そんなヴァンの隣では、移動するだけでも少しだけ疲れが見えてしまっているフロノスもいる。
『大丈夫?』
「ええ、大丈夫よ、ミィ」
答えながらも、やっぱりヴァンという存在は規格外であるということを理解する。ヴァンは召喚獣たちと共に戦えるだけの力を持ち合わせている。召喚獣たちがいなかったとしてもおそらくその魔法があれば何も問題がない。ヴァンは本当にいろんな意味でおかしいとフロノスは改めて感じてならない。
「ヴァン、この建物に攫われた被害者たちがいるの?」
「そのはず。キノノが魅了して聞き出したことだし間違いはないだろう」
『うふふ、わたくしはしっかりあの雄を魅了しましたの。だから間違いはありませんわ。さて、主様(あるじさま)、いかがいたしますか』
キノノは嬉しそうな声をあげている。これから敵の居る場所に向かうという場面において、ヴァンの召喚獣たちは一切負けることを考えていない。それどころかこの状況を楽しんでいる節さえもあった。
そのことにフロノスは頼もしいと感じると同時に恐ろしいとも感じていた。
「もちろん、このまま突っ込む。そしてナディアの友人を助ける」
『あらあら、主様(あるじさま)、他の者はどうなさるの?』
『小生は全て助けた方が良いと思います』
『僕も、その方がナディア、喜ぶと思うよ!』
ヴァンはナディアの友人を助けるとしか言わなかったが、キノノ、スエン、スイはそれぞれ口にする。その言葉を聞いて「全員さっさと助ける」とヴァンは告げる。
「ヴァン、なるべく誰も死なないように動いた方が良いわ。だからまずは、誘拐されたものたちの安全を考えるべきだと思うのだけど……」
「混乱させてその隙にさっさと助ければいいんじゃない?」
「それでもいいけど、誰も殺されずに出来るの?」
「んー、なるべくする。とりあえずナディアの友人は最優先で助ける」
本当にナディア以外はどうでもいいといったぶれない様子に、フロノスは呆れるよりも関心してしまう。ヴァンという存在は本当に何処までもぶれない。
王宮魔法師の弟子になろうが、有名になろうが、全く変化がない。ヴァンの心には、この国の第三王女であるナディア以外存在していない。
「よし、スエン、お前は人質たち助けにいってこい」
『わかりました。主様』
「で、スイはこの場を混乱させろ」
『わかった、ヴァン!』
「キノノは俺と一緒に実行犯をとらえたりとか、そういうのな」
『了解ですわぁ』
ヴァンは目の前の建物を見てそれぞれの召喚獣に命令を下す。
「ヴァン、私はついていっていい?」
「うん」
正直、ヴァンについていけるかといった不安はあるものの、この弟弟子を一人でいかせるのは……と思っているフロノスはヴァンについていくことになった。
さて、その後、《アイスバッド》のスイが本来の姿へと戻る。巨大な青い蝙蝠は、その口から超音波を発した。それは、浴びたものを破壊するような効果のある力のある超音波。人の精神に影響することも出来るような力を持っているそれをスイは躊躇いもせずに行使した。
それにより、建物には大きな衝撃が加わる。
建物の中にいた者達はその巨大な蝙蝠の召喚獣を前に、慌てたような表情を浮かべていた。
そして混乱している中で、ヴァンたちは建物の中へと侵入したのであった。
緊張に表情を硬くしているフロノスとは違って、こんな状況でもヴァンはいつも通りである。全く顔色を変えないヴァンを見て、フロノスの心は落ち着いていく。
(ヴァンがこれだけ落ち着いていて余裕があるっていうことは何も問題はない。私はディグ様の一番弟子で、ヴァンの姉弟子なのだから大丈夫、出来る)
と自分に対しての励ましをしながらもフロノスはヴァンについていく。
侵入者に気づいて向かってくるものたちはいたものの、それもすぐにヴァンとキノノの手によって殺されるか捕獲されるかしていた。中には仲間が一瞬で殺されたのを見て、慌てて降伏してくるものだっていた。
『ねぇ、フロノス。ミィなんで呼ばれたの? ヴァンだけでなんとかなりそうなのに』
「そうかもしれないけど……」
思わずフロノスの召喚獣であるミィレイアがなんで自分は呼ばれたのだろうと思うぐらいには、ヴァンとキノノはさっさと自分たちだけで対処をしていた。
フロノスも、私ついてこなくてよかったのかもしれないと思いながらも慌てて首を振る。
(ヴァンだけでいかせたらどうなるか分からないもの。しかも他国もかかわっているのに……)
他国もかかわっているような案件でヴァンだけ行かせてどうなるか分かったものではないと思っているフロノスであった。
―――突入について 1
(場所を突き止め、すぐさま彼らは突入する)
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