156.罠の結果について
「あ、かかった」
パーティーを終えた翌日、ヴァンはぽつりとつぶやいた。
その言葉に作業をしていた手を止めたのはフロノスである。
行方不明者の捜索は続けられているが、現状まだ結果は出ていない。フロノスは、王宮騎士団や王宮魔法師が動いておきながら今まで尻尾を出すことがないことがないことに誘拐犯たちがどれだけ強大な存在なのだろうと頭を悩ませていた。ただ、ヴァンやディグが動いているのでどうにかなるのではないかとも思っていた。
さて、そんな中でのヴァンのつぶやき。その呟きと同時に、ヴァンは立ち上がって、傍に居るフロノスに何も言わずに出ていこうとする。
「待ちなさい、ヴァン、何がかかったの?」
「魔法、使われた」
「……魔法?」
「うん。誘拐している連中、びっくりするぐらい痕跡残さず浚ってたから。何か魔法かなと思って。魔法を使ってるだろうと思ったから。だから、魔法を使ったらわかるようにしといた」
「……そう。ディグ様に言わずに行くの?」
「師匠、今いないし」
「……私も行くわ。伝言はきちんと残しておくから、ちょっと待ちなさい」
フロノスはそういって、ヴァンを少しだけ待たせると王宮騎士団の方に伝言を頼んで、ヴァンと一緒に王宮を出た。
「ヴァン、罠にかかっているのはどのあたり?」
「向こう」
「魔法かかったのわかっただけ?」
「いや、分かったと同時に出来たら捕まえられるようにはしてた。そこまではどうなってるかわかんない。あと、召喚獣たちに向かわせてる」
そういう風に魔法を組んでいたということなのだろうが、フロノスにはどうやったらヴァンと同じことが出来るのかさっぱり分からない。理解出来ないことをさらっとこなしてしまうのは、ヴァンが天才であるが故なのだろうか。
フロノスは、ヴァンを知れば知るほど天才というものを実感する。
(あとでヴァンにどういう風にやったか聞こう。私に理解できるか分からないけれど、でも知ろうとすることは勉強になる。私が強くなるための……。ひとまず、これから誘拐犯と対峙する際にヴァンの足手まといにならないようにしなければ)
フロノスは一心に駆けていくヴァンの後をついていく。王都では、『火炎の魔法師』の弟子が王都をかけていくことに対して周りは騒いでいるが、ヴァンは一切気にしない。フロノスもヴァンについていくのにせいいっぱいで 周りのことを見ている余裕は一切なかった。
「フロノス姉、あそこ」
「人が捕まってるわね。そしてあれはヴァンの召喚獣ね……」
ヴァンが指さした先では、ヴァンの召喚獣によってとらえられている一人の男がいた。その周りには、《サンダースネーク》のスエンと、《アイスバット》のスイが揃っている。召喚獣たちの手によってとらえられている男は、黒装束に身を包んでいる。
明らかに怪しい男を前に、ヴァンは笑った。
ヴァンの頭の中には、これでナディアに喜んでもらえるとかそういうことだけだ。ナディアの友人を助けて、ナディアに喜んでもらおう。それしか彼は思わない。
『ヴァン、僕らこいつとらえたよ』
《アイスバット》のスイがヴァンに気が付いて、ヴァンとフロノスを見る。
「よくやった」
ヴァンはそういって笑って、男に近づく。
「お前、何処から来た?」
ヴァンはそう問いかけるが、男はこたえられない。それもそのはずだ。自殺防止のためにも口が聞けないように召喚獣たちがしていたからだ。
『主様、喋れないようにしておりますよ』
「あ、そうなのか。喋れるようにしたらどうなる?」
『舌をかんで自殺する恐れもあります』
「あー、ならキノノ呼ぶか」
ヴァンはそういって、《ナインテイルフォックス》のキノノを呼び出す。
九尾の狐。黄色い体毛を持つ美しい狐がその場に姿を現す。
『あら、主様(あるじさま)、わたくしに何かごようかしら』
「キノノ、こいつ、魅了しろ」
『あらあら、主様(あるじさま)の敵ですわね。では、このわたくしがこの者を魅了してみせましょう』
キノノは狐だ。異界でも強大な力を持つ狐。巨大な力を持つ狐は変化の術を持つ。キノノは美しい女性の姿へと変化をする。それはこのカインズ王国では見ることのない浴衣のような和風の装束を身に着けている。金色の髪の美しい女性。
「え、人間の姿になれるの?」
「うん。強い狐とか、狸とかは出来るらしいっては聞いた」
フロノスが驚いている横で、ヴァンは平然と答える。強い力を持つ召喚獣というものは、この世界にあまり呼び出されることがない。そういう召喚獣と契約が出来るものがまず少ないからだ。だからフロノスが驚くのも無理がないことだ。
(ヴァンといれば今まで分からなかった召喚獣についてがどんどん発覚していく気がする)
そう思いながら、ヴァンの召喚獣のキノノを見つめる。
美しい女性の姿になったキノノは、男に近づくと、その男に触れ、そのとらえられた男を魅了していったのだった。
そして、その男の素性が明らかになるのだった。
――――罠の結果について
(ガラス職人の息子は罠をしかける。その罠に一人の男が引っかかった)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます