151.不穏な帰り道について

 ミーシェ・ルージーは、社交界への帰り、ルージー家の所有する馬車に乗りながらも不穏な気配を感じていた。ミーシェ・ルージーは、王宮魔法師の弟子であるクアン・ルージーの妹である。クアン・ルージーと違い、ミーシェ・ルージーは魔法師になるほどの魔力もなく才能もない。だけど、彼女は完全に魔力がないというわけではなく、ただ少しだけ人よりも勘が良い部分があった。だから帰宅する最中に少しだけ嫌な予感を感じて、すぐにその予感を信じた。




「今日は違う経路で帰った方が良いと思いますわ!」




 ミーシェ・ルージーの勘は良くあたる。

 そのことを、ルージー家に仕える者たちはきちんと理解していた。

 ミーシェ・ルージーが拒否した道で不幸な事が起こったりと、過去にも色々と実例があるからである。




(でも王都の中でこんな不穏な予感がするなんて……王都は基本的には安全なはずなのに。王宮魔法師や王宮騎士団の者達が近くにいる場で何かを起こそうとしている人がいる?)



 ミーシェ・ルージーは、そのことを考えてぞっとする。



 王都は基本的に安全な場所である。王都は、王の住まう王宮のある都である。それもあって警備は厳重だ。―――なのに、そんな場面で自身が嫌な予感を感じてしまっていること。それ自体にミーシェは怖くなった。王都でこれほどまでに嫌な予感を感じたのは初めてだった。

 もしかしたら、何か大変なことでも起こるのではないかという漠然とした不安が起きた。





 (お兄様にもいっておこうかしら。お兄様は王宮魔法師だし、何か情報を知っているかもしれないし。知っていないにしても、どうにかしてくれるかもしれない)



 なんとなく感じた嫌な予感。本当に、勘としか言いようがないことだけれども、クアン・ルージーは、ミーシェの勘の良さをきちんと知っている。だからこそ勘違いだといって取り合わないことはないだろう。




「それにしても、王都内でミーシェ様の勘が働くなんて……何だか不安です」

「そうね……、私も少しだけ不安よ」



 ミーシェ付きの侍女の言葉に、ミーシェも答える。



 ミーシェの感じた不穏な気配は、未だにひしひしと伝わってきている。それがなくならないという時点で、まだ何か恐ろしいことが起こるかもしれない可能性があるということ。

 嫌な予感がする経路を回避してもまだ続いている、という事実にミーシェははらはらしていた。




(……嫌な予感がする経路を回避してもまだ続いているなんて……。やっぱりこれ、人が何か起こしているとかな気がするわ。……ひとまず、家に即急に帰宅して、身の安全を確保したらお父様経由で王宮に伝えてもらいましょう。お兄様なら私の勘のことわかっているから、真剣に取り合ってくれるはずだもの)




 ミーシェは、家につくまで気が気ではなかった。いつ、何が起こるかわからない。何かが起こったらどうしようとか、そういうことを考えながらも、ミーシェは一心に自分の勘を信じて、帰り道を指示して、どうにかルージー公爵家に到着した。



 そして、そこでようやく不穏な気配がなくなって、ミーシェはほっとしたように息を吐く。

 ミーシェは家にたどり着いてから、すぐにその場にいたものたちに報告をした。そして、すぐにクアンへと手紙が届けられることになる。事情を説明して、ほっと一息をついたミーシェは、思考する。



(……ずっと付きまとってた気配が消えたけど、ずっと予感がしてたってことは私、狙われてたってこと? 王都だと、危険な目に合うことあまりないから皆気を抜いているはずだもの。王都は安全だって認識が皆多いのに、それなのに、もしかしたら王都が危険かもしれないなんて……)




 王都は安全である、と基本的に考えられている場所だ。王都だからこそ、気を抜いてしまう者もいるだろう。



(王都が危険かもしれない、ってこと、皆に伝えられるようにしなきゃ。友人たちにも……。ナディア様は王族だし、ヴァンが守っているから大丈夫かもしれないけれど……。あと市井の者達にも注意喚起できたらしたほうがいいかもしれない。不穏な気配はなくなっているけれど、これから何か嫌なことが起こるのではないかって予感はあるもの)



 ミーシェはそんな風に考える。




(というか、これから起こっていくというか、もしかしたらもう起こっている可能性もある。私は嫌な予感がしたからどうにかそれを避けて家までたどり着けたけれど、他の者達は家までたどり着けたかわからない……)



 続けてそんな風に考えてミーシェは、今、このときに誰かが何か危険な目にあっていなければいいと願った。

 だけど、その願いはかなわなかった。




 ――――不穏な帰り道について

 (鋭い勘が警鐘を鳴らす中、少女は無事帰宅した。だけど、何か悪いことがおこるのではないかという予感を感じている)

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