番外編5

第二王女様の決意

 カインズ王国の第二王女である、キリマ・カインズ。彼女は、栗色の髪と、美しい金色の瞳を持つ、美しい少女である。彼女は、表面上、完璧な王女を装っているが、その実は暴走気味である。キリマ・カインズの腹心の侍女や、周りの人間たちは把握している。



 さて、先日、カインズ王国を訪れたルクシオウス・ミドアイスラと、ザウドック・ミッドアイスラ。ザウドック・ミッドアイスラが第一王女のフェール・カインズに惚れたことで、ちょっとキリマは暴走気味である。



(フェールお姉様はザウドックでしょ、ナディアはヴァンでしょ。そうなるとやっぱり私もディグ様と……っ。子供だからって相手にしてくれてないけれど、いつかきっと……)



 キリマ、ディグに相手にされていないのだが全然諦めていなかった。

 彼女の中には諦めるという選択肢はない。彼女の頭の中は、いつか、ディグ・マラナラと結ばれるという妄想で満ちている。




(ふふふ、いつか、大人の魅力を醸し出してディグ様を悩殺するわ!! 今は子供だからって相手にされなかったとしても、きっちり自分磨きをして、ディグ様の方から私の方にすり寄ってきてくれるようなそんな風にいつかなるの!!)




 という大きな目標に向かって猛進しているキリマは、美容に気を使っている。王女としての与えられている財産を使いながら自分磨きに没頭している。―――とはいえ、予算の範囲内であるし、寧ろ王族としては予算をそこまで使っていないキリマである。



(男の人って、どんなことすれば喜ぶのかしら? 私の身近な男の人ってレイアードお兄様とライナスお兄様、それにディグ様とか、ヴァンぐらいしかいないもの。ディグ様に直接どうしたら私に振り向いてくれますかって聞きに行ってもあしらわれるだけだし、ヴァンに関してはナディア馬鹿で、ナディアのすることなんでも嬉しいだろうし)



 キリマ、一人で椅子に座ってそんなことを考える。キリマ付きの侍女たちが「またキリマ様が自分の世界に入っておられる」などといっているが、そんな声、キリマには届いていない。



「そうだわ、レイアードお兄様とライナスお兄様に聞きましょう!!」




 思い立ったら即行動のキリマはそういって、侍女を引き連れて外に出ていくのである。



 そしてキリマは、二人の兄と対峙する。






「………ディグ・マラナラを喜ばせるために男の人が何をしたら喜ぶかか」



 レイアード・カインズはキリマの言葉に何とも言えない顔をして言葉を発した。彼としてみれば、妹が私に会いたいといっている、ならば時間を作らなければという気持ちでキリマと会う時間を喜んで作ったのである。

 それで王宮の一室で話された話が、ディグについてのことでレイアードは少しだけ気分が沈んでいた。






「レイアードお兄様?」



 様子のおかしいレイアードにキリマは不思議そうな顔をしている。相変わらず三人の王女はレイアードのシスコンな様子を理解していなかった。




「キリマ、兄貴の様子は気にするな。それより、男の人が何をすれば喜ぶかね。俺としてみればキリマみたいな可愛い女の子に好かれているだけでも嬉しいけど」

「もう、ライナスお兄様ってば! ディグ様は、私が幾ら好きですっていっても靡いてくれないのよ」



 レイアードは無言のまま、私もキリマに好きともっと言われたい、羨ましい、可愛いキリマに好かれておきながら喜ばないなんて……と色々な思いを渦巻かせていた。



「……そうだね、ならば、押してだめなら引いてみればどうだい?」



 そういったレイアードの本心は、可愛い妹と悪い虫を引き離したいという気持ちもあった。可愛い妹たちにはまだ恋愛は早い、と思っている王太子である。



「そんなことしたら、絶対、ディグ様、私が引いたって喜んじゃうわ!! 私はディグ様と結婚したいのだもの、此処で引けないわ」



 しかし、王太子の目論見は果たされない。キリマ・カインズはディグがどういう人間か理解している。理解しているからこそ今、引いたらディグが「王女の気まぐれが終わった」などといって喜ぶ未来しか見えなかった。

 『火炎の魔法師』ディグ・マラナラからしてみれば、キリマはまだ子供である。だからこそ余計に相手にされないことに、キリマは自分がもっと年上だったらと思ってしまうのだった。



 キリマの言葉に、ライナスが言った。



「押してダメなら引いてみるは、案外行けるとは思うぞ」

「でも——」

「ただし、今すぐじゃなく、もっとディグ・マラナラに好きだって数年以上付きまとってからだな。そしてキリマが好意を寄せるのは当たり前だって状況を作ってから、引いてみるんだ」

「あ、それならいいかも……」

「当たり前だと思っていたものが突然なくなれば誰だって気になるものだからな」

「ええ! ありがとう、ライナスお兄様! じゃあ、私早速私が好意を寄せるの当たりまえって状況にするためにディグ様のところいってくる!!」



 キリマ、ライナスの言葉を聞いてから笑顔で頷くとその場を後にした。



 残されたレイアードとライナスが、



「ライナス!! キリマがディグ・マラナラとくっついたらどうするんだ!?」

「どうもこうもないだろう。別にいいことじゃねぇか。兄貴はいい加減、妹離れしろ」

「ナディアやフェールだってまだ子供なのに、特定の相手が出来ようとしているのに!! キリマまでもが……まだ絶対早いのに!!」

「………はぁ、変な奴に嫁ぐよりは英雄や英雄の卵とくっついた方がいいだろう。何より本人たちが望んでいるしな」



 という会話がなされていたことを、もちろんキリマは知らない。


 レイアードとライナスの元を後にしたキリマは、「絶対、絶対、いつかディグ様を振り向かせる!!」という決意の言葉を口にしていたのであった。



 ――――第二王女様の決意

 (第二王女、キリマ・カインズは、どうしても『火炎の魔法師』を振り向かせたい)


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