第六章 《雷鳴の騎士》とその弟子
127.他国にまで広まる噂について
カインズ王国では様々な噂が流れている。
王都で最近流れている噂は、『火炎の魔法師』の弟子になった平民の少年、ヴァンの話題が多い。
それはその少年が子供にも関わらず、召喚獣と契約をし、ドラゴンキラーの称号を持ち、加えて遠征先でも結果を残している。平民として生きながら突如として現れた英雄の弟子。何れ英雄になる存在として注目を浴びている。
王都にあるヴァンの実家も注目を浴びているがそこに手を出そうとするものは問答無用で召喚獣たちの手により、手を出せない状況に追い込まれている。ヴァンたちの両親は、ヴァンが活躍し、噂になっているのをきちんと把握しているが、昔から変わった子だったから……とそんな風に考え、受け入れている。
自分の子供が稀代の英雄候補として、この国でも重要な立場になりつつあるが、だからといってヴァンがディグの弟子になる前となった後でも周りに対する態度が変わらないのは流石ヴァンの両親といったところか。
噂になっているうちの一つは、ヴァンとこの国の第三王女であるナディア・カインズの仲の良さもある。ずっと表舞台にたってこなかった美しき第三王女を英雄候補が見初めたとか、第三王女がヴァンを気に入っているとか、とにかく二人が仲が良いという噂は広まっている。
ヴァンの両親は、その噂を聞いて驚いたものの「自分の息子が誰かに興味を持つなんて」という事に少し感動を覚えていたりもした。
さて、そんなカインズ王国の噂は国内だけではなく、国外にも流れている。
カインズ王国の西に位置する場所に、トゥルイヤ王国と呼ばれる王国がある。それは、カインズ王国と五年前まで戦争をしていた国だ。戦争は終結し、現在は同盟関係を結んでいるその国では、『火炎の魔法師』への畏敬の念を持っているものが多い。
というのも、実際に戦争でディグ・マラナラの敵としてこの国の兵は対峙したわけで、その際に彼の強さを誰よりも実感した国である。
ディグ・マラナラは、自国も、他国も認める英雄である。圧倒的な力を持ち、その武勇は他方にまで広まっている。
しかし、カインズ王国は『火炎の魔法師』ディグ・マラナラを率いているにも関わらずに、勝利を収める事は出来なかった。長引いた戦争は、どちらの勝利か明確になることもなく、同盟締結という形で幕を閉じた。
それはなぜか。
どうして『火炎の魔法師』ディグ・マラナラがいながら勝利する事が出来なかったか。
その理由は、皆が周知していることである。
トゥルイヤ王国にも、ディグ・マラナラ同様に英雄と呼ばれる存在が居た。
『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラ。
トゥルイヤ王国の公爵家の息子にして、数多の武勇を立ててきた若き英雄である。
『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』。
互いの国に二つ名もちの英雄が居たからこそ、戦争は中々終結がしなかった。そう言われるほどに影響力の高い英雄である。
さて、そんなトゥルイヤ王国の英雄ルクシオウス・ミッドアイスラはその日自分の屋敷にいた。
彼も、また自分の宿命のライバルとも言えるディグ・マラナラの新たな弟子の噂は耳にしている。
「平民でありながら、あいつの弟子か。お前と同じ年ぐらいらしいが……興味出ないか?」
黄色の髪を持つ背の高い男性。それが、『雷鳴の騎士』と呼ばれる存在だ。
その黄色い瞳の視線の先にいるのは、一人の少年だ。
ヴァンと同じ年ぐらいだろうか。まだ幼さの残る藍色の髪の少年は、その言葉にルクシオウスの方を振り向く。
「もちろん、興味あるぜ。ルクシオウス! でも俺の方が強い……はず!」
元気よくそう答えるのは、『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラの弟子にあたるザウドック・ミッドアイスラ。
ディグがフロノスを養子にしているように、ルクシオウスも彼を養子にしているため同じ屋敷に住んでいる。師弟関係で義理の親子関係にあたるが、ザウドックの態度は気安い。まるで友達に話しかけるような態度である。
「自信ないのかよ。そこは強いって断言しとけよな」
「いや、だって色々噂がこっちきてるけどさ。召喚獣を大量につれているとか、ドラゴンを一撃で倒したとかだし、やべぇじゃんか!!」
「こっちに回ってくるような噂だから絶対誇張されてんだろ。お前、びびりすぎ」
「いやだって、噂本当だったらどんな男だよ! 俺と同じ年とかウソだろって思うぞ」
ザウドックはちょっとびびっているようだった。俺の方が強いと思いたいけれども、それでも噂通りだと勝てないかもと感じているようだ。
「カインズ王国に行ってくれと、陛下に言われてんだが、お前も来るか?」
「……い……い、行く!」
「お前、今少し考えただろ……。そんなびびらなくていいつーの」
「びびってないし!」
噂が本当だと怖いなーとびびっている様子のザウドックは、ルクシオウスの言葉に勢いよく返事をするのであった。
――――他国にまで広まる噂について
(他国にまで噂が広まっている。そしてその噂は隣国の英雄とその弟子にまで届いている)
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