88.魔法具に対する報告について
「―――以上が、ヴァンがナディア様に誕生日プレゼントとして送った魔法具の効能になります」
さて、ヴァンがナディアに送った魔法具のネックレスは規格外な品物であった。
ヴァンの師であるディグ・マラナラはその魔法具について、シードルに報告しにきていた。ちなみに、ヴァンがナディアに送った魔法具については、周りに詳細を知られないほうが良いためこの場にいるのは国王であるシードル、宰相であるウーラン、王太子であるレイアードだけである。
「……そんなものを作るとは」
「量産されればパワーバランスが著しく壊れますね」
「ま・け・た!!」
上からシードル、ウーラン、レイアードの言葉である。
シードルは十二歳にして規格外のものを作ったヴァンに対して呆れ、ウーランは懸念を口にし、レイアードに関しては誕生日プレゼント勝負に負けたと嘆いている。勝手に対抗心を持ち、勝手に負けたと嘆いている。この場に身内しかいないからこその残念な様子であるが、ディグはレイアードの事は無視して答える。
「ヴァンもナディア様に喜んでもらいたい一心で勢いのままに作ったらしいんで、多分同じものは作れないっていってましたよ。それにひとつしか作る気ないみたいなんで、問題はないでしょう」
「そうですか。それならまだ安心です。そのような規格外のものが流通すれば、大変なことになります」
それはそうである。あんなものが量産され、だれでも持てるようになったら戦争などが変わってしまう。
そんな大変なものを作った自覚が相変わらずヴァンにないのが、ヴァンのアレな部分である。
「とりあえずもう一つ作れないにしろ、どういう効能であるかは露見しないほうがいいでしょう。ヴァンを狙うものが増えるだけですし」
「それもそうだな……。はぁ、益々他国にやれなくなった」
「諦めてナディア様を嫁がせればいいでしょう。というか、ナディア様がこの国にいる限りヴァンは他国にはいかないだろうし」
娘がかわいくて仕方がなく、十一歳になった娘の結婚相手がもう決まってしまうというのは父親として中々許容できないらしい。
そんな気持ちは養女であるフロノスしかいないディグにはさっぱりわからない。フロノスがもし誰かと結婚したいと連れてきたとしても、「そうか」で終わらせてしまいそうなのがディグである。
「ディグ・マラナラ! 貴様も可愛いキリマを誘惑しているのだろう! なぜ、かわいい妹が……」
「……レイアード様、何をおっしゃっているのですか。第一、キリマ様がディグ様に好意を抱いているだけであって、ディグ様は何もしていないでしょう」
なんだか暴走気味に言葉を放ったレイアードに、ウーランは呆れた様子である。
が、正直キリマの事はディグ自身言われても困る。
「俺もキリマ様の事は困っているので、離してくれるなら離してください」
と、正直に言えば、
「ディグ! キリマに好意を向けられておきながらそんなことを言うなんて、わが娘になんの不満があるというのだ」
「かわいいキリマが貴様を好きといっているのに……」
二人は吠えた。
ディグは正直、めんどくせぇと思った。
二人にとって可愛い姫であるキリマがディグに好意を持っていることは気に食わないらしい。
それでいながら、ディグがキリマに好意を向けられているのを不本意だというと、何の不満があると怒り出す。
親ばかとシスコンは面倒な生き物だとディグは思った。
「……はぁ、ディグ様。お二人の事は放置していていいです。それでですね、魔法具に関してですが、他国にでも渡れば大変なことになりますが」
「あー、そのあたりも問題ない。ヴァンがナディア様にしか使えないようにしたらしいから」
「……そのようなことまでできるのですか。全く、末恐ろしい少年です」
ウーランはディグの言葉に、そう告げる。
(これは、本当に他国にやるわけにはいかない少年です。シードル様とレイアード様は少し煩いかもしれませんが、本格的にヴァンにナディア様を嫁がせることを進めるのが一番良いでしょう。……キリマ様も、外面は完璧ですが、内面は暴走癖がありますから、年上のディグ様が引き取ってくだされば一番丸く収まるのですが)
シードルとレイアードが「ああ、ナディアにはまだ恋ははやい」と騒いでいるのを横目に見ながらウーランは一人冷静にそんなことを考えていた。
第一、シードルとレイアードもただナディアがかわいくてまだ心の整理がついていないだけであり、ヴァンにナディアを嫁がせるのが一番丸く収まる形であるのは理解している。
なんだかんだいっているが、結局ナディアがヴァンに嫁ぐことを否定しているわけでもないのだ。
(……それにしてもナディア様の守りは鉄壁ですな。何人もナディア様を害することはできないでしょう)
ウーランはディグから聞いた魔法具の効能と、ナディアの周りにいる召喚獣の事を考えそんなことを思うのであった。
―――魔法具に対する報告について
(ヴァンを益々他国にはやれないと思う上層部の面々たちだった)
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