83.完成した魔法具について

 さて、ヴァンは相変わらず実家や図書館に顔を出し、ナディアの誕生日プレゼントのために奮闘し、ついに魔法具が完成した。




 ナディアの誕生日まで、あと二週間といった日にである。

 ナディアの誕生日の二ヶ月前にフロノスと何をあげようかなどと考えていたことから考えると、一ヶ月半と少しほどでひとつの魔法具を完成させたことになる。

 一般常識的にいって、魔法具作成経験もない少年が「よし、作るぞ」と思い立って実際に作ってしまうなどと普通に考えておかしい。が、そこはヴァンである。




「できた! けど、効能の確認とかしなきゃ。せっかくナディア様にあげるんだし」



 実家でナディアへの誕生日プレゼントを完成させたヴァンは、それから「じゃあ、母さん、俺行くから。次はいつ帰ってくるかわからない」とだけ告げて王宮へと戻っていった。


 そんなヴァンの背を見送る母親は、「英雄の弟子になっても相変わらずだねぇ…」と呟き、次はいつ帰ってくることやらと遠い目を浮かべるのであった。





 ヴァンは、そして効能を確認するぞ! と気合を入れてディグのいる魔法練まで一目散にかけていった。








「師匠!!」

「あ? なんだよ、うるせぇな」



 大声でディグのことを呼んだヴァンに、ディグは耳を押さえる。研究室の中にいたフロノスも、ヴァンの大声に驚いた様子を見せる。



「ヴァン、急いでどうしたの?」

「できたんだ!! ナディア様への誕生日プレゼント」

「……ああ、そういえば、魔法具作ろうとしてるって宰相がいってたな。って、魔法具できたのか?」

「うん!! 多分! 予定では色々組み込まれているはず。でもきちんと効果が出るか確認したいから、師匠、一緒に確認して」



 ヴァン、ナディアへの誕生日プレゼントが一応無事にできたことでうれしくてたまらないのか、テンションが高い。

 ヴァンの言葉に驚いた表情を浮かべるのはディグとフロノスである。



(魔法具を作ったっていうだけでも驚きだけど、色々組み込んだって、本当に予定通りの効果が出るっていうなら、こいつは本当に天才だな)


 ディグはそんな風に考えながら、面白そうに笑っている。



(……魔法具まで、自分で作るなんて。私も一度も作ったことないのに。悔しい。私も魔法具作ろう)



 フロノスは負けず嫌いが発動しているのか、そんな決意を胸にする。

 二人はヴァンに「確認手伝って」といわれて、外へと出る。そこはフロノスと模擬戦をしたり、魔法の訓練をしたりする場所だ。




「で、ヴァン、何を加えたんだ?」

「うーん、ちょっと待って」



 ヴァンはそういうと、《クレイジーカメレオン》のレイを読み出した。




『カカカカッ、俺様をおよ――「煩い、沈め」ぐはっ』




 紫の体色の体に、黄色い斑模様の浮かんでいるカメレオンは、相変わらず調子に乗っていた。そして契約召還獣として新人であるレイに対してヴァンも召還獣たちもそこそこ扱いが酷かった。

 ちなみに、小型化サイズで呼ばれている。




「ちょっと実験体になって」

『は? じ、実験体?』

「そう。召還獣だから、簡単には死なないだろ?」

『え、ちょ、ま』




 レイの反論などヴァンは聞いていない。ナディアにあげる予定のネックレスをレイにかける。




「それ、壊したら怒るから」

『え、あの、どういう……』

「師匠、魔法お願いします」

「……いいのか?」

「はい」




 ヴァンが頷くと、ディグが火の玉を形成してレイへと向ける。レイは逃げようと構えるが、「逃げたらだめ」とヴァンににらまれて、その場に縮こまる。

 そしてレイへと飛んでいった火の玉は、何かにはじかれるように、こちらに返ってきた。返ってきた火の玉はヴァンが対処をした。



「反転はよし」

「さらっと、魔法返しの魔法具作っているとか、おかしい」



 ヴァンの満足そうな言葉に、フロノスはそんな言葉を放つ。



 そう、おかしい。自力で本を読んで、なんとなくでそんなものを完成させてしまうヴァンは限りなくおかしい。



「次は――」




 ヴァンは次に、レイを空中へと浮かせる。7メートルほど上空まで浮かせられ、レイは『お、俺様これからどうなるんだ』と不安そうにバタバタしている。



 しかしだ、ヴァンの強さを知っている身として逆らえないレイであった。



 急にヴァンが魔法を解除する。

 レイはもちろん落下していった。

 が、地面にはぶつからない。地面にぶつかる前に、ふわりとレイの体が浮いた。




「浮遊の魔法もよし」

「……あれか、フェール様が落下した事件からこれ入れたのか」

「うん」



 ヴァンは組み込んだ魔法具がきちんと発動していることがうれしいのか、笑顔である。



「あとは――」

「って、まだあるのか」

「うん。ナディア様をありとあらゆる危険から守れるものにしたいって思ったから。俺が常にそばに入れるわけはないし」

「召還獣は常にそばにいるだろうが」

「あいつらだけで対処できないこともあるだろうし」

「そうか……で、次の効果は」

「それは――」



 そんなわけで、次々とヴァンはディグとフロノスとともに完成した魔法具について検証していくのであった。

 いくつもの効果はきちんと発動し、ディグとフロノスは「なんてもの作ってるんだ」とヴァンに対してあきれた表情を見せるのであった。




 ―――完成した魔法具について

 (ナディアを危険から守りたいという思いから沢山の効果がそこには組み込まれていた)

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