67.第一王女様と王太子様について 2

 大好きな兄に肯定されたことに、頭ではそうなのではないか? と理解しながらも受け入れたくなかった事実が心に響いた。

 今まで当たり前のようにやってしまっていたことは、メウにあれだけ恨まれるようなことだったんだって、そのことにフェールは唖然とした気持ちになる。



 フェールは今まで、悪い事だなんて思わず、当たり前のように様々なものを欲してきた。そして様々なものを与えられてきた。自分の傍で仕えられるのは幸せで、自分の命令でやめさせられたとしても幸せだと思い込んでいた。


 そういう常識が、フェールの根底にはあった。



「フェール。仕事を辞めさせるってことは、その人にとって生活基盤を失う事なんだよ。それに第一王女に睨まれたっていう評価を受けてしまうんだよ。……メウの妹…というか、フェールがやめさせた侍女にはね、フェールがやめさせたってことでその手当は出していたんだ。本来手に入るはずの報酬が手に入らなくなるのだからそれなりにね。でもそれでもメウがフェールを殺そうとしたってことは、色々あったんだろう」



 レイアードはそういいながらフェールを見据える。



「私も、父上も、大した問題になっていないからってフェールにそこまで強く言ってこなかった。そういう話は聞いていたけど、忙しかったのもあったから。すまない。もっと目を向けるべきだったな。もっとちゃんというべきだったな」



 悔やんだようにレイアードは言った。少し我儘なぐらいなら王族の姫としては当然の事で、フェールの我儘はまだ許容範囲だった。家族としての可愛さもあって、諌める言葉をあまりいってこなかった。



 それも、フェールの行動を助長させてしまったことだろう。

 レイアードはそう考える。

 フェールが何でも手に入るのが当たり前だと思い込んだのも、レイアードにも責任はある。



「………私は、皆に嫌われているのでしょうか」


 フェールは口を開いてそういった。



「私は、レイアードお兄様が諌めるべきだったという行動をずっとしてきました。……メウみたいに思っている子、どれくらいいるのだろうかって。……皆、そうなのかって」



 自信満々だったからこそ、自分の行動が正しいと思い込んでいたからこそ、一度その思いが折れた時の衝動は大きかったのだろう。

 フェールは、枕をぎゅっと握ったまま、レイアードを見ている。レイアードの答えをただ待っている。



「……メウのように考えている人間はいるだろう。それは紛れもない事実だ。でもね、フェール」



 そういって、レイアードはフェールに近づき、その頭をなでる。フェールがレイアードを見上げる。



「フェールを心配している人も、フェールを好きだって思っている人も沢山いるんだよ……。私も、含めてね」

「……そうですか?」

「ああ、そうだよ。ナディアも、心配していたよ」

「……ナディアも? でも、私――……ナディアに好かれるようなこと、してませんわ」



 頭をなでられたまま、フェールは告げる。



 殺されかけるなどという衝撃的な出来事があって、だからこそ常識が崩れて、そうしてフェールは色々な事を考えた。

 今まで自分がやってしまっていたこと。

 自分の行動について。

 当たり前だと思っていた常識の崩壊。



(私はナディアに好かれるようなことはしていない……。ヴァンの事、自分のものに無理やりしようとしていた。私が、望むのは幸せだって)



 自分が望んだ行動を人がするのは当たり前で。それは幸せだとそんな風に思ってた。

 そういう行動の被害者だ。ナディアとヴァンは。その自覚がようやく芽生えたからこそ、どうしてナディアがと、疑問がわいた。



「ナディアは、フェールに家族としての情はあるんだよ。にくいとも思っていないだろう。あの子は優しい子だから」

「……そう、なのですか」

「ああ。まぁ、本当に悪いっていう感情があるなら正式に迷惑をかけた人に謝って回った方がいいだろうね」

「……そうですわね」

「不安だというなら私も一緒についていこう」

「……いえ、大丈夫ですわ」



 フェールはそういって、決意したような目をレイアードに向ける。



「きっちり謝りますわ。それで許してくれない人もいるかもしれませんが、それも受け入れますわ。私がやってきた行動で、そういうものが返ってきているというのならば、そこから逃げるのはかっこ悪いですもの」



 やるべきことは謝罪だと、信愛する兄が言ったから、それならばそれをまずは行おうとフェールは思った。

 物事から逃げる事は、フェールの意志に反するから、だから受け入れようとそんな風に考える。



「……これからもっと周りの言葉に目を向けますわ。そして周りに私が間違った事をしていたら言ってもらえるように、呼びかけますわ。メウのようなことがあるのは、悲しいですもの」



 そういってまっすぐにレイアードを見た。



「……ああ。頑張るんだよ、フェール」

「はい」



 そうしてそんな会話が交わされるのであった。




 ―――第一王女様と王太子様について 2

 (第一王女様はそうして、色々な事を受け入れた)

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