50.王宮魔法師の弟子とヴァンと第一王女様について
「ヴァン、お前は何をやっているんだ」
「……なんで、フェール様に引き留められているんだ」
ヴァンとフェールは、クアンとギルガランがやってきたときもまだ攻防を続けていた。
はやくナディアのもとに行きたくて仕方がないと、「俺は行かなければならない」と告げるヴァン。
ヴァンに興味を持ってヴァンと話したいらしいと、「待ちなさい」と引き留めるフェール。
その攻防は長かった。フェールは基本的に自分本位な女王様な性格をしており、自分が今すぐヴァンと喋りたいと思ったら、どうしてもそれを決行したかった。そしてヴァンはフェールにそんな風に引き留められて、どうしたらいいかわからず、ナディアの姉を無下にも扱えないと、王女様への対応の仕方もわからず困り果てていた。
そしてその場に現れたクアンとギルガランは、それはもう驚いたものである。ただ、その場を通行しようとしていただけなのに、ヴァンとフェールとフェール付きの侍女たちという謎の組み合わせに遭遇してしまったわけだから。とんだ災難である。
「………離してくれなくて、俺、ナディア様の所に行きたいのに」
ヴァンはしゅんとした表情でいった。
(折角師匠がナディア様の所に行く事を許可してくれたのに……)
そんな風に思ってヴァンは悲しそうな顔をしている。
「フェール様、どうしてヴァンの腕をつかんでいらっしゃるのでしょうか?」
「あら、ルージー伯爵家の三男ね。何故といわれても、私は今王宮内でも噂の的である方とお話をしたいだけよ。この私がお話をしたいといっているというのに、それよりもナディアを優先しようとするなど、信じられませんわ」
クアンの言葉におほほと笑いながら言ったフェールの言葉に、フェールの後ろにいた侍女たちが同意するように声を上げている。
「フェール様、ヴァンの事を離してやってはくれないでしょうか?」
ギルガランはヴァンがフェールと特に話したいとも思っていない事をわかっているため、そう口にした。
第一、このまま長時間ヴァンとフェールを一緒にしてみたら、ヴァンがどのような無礼な行為に及ぶかわからないといった心配もあった。
まぁ、第一王女に向かって、「誰?」なんていう無礼な問いかけを既にやらかしているわけだが。そんなこと先ほどやってきたクアンとギルガランが知るはずもないことである。
「あら、この私にそんなことをいうの?」
「……どうでもいいから、いい加減離してください」
目を細めてギルガランを見たフェールと、面倒そうな顔をしてそんなことをいうヴァン。
第一王女にお話をしましょうと言われ引き留められているというのに、ヴァンは相変わらずすぎた。
「おい、ヴァン!」
なんて態度をするんだとでもいうようにクアンは叫んだ。が、ヴァンはそんな声聞いていない。
「俺ナディア様の所にいきたいんです。本当にそれだけです。えーと、フェール様? だっけ。貴方様と過ごす気はとくにないので、離してくれませんか。
俺、師匠にもあんまり人に会わずにいろって言われてて、師匠って怒ると怖いし、師匠のいう事破りたくないし」
ナディアのお姉さんとしか認識していないためか、先ほどから何度かこの場で呼ばれているフェールという名を覚えていないらしい。自国の王族の名前ぐらい覚えておけと怒られそうなレベルであるが、ヴァンはそういう少年である。
いい加減、ヴァンはナディアのもとに行きたくて、ナディアに会いたくて仕方がなくて、我慢が出来なくなったらしい。
「大体、師匠が”俺が許可した奴以外に会うな”っていってたので、俺と話したいとかそういうのだったら師匠から許可をもらってからでお願いします。あー、もう本当にこんな風にナディア様に会いに行く際に誰にも会うなって言われているのにあってしまったんだから、これで師匠にナディア様にもう会いにいくなとか言われたらどうしてくれるんですか。
折角久しぶりにナディア様に会えるっていうのに。これからもあんまりナディア様に会えなくなるとか、絶対やなのに」
一気にそう告げたヴァンに、フェールはあっけにとられる。
こんな風な態度をとられたのははじめてであったのだろう。
無理はない。この大国カインズ王国の第一王女という尊い立場にある王女様である。自らが女王様だといわんばかりに人々の上にたってきた高貴なる立場の王女様である。
こんな態度をする存在なんてそうはいないし、第一王女のフェールにお近づきになりたいというものは多くいるが、彼女をどうでもいいといった態度をする存在なんて少数である。
「……もう、いいですか」
驚いて、ヴァンの腕から手を離したフェール。ヴァンはそういって、放心したまま固まっているフェールを置いて、そのまま、ナディアの元へと向かってしまった。
ヴァンのフェールへの態度に固まっていたクアンとギルガランはフェールに礼をして慌ててヴァンを追いかけていくのであった。
一人にするとまた絡まれるかもしれないということで、二人はヴァンをナディアの元まで送り届ける気のようだ。
そして、その場に残されたのは、
「なんなの、あのマラナラ様の弟子」
と驚きと、興味の表情を浮かべたフェールだけである。
――王宮魔法師の弟子とヴァンと第一王女様について
(ヴァンはいたってマイペースである。ナディア以外は相変わらずどうでもいい)
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