19.貴族の召喚獣たちについて

「師匠、一個聞きたいことあるんですけど」

「なんだ」



 国王陛下と第三王女が会話を交わしているその日、ディグの研究室にいたヴァンは突然口を開いた。



 改まって何かを問いかけようとしてくるヴァンに、ディグは何か突拍子もないことを言われるのではないかと思わず身構える。ちなみに、ヴァンは弟子になったということで、ディグの事を師匠と呼ぶようになった。



 研究室の中で少しずつ常識というものを学んでいるヴァンだが、相変わらず自分の異常性は理解していない。

 その場に存在するフロノスも、ヴァンが何を言い出すのだろうとヴァンとディグの会話に耳を傾けている。



「昨日、なんか貴族に絡まれたじゃないですか、俺」

「そうだな、それで?」




 昨日、ヴァンは確かに貴族の子息に絡まれていた。そのことを聞いた時には少し心配したディグであったが、発見したフロノスから「なぜか相手の召喚獣たちと仲良くなってました」などということを聞いて心配は無用だったと安堵したものである。



 幾らヴァンが異常だとはいえ、今年十二歳になる少年であるという事実は変わらない。それは、紛れもない真実である。実力があっても戦い方などをおそらく理解していないであろう少年が、年上の魔法師の弟子である貴族に絡まれたというのだからディグも当たり前に心配したものである。



(しかし、相手をどうにかするだけではなく、相手の召喚獣とも仲良くなっているっていうのがわけわかんねぇよな、本当に、こいつって)



 改めてほかの人間の召喚獣と仲良くしゃべっていたというヴァンの異常性を感じて、思わずディグはふぅと息を吐いた。そもそも普通召喚獣というものは気難しいものでそんな簡単に他人と仲良くしたりしないものだ。



 そんなディグの心情など欠片も気にしていないであろうヴァンは話を続けた。



「それでそいつらの契約していた召喚獣たちが出てきて、俺不思議だったんです」

「何がだ」

「そいつらが出したの、《ブラックスコーピオン》と《ファイヤータイガー》だったんですけど、なんか小さくて」

「小さい?」

「なんか元の姿に戻ってたのに、俺の契約している《レッドスコーピオン》と《ホワイトタイガー》よりも小さくて。あれ、なんでだろうって思って」



 ヴァンの言葉に、ディグはしばらく考えて、そして納得したように声を上げた。



「ああ、そうか、お前が契約している《レッドスコーピオン》と《ホワイトタイガー》ってそれなりに生きているやつらなのか?」

「どういうこと?」



 ディグの言葉にヴァンはよくわからないとでもいう風に首をかしげる。

 事実、ヴァンにはディグが何が言いたいのかさっぱりわかっていなかった。



「まずな、ヴァン。召喚獣というものは生きた年数で体の大きさが違うものだ。お前の契約している召喚獣たちの本来の姿は俺は知らないが、けしかけられた召喚獣たちよりでかいってことはそれなりに生きているってことだろう」



 そう召喚獣というものは、生きた年数で大きさが違う。人間と違って長い時の中を召喚獣たちは生きるという。最も召喚獣たちの生きている異界は生存競争が激しいらしく、長い間生きられる個体は極めて稀だというのは人間と契約している召喚獣たちの話から分かっている。



 要するにヴァンがあの貴族の子息たちの契約している召喚獣たちを小さいと感じたのは、ヴァンの契約している召喚獣たちよりも幼いものと彼らが契約しているからという話だ。



「へぇ、知らなかった」

「……そういうことも知らずに二十匹と契約しているお前が異常なだけだからな?」


 と、一言告げてからディグは続ける。



「貴族の子息子女は召喚獣と契約するものは多くいる。ただしそれは基本的に自分の実力で契約しているわけではない」



 と、そんな風に前置きをして語り始める。



 貴族の子息子女というものは、先祖の契約していた召喚獣や親の契約している召喚獣の子供と契約を果たすことが多いこと。



 そういう風にしなければ貴族の子息子女が召喚獣と契約することは難しいこと。



 先祖の契約していた召喚獣たちは時たま現れては、主を選び契約をするらしいが、あまりそちらのケースはない。

 生まれてすぐの子供とか、まだ自分で契約主を選ぼうという意思のない幼い召喚獣と契約することが多いこと。それは制御しやすいようにという意味もある。

 そして幼い頃から契約をしてずっとともにいるからこそ、召喚獣側から気に入らないと契約を破棄することもない。



 あとは親が亡くなった後、親の契約していた召喚獣と結んだりとかもするのである。

 故に貴族の子息子女というのは基本的に自分の実力で召喚獣と契約をするわけではなく、貴族だからこそ契約できたというだけなのだ。

 最もそういう方法で契約している貴族の召喚獣というものは、自力で契約した召喚獣たちよりも弱いことが多いらしい。



「へー、知らなかった」

「……というか、普通子供が契約する場合はそういう風にか、そういうのではなく召喚するにしても誰か強い大人が傍にいる状況で危険をなるべくないようにしてから召喚するもので、お前はおかしいんだからな?」

「…んー、でも召喚獣を召喚して契約するの簡単なのに」

「だから、それはお前だけだって」




 全然自覚しないヴァンに再度お前はおかしいと告げるディグだが、ヴァンは相変わらず自覚する兆しがなかった。





 ―――貴族の召喚獣たちについて

 (彼らは貴族として生まれたが故に、召喚獣たちと契約ができるのである)

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