第76話



けっきょくあれからはたいして寝れず、朝日が昇ってすぐくらいに村を出て町に向かった。


イーラに乗っての移動だからすぐに町についてしまったが、まぁ市場はやってるだろう。


門番に身分証を見せて中に入り、とりあえず携行食を買いに向かった。


携行食は固形タイプを100本とジェルタイプを100個買おうとしたが、そんなに在庫がないといわれて、渋々50ずつ買った。


それを各自2つずつ所持して、残りをイーラに渡した。


ふと思ったが、ケニメイトから金を回収するっていっても、ケニメイトの居場所がわからねぇじゃねぇか。


あの時はクリアナの家に行くつもりだったから勝手に帰らせちまったし、自分の無計画さにビックリだわ。


さすがにこのデカい町の中をしらみ潰しに探すなんて出来ねぇしな。


やっぱり城に乗り込むか?


そういや薬屋の女はたまに城に行くっていってたから、第三王女と連絡が取れるかもな。


ってことでとりあえず薬屋に行くことにした。




ちょうどいいことに扉に小さい看板がかかってるからいるだろう。


扉を開けると女が商品の陳列をしていた。


「よう。久しぶり。」


「…まだお店始まってないんだけど。」


女は俺に気がつくと手を止めてジト目を向けてきた。


あの看板は準備中とかだったのか?まぁこいつがいたから結果オーライか。


「今日はお前に用があってきたんだ。」


「見てわかんないの?私は仕事をしてるんだから邪魔するなら帰って。」


「アリア。手伝え。」


「…はい。」


「ありがとう。アリアちゃん。で、何?」


アリアが手伝いを始めたが、女は手を止めるつもりはないようで、商品の陳列をしながら対応してきた。


まぁ聞きたいことが聞けりゃいいからな。


「ケニメイトって知ってるか?お前と同じくらいの年齢の女なんだが、貴族もしくは親が金を持ってるやつだ。」


「知らないわ。貴族の知り合いなんていないから。」


こいつは貴族ではないのか?婆ちゃんが偉い人っぽいけど、孫は平民なのか?基準がわからねぇな。


「なら第三王女と連絡を取る方法はないか?」


「城にでも行けば?私に仲介を求めてるならお門違いもいいとこよ。城に行くことがあってもお婆ちゃんの付き添いだし、仕事以外で王族や貴族の人に話しかけることなんてできないわよ。」


そういうもんなのか?


「じゃあ話は変わるが、いらないスキルを消す方法ってないか?」


女は残りの商品をアリアに渡し、並べ方などの説明をしてからこちらを向いた。


「あくまで噂だけど、暴食の孤児は人のスキルを奪うことができると聞いたことがあるわ。あとは可能性があるとしたら古代魔法の封印とかじゃない?」


情報はアリアと同じ程度しか手に入らなかったが、同じということは真実である可能性が高いな。


「そうか、ありがとう。あと、ニータートとかいう魔物の生き血で作れる薬には何がある?」


「え?ニータートの生息地を知ってるの?」


「生き血を採取したんだが、いたのは攻略されたダンジョン内だからもう存在しないぞ。」


まぁまだダンジョンが残っていたとしても全部狩り尽くしたからしばらくは生まれてこなかっただろうがな。


「ニータートの生き血は神薬に必須な材料ね。あとは最高品質の治療薬や万能薬全般に使われてる。ただ、生き血は鮮度が命だから、採取して時間が経ってたら使い物にならないわよ。」


まぁ生き血っていうくらいだからな。


「鮮度については大丈夫なはずだ。」


イーラが直接吸ってるから、空気にすら触れてないからな。


「冒険者がよく勘違いしてるけど、空き瓶に入れてれば鮮度が保てるなんてことはないからね。まぁ一応確認してあげるから、ちょっと待ってて。」


女はカウンターの奥に入り、しばらくしてから試験管立てに試験管っぽいのが10本ほどささっているものを持ってきた。


それをカウンターに置き、1本だけ取って渡してきた。


「これに少し入れて。」


「イーラ。これに昨日のニータートの生き血を入れろ。」


「は〜い。」


イーラが試験管に人差し指を差し込んで、先端からチョロチョロと血を流しいれた。


「ちょっと!何やってんの!?その娘の血じゃなくて、ニータートの生き血を入れろっていったんだけど。」


「ん?だからニータートの生き血をいれてるぞ?」


「は?どう見たってその娘の血をいれてるじゃない。」


話が噛み合わないな。

…あぁ、こいつにはいってなかったか。まぁこいつはそこそこ信用できるやつだから、隠す必要もねぇか。


「なんか勘違いしてるみたいだが、こいつは人間じゃねぇから血なんか流れてねえぞ?」


「今は流れてるもん!」


そういやエルフを食べて体を手に入れたっていってたな。


「まぁ今は人間の肉体になったらしいが、こいつは体内にいろんなもんを収納できて、今は収納してたニータートの生き血を出してるだけだ。ってイーラ。入れすぎだ。もういい。」


「は〜い。」


女と話してる間、イーラから目を離していたら試験管いっぱいに入れていた。


「人族じゃないっていっても、そんな種族は聞いたことがないわよ。なんて種族なの?」


「人族じゃないではなくて、人間じゃないんだ。イーラはスライムの進化系だ。ようするに魔族だな。」


「はぁ!?あんたは魔族まで連れてんの!?っていうか今スライムっていったよね?もしかしてあの時頭に乗せてたやつ?」


「そうだ。」


「スライムなんて頭に乗せて、おかしくなったのかと思ってたけど、それを魔族まで昇格させるなんて凄いのね。それによく見たらそっちの娘も人族じゃなくて鬼人のようだし、あんたってもしかしてコレクターなの?」


お前も俺の頭がおかしくなったと思ってやがったのか!

なんで誰もその場でいってくれねぇんだよ。

もう過ぎたことだからいいけどさ。


そういや意図せず奴隷は全員種族が違うな。

昨日まではマリナがいたから人族が2人だったんだけどな。


「種族がバラバラなのはたまたまだ。べつにコレクターじゃない。あと、魔族を使い魔にしてるって話が広まると面倒になるらしいから秘密で頼むな。」


わざわざ広めたりするタイプではないだろうが、一応口止めをしておいた。


「べつにいわないから。それより貴重なニータートの血をこんなに使っちゃってよかったの?仮に鮮度が良かったとしてももう使うか捨てるかしかできないからね。」


マジか!?まぁでもいっぱいあるからいいか。


「べつにかまわない。そいつはイーラのことの口止め料ってことで好きに使ってくれ。」


「本物だったらありがたいんだけどね。」


まだ疑ってるようだ。

イーラから試験管を受け取った女は試験管立てに戻した。


「我求める。言葉を持たぬ物を見極める力と知識を授け、情報を開示せよ。」


『素材鑑定』




…。





「先にいっとくけど、この血は返さないからね。」


第一声がそれかよ。


「べつにやるっていってんじゃねぇか。で、鮮度は大丈夫だったのか?」


「大丈夫どころか、今採血したばかりといっていい状態ね。それにちゃんとニータートの血みたいだし、お婆ちゃんがいたらかなりいい薬が作れるのに本当タイミングが悪い。」


「タダで手に入ったものなんだから、お前の練習用に使っちまえばいいじゃねぇか。」


「そんなことに使って失敗したらもったいないじゃない!もう一本分くれるなら試してみたいけど…。」


「べつにもう一本くらいかまわねぇよ。今日の情報料ってとこだな。イーラ。それにもニータートの生き血を入れてやれ。」


カウンターの試験管を指差しながらイーラを見ると、俺らの話に興味がなかったのかアリアの手伝いをしていた。ってか気づいたら全員アリアの手伝いをしてるな。仲がいいっていうかなんていうか。


「ん?今のを入れればいいの?」


「あぁ。」


「は〜い。」


イーラがカウンターに置いてある試験管に血を入れ始めた。


「さっきニータートの血が神薬に必須だっていってたけど、他には何が必要なんだ?」


それがわかればもしかしたら自分で作れるかもしれないし、もしくは材料を集めたら作ってくれるかもしれねぇしな。


「神薬なんて私にはまだまだ作れないから、調べてないし知らないわよ。でも龍の涙と鱗が使われてるって聞いたことがある気がするかな。」


また龍か。まぁ実物が見れるなら見てみたいとは思うがな。

機会があったときのために涙と鱗のことは覚えておくか。


「そうか。ちなみにお前の婆ちゃんは材料さえあれば神薬を作れるのか?」


「たぶん作れると思うけど、作ったって話は聞いたことがないかな。」


まぁ材料を手に入れられるのはまだまだ先だろうから、手に入った時に確認すればいいだろう。


もうここでの用は終わったから、イーラが終わり次第店を出ようと思ってイーラを見ると、ちょうど入れ終わったようだ。空だった9本全部に。


「え?こんなにもらっていいの!?」


確かにイーラは俺らの話を聞いてなかったし、1本とイーラに直接伝えてもいないからイーラは悪くないんだが…なんだかなぁ。


「イーラ。ちなみにあとどのくらい残ってる?」


「ちょっとしか使ってないからまだまだいっぱいあるよ?」


これがちょっとというなら大丈夫だろう。


「まだ大量に残ってるみたいだからそれは仕事を邪魔した分ってことでやるよ。アリアもちょいちょい世話になってるみたいだしな。これからも頼む。」


「べつにアリアちゃんはちゃんとお客さんとして来てくれてるからいいんだけどね。むしろあんたの方が迷惑よ。でもまぁこれに免じて許してあげる。」


俺も客だと思うんだがな。

別件の時はちゃんと金も払ってる気がするが…まぁいい。

なんだかんだこいつとも俺にとってはこの世界で長い付き合いのうちの1人だからな。


「…リキ様。終わりました。」


アリアの仕事も終わったみたいだし、このへんで切り上げるか。


「じゃあ用も済んだし行くか。」


「ちょっと待って。」


アリアたちを連れて店の外に出ようとしたところで女に呼び止められた。


「なんだ?」


「本当はあまりいっちゃいけないことなんだけど、この素材のお礼ということで一つ情報をあげる。今回の巫女長の神託で魔王が生まれたことがわかったみたい。今回は魔族領内らしいから大丈夫だけど、極力魔族領には近寄らない方がいいわよ。まぁこの町にいる限りは間に辺境伯領があるから問題ないと思うけどね。」


「その魔王出現が大災害なのか?」


「大災害もしくはその一部ね。とりあえず倒してみないとそこで終わりなのかもっと大きい何かがあるのかわからないらしい。全ては巫女長の神託を聞くまでわからないからね。」


まぁ俺には関係なさそうだな。


「わざわざ教えてくれてありがとよ。ちなみに今回は魔族領内っていうと前回は違ったのか?」


「前回ではないけど、十数年前の魔王は人間の住む村の近くで生まれたらしいけど、私は生まれたばかりだったから詳しくは知らない。」


その村の住人からしたらたまったもんじゃねぇな。


「情報あんがと。また何かあったら教えてくれ。」


「いいけど、その分の見返りはもらうからね。」


こいつのこういうところは嫌いじゃないな。


「あいよ。じゃあな。」


「はいはい。じゃあね。」


今度こそアリアたちを連れて店の外に出た。

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