第68話



5階おきに下りて行って、既に地下65階まで来たのだが、さすがは危険視されるだけあるダンジョンだというべきか、地下45階あたりから魔物が強くなっていた。


数が少ないから問題なく地下65階まで下りてきたが、地下60階の時点でもうカレンだと魔物に囲まれたら勝てないだろうってくらいには魔物が強かった。

アリアでも厳しいかもな。

マリナじゃ一対一でも無理だろう。


俺も1人では5体以上とは一度には戦いたくない。


イーラとセリナは複数相手でもまだいけそうなのがちょっと悔しい。

まぁセリナはそろそろ倒すのが厳しくなってきてるだろうがな。短剣では決定打に欠けるみたいだし。

打撃か短剣の俺も似たようなもんだがな。


地下65階では今のところ魔物が1体しか現れていない。

そういや攻略組が通ったばっかだもんな。そりゃ討伐されてるわな。


「今は何階まで攻略されてんだ?」


「騎士の報告では先頭にいた7組のパーティーが地下72階のフロアボスと戦闘中とのことです。」


マジか。

上位ランクどものフロアボス戦は見たかったが、出遅れたか。


「次は何階なら行ける?」


「地下70階でしたら用意してあります。時間をいただければ地下72階にいる者をお呼びします。」


最初に俺たちについてきた、リスタート用の騎士は地下64階までしか行ったことがなかったから、俺らが5階ずつ下りてるのを考慮して、いつの間にか第三王女が地下65階にリスタートできる騎士を用意してくれていた。


今度は俺たちが地下65階を回っているうちに地下70階にリスタートできる騎士を用意してたみたいだ。


第三王女は気がきくし、使えるやつだな。


「呼ぶ必要はない。地下70階まで行ったら、あとは1階ずつ下りていく。」


どうせフロアボスで多少は時間がかかるだろうし、俺らが通る道には魔物がほとんどいないだろうから、すぐに追いつくだろう。


「かしこまりました。今、報告がありましたが、フロアボスを倒して地下73階に下りたようです。」


マジか。

俺らもちょっと急がねぇと追いつく前に攻略されちまうかもな。

せっかく強い奴らの戦い方を見るチャンスなんだから、逃すのはもったいねぇし。


地下65階で魔物を探すのをやめて、地下70階に下りた。



地下70階はそこそこ魔物が残っているようで、まだ戦闘中のパーティーもちらほら見かけた。


人間の死体もちょいちょい転がっている。

さすがに地下70階の魔物は強いってことか。


「アリアとセリナはカレンとマリナを護ることを優先。イーラは俺と2人で前だ。」


「「「「「はい。」」」」」


前衛が俺とイーラでその後ろにアリア、さらに後ろにカレンとマリナを挟んで、一番後ろがセリナという陣形だ。


第三王女たちはセリナよりさらに後ろにいる。

騎士が前後になり、第三王女とケニメイトが挟まれている。

まぁそっちはそっちで好きにやってくれ。




しばらく歩いていると、エルフの奴隷のパーティーがデカいサソリと戦っているのを見つけた。


「あっ、偽リキ様だ!」


イーラがふざけたことをいったから、ガントレットをつけたまま裏拳をしようとしたら、いつのまにか近づいていたアリアに肘を掴んで止められた。


「…ごめんなさい。でも、イーラが魔族と知られると面倒なことになると思います。」


それもそうだな。

仕方ないから今回は流してやろう。


魔物の強さを知るためにエルフのパーティーの戦闘を少し離れて見ているが、あれは負けるな。

既に3人も紫色になって倒れてるし。


まぁ3人ともボロ布装備だから、サソリに刺されて死んだんだろう。

むしろ残り1人がボロ布装備で前衛をやらされてるのに生きてるのが凄いくらいだ。なかなかいい戦闘奴隷じゃないか。だけど、武器が鞭だから全くダメージが与えられてない。


奴隷の主はせっかく大剣を持ってるのに、デカい盾に隠れて攻撃する気がなさそうだ。


エルフはいろんな属性の魔法を放っているが、サソリは魔法に耐性があるのか、どれもたいしたダメージは与えられてなさそうだ。


たぶん効果のありそうな属性を探してるんだろう。

というか、エルフは詠唱してるっぽいのになんでこんなに連続で攻撃できてんだ?詠唱時間と魔法の連続発動の間隔が合ってないような気がする。



「助けに行かないのでしょうか?」


俺らがエルフたちの観戦をやめて先に進もうとしたら、第三王女が申し訳なさそうに質問してきた。


「なんでだ?人の獲物を横取りするのはマナー違反だし、そもそも俺が助ける義理がない。助けたいなら勝手に行けばいい。俺は先に進む。」


「冒険者のルールにはそういったものがあるのですね。なら私も先に進みます。」


けっきょく助けないのね。


まぁいいけど。


それからしばらく歩き、開けた場所に出ると誰も相手をしていないサソリがいた。


やっとこの階の魔物の強さを直接確かめられる。


さっきエルフたちとの戦闘を見た感じだと尻尾を避けるのは難しくなさそうなのと殻が硬いだろうってのはわかったが、魔物の強さ自体はいまいちわからなかったからな。


「俺とイーラで攻める。尻尾の攻撃を受けたらアリアはすぐに『フェルトリカバリー』を使ってくれ。イーラは尻尾に刺されたら即死すると思ってちゃんと避けろよ。」


どの程度の毒かもイーラに毒が効くかもわからねぇからな。


「「はい。」」


サソリも俺らに気づいたようで、カサカサとけっこうな速度で近づいてきた。


イーラはさっきのエルフたちの戦闘を見て、サソリの殻が硬いのが分かってるからか、やけに柄頭がデカいハンマーを持ち上げた。


なんか見覚えがあると思ったら、あれってさっきの亀の甲羅を加工したやつじゃね?

早速硬さを試そうとしてるのか?

俺がやるつもりだったけど、代わりにやってくれるのは助かるわ。


だが、2人で攻撃に向かってるのに仲間を巻き込むサイズはどうかと思うぞ。


俺は少しサソリから離れた。


イーラはサソリの全長を超えるサイズの柄頭を思いっきり叩きつけた。


ピキッと音はしたが、潰れてはいないみたいだ。


叩きつけた振動がここまでわずかに伝わるほどなのにハンマーには傷一つなく、サソリは少しヒビが入っただけみたいだ。


あの甲羅もやっぱり使えそうだな。

3つだけじゃなくてもっと取っときゃよかったか。


サソリは今ので足が2本折れたみたいだが、イーラに近づいて尻尾を打ち込んできた。


イーラはハンマーを消して赤いガントレットをはめて応対している。

だが、避けるので精一杯で攻撃ができないみたいだ。


まぁ、いつもは仮に当たっても痛くもないっていう余裕があったから気楽に避けれていただろうが、当たったら即死って思ったら避けるのが大きくなって攻撃に移れないのだろう。


この魔物は尻尾攻撃が速いし、いい練習になりそうだ。

ただ、刺されたら本当に即死の可能性があるから、現段階では俺とイーラとセリナ以外に使うのはちょっと怖いか。


イーラもなかなか覚えが早く、避け幅が徐々に小さくなっていく。

少ししたらカウンターで尻尾を殴った。

避けて殴る。避けて殴る。避けて殴る…。


なんか楽しそうだな。

でも全然ダメージは与えられてなさそうだけどな。


おっと、ここで無駄な時間を消費するわけにはいかないんだったな。


「イーラ。尻尾を弾け。」


返事はなかったが、イーラはサソリの尻尾を思いきり殴って弾いた。


俺はそれで空いたサソリの背中めがけて飛びかかりながら、両手を握って全体重を乗せて叩きつけた。


もともとヒビが入ってたおかげか、背中が割れて体液が飛び散った。

だけどまだ生きているようで、俺に向かって尻尾が振り下ろされた。


指示はしてないが、イーラは尻尾を弾き、俺は砕けたサソリの背中に手を突っ込んだ。


『中級魔法:電』


威力を上げて打ち込んだら、サソリの胴体が弾けた。

さすがにもう死んだとは思うが、残った部位がピクピクと痙攣している。


さすが地下70階というべきか、1人で倒すのは厳しくなってきてるな。


2人がかりならまだ問題なさそうではあるが、下りれば下りるほど魔物は強くなるらしいからな。


もう少しここで戦っておくべきか?


「アリア。ここでもう少し戦うべきか?下りても大丈夫だと思うか?」


「…大丈夫だとは思いますが、少しでもリキ様に不安があるのであれば戦うべきだと思います。魔物がもう私では倒せない強さになってしまっているので、私には判断ができません。ごめんなさい。」


アリアはそもそも支援タイプだから、強い魔物を1人で倒せないのは仕方ないと思うがな。

それに魔物との相性もあるし。


「じゃあもう少し戦っておこう。ここからは主に俺とイーラで戦うことになるから、イーラは何かあったらすぐにいえ。」


「はい。」

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