第30話



街の外壁が見えてきたところでイーラを人型に戻させた。


あんなデカい魔物でいられると目立つからな。

門番にヘタに覚えられたくないから、さっさと身分証とこいつらの紋様を見せて通りたい。


…そういえば、イーラの額の紋様がなくね!?

今まで気にしてなかったが、イーラは額に使い魔紋を入れたはずなのに、歩の顔には紋様が見当たらない。

今思い出すと最初に裸だったとき、胸にも額にもなかった気がする。


スライム形態のときには空気すぎていつから紋様がなかったのか全く思い出せねぇ。


「イーラ。使い魔紋はどうなった?」


もしかして自力破壊したのか?

確かにあのムカデレベルになれるなら可能性はあるな。

だとするとこいつはパーティーから外さなきゃならねぇ。


「ん?あー!これのこと?」


手のひらを見せてきたが意味がわからない。

しばらくすると手のひらに紋様が浮かんできた。

細かい部分は覚えてないが確かにこんなだった気がする。


「なんで手のひらにあるんだ?」


「リキ様からもらったこの顔に紋様は入れたくなかったけど、リキ様との繋がりを壊したくなかったから、体内にしまってるの。どこにでも動かせるよ〜。」


別にその顔は俺があげたんじゃなく、お前が勝手に俺の髪の毛を食って作ったんだろ。


一応リンクはしてたから、使い魔紋は壊してはいないようだ。ってか今のいい方だと壊せるように聞こえたんだが…。


「なら胸にしておけ。アリアとセリナとお揃いだ。その紋様がないと街にも俺のパーティーにも入れないからな。ちなみにその紋様を壊したら野生のスライムに戻すからな。」


「リキ様との繋がりを壊したりしないもん!」


よくわからないことをいいながら、毛皮の服の上に紋様を浮かばせた。


「いやいやいや!服の下の人型の胸にしろって意味だ。それじゃ不自然すぎるだろ。」


確かに服もイーラの体の一部だろうけど、そのくらいは悟ってほしい。

ってかそう考えたらこいつは常に裸で歩いてるようなもんなんだな。

まぁスライムだし、ペットだから問題はないか。


「は〜い。」


紋様が見えなくなった。

ちゃんと出来ているかの確認をするために毛皮の服をめくった。


毛皮の服は首の部分に余裕がなく、ボタンもない。だから下からめくるしかないから確認のためにめくった。

ちゃんと上下で分かれているから問題はないと思ったんだが、アリアとセリナが驚愕している。


別に妹の姿に欲情はしねぇし、そもそも見た目年齢的に対象外だ。見た目が良くても奴隷や使い魔に手を出す気はさらさらない。それでも上の立場の俺がやったらセクハラになるのか?


よくよく考えたら、こいつら自分の立場を忘れてるんじゃねぇか?

この世界の奴隷や使い魔に人権はねぇんだぞ?


まぁ俺はそういう扱いをする気はねぇけどさ。

裏切りさえしなければ仲間として扱うし、働きの見返りは支払うつもりだ。

もちろん俺のいうことに対する拒否権だけはないがな。


今はそんなことはどうでもいいな。


イーラの紋様の確認で服をめくっただけなのに驚かれたから、余計なことを考えてしまった。


紋様はちゃんとあったが、この確認方法を門番にやらせるのも悪い気がする。



「リキ様のえっち。」


イーラの顔を掴んだ。


「喧嘩売ってんのか?」


「ごべんなしゃい。」


謝るくらいならいうなよ。ってかどこでそんな言葉を覚えるんだ?

それに歩の顔をしていたから殴らずに顔面を鷲掴みにしたが、違う顔だったらたぶん殴ってた。


なんか最近短気になってる気がしてならない。


元の世界にいたときはそこまでじゃなかった気がするんだけど…ぶっちゃけよく覚えてねぇわ。


まぁいい。

イーラの顔から手を放してやる。


「今の服の首の部分をもう少し緩めにして、そこから紋様の確認を出来るようにしろ。街に入る際に門番に見せる必要があるからな。わかったか?」


「は〜い。」


服だけが半透明な青になり、戻ったときにはだいぶ形が変わっていた。

短パンと厚手のキャミソールみたいな感じか?どっちもたぶん魔物の皮を使ってる気がする。なんせ見たことあるって観察眼が訴えてるからな。


ハナから胸元の紋様の上半分が見えるような服になっていた。


「リキ様〜。かわいい〜?」


「あぁ、かわいいかわいい。あと、人目につくところでは俺の指示がない限りはメタモルフォーゼは禁止だ。」


「は〜い。」


ずいぶんと上機嫌なようで、だらしない顔をしてやがる。

俺の話はちゃんと聞いてんだよな?



そんなやり取りをしていたら、門が目の前というとこまで来ていた。

俺らに気づいた門番が詰所から出てきて、俺の冒険者カードを確認する。


その後アリアとセリナとイーラの紋様を確認していた。


セリナだけシャツの首側をズラして見せていたが、アリアとイーラは上半分が常に見えているからか、チラ見で許可がでた。



中に入って、声が届かない程度に門から離れた後にふと気になったことをアリアに聞いてみた。


「奴隷紋と使い魔紋って紋様が違うけど、見た目が人間なのに使い魔紋をしてても大丈夫なもんなの?」


「…問題はありませんが、魔族を従えているということで有名になると思います。」


確かにイーラは魔族だしな。

イーラの場合は所詮スライムだから魔族といってもたいしたことはないが、他の魔族は強いらしいからな。それを従えてるなんて噂が流れたら間違いなく面倒になるな。


「俺はあまり目立ちたくない。イーラのも奴隷紋にした方がいいのか?」


「…たぶんできないと思います。」


「どういうことだ?」


「…人間を意のままに操るために生まれたのが奴隷紋で魔族を強制的に従わせるために作られたのが使い魔紋と本で読みました。だから、人間には使い魔紋が使えず、魔族には奴隷紋が使えないらしいです。試してないので確実ではありません。補足ですが、異世界のものをこの世界に縛り付けるために存在するのが召喚紋らしいです。」


ずいぶん物騒な物言いだな。


「じゃあ詳しく確認されないことを祈るしかないのか?」


「…はい。」


まぁたぶん門番程度じゃ見比べない限り違いには気づけないだろう。いや、俺のパーティーはどっちもいるから見比べられちまうじゃねぇか。


上半分は同じだから、下半分まで確認されないことを祈るしかないな。



ってか門を通るときだけスライム形態で通ればいいだけじゃん。


気づくのがいろいろと遅すぎたな。


まぁ過ぎたことを気にしても仕方がない。



とりあえず、ガントレットを直してもらうためにおっさんのところに向かうとしよう。

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