敵が弱すぎて不満そうなディアナさん
オラシオが仲間に加わり、再び移動を開始した。
彼はリカルドほど誠実そうな人柄ではなさそうだが、少なくとも信用できそうな人物だと感じた。
ウィリデとフォンスの人員はカルマンの地形を把握していないため、オラシオの案内が必要だった。
彼の話では、カルマンは道々に町や村があるわけではなく、一ヶ所に都市機能がまとまっているらしい。
国境付近から歩けばずいぶん時間がかかるものの、馬が使えるので短縮できそうだ。
しばらく一本道が続くようなので、オラシオを馬車に乗せた状態で、先頭をシモンが走っていた。
進めば進むほど道端の草木が減り始め、敵が潜伏している可能性は少ないと感じた。
道がほぼ直線ということもあって、伏兵がいればすぐに分かる。
どうやら、カルマンの軍勢は引いていたようで、障害のないまま移動を続けた。
小一時間ほど進んだところで、オラシオが声をかけてきた。
「ここまで来ても兵が見当たらないということは、おそらく国の中心に戻って体制を立て直しに行った可能性が高いぞ。それと巻きこんでおいて何だが、危険を感じたらすぐに引き返してもらえるか」
俺たちは彼の話に同意して、さらに道を進んだ。
拍子抜けするほど順調な道のりだったが、途中で敵の拠点が現れた。
砦というほどしっかりした作りではなく、天然の岩壁を代用したような簡素な物だった。
フォンス、カルマンの両国が交戦状態にある以上、さすがに警戒にあたる兵士は配置されていたようだ。先を行くシモンが慎重に進んでいたが、敵に気配を補足された。
岩壁の向こうが騒がしくなったかと思うと、勢い勇んで兵士が飛び出してきた。
「敵襲です。気をつけてくださいよ」
シモンは後ろを向いて声をかけた。
俺は馬に乗ったまま戦うか迷っていたが、彼はそのまま戦おうとしていた。
すぐに敵兵が迫り、戦闘が始まった。
俺は魔術の発動準備をしてから、慌てて馬を下りた。
同じタイミングで後方の馬車にいた味方が駆けてきた。
「カナタ、エルネス、僕はまだケガが回復したばかりで戦うのはむずかしい。ここはどうにか頼む」
「はい、大丈夫です。任せて下さい」
クルトは矢傷が癒えたばかりなので無理はできないだろう。
今は戦える仲間で突破しなければ。
戦いへの恐怖心は拭えないままだが、自分を奮い立たせて戦場に向かった。
「――私を呼んだわりに退屈な戦いね。もっと身悶えするぐらいの激しい戦いを期待してついてきたんだけれど」
この声は氷の魔女ディアナか。
彼女は何かの魔術で砂利道を滑走するように先へと進んだ。
「えぃっ」
「それっ」
シモンが十人以上の相手を一人ずつ減らしていたが、ディアナの魔術で根こそぎ氷漬けにされた。
「ちょ、ちょっと、人の仕事をとるもんじゃないですよ」
「あら、あなたと同じで私も傭兵みたいなものよ。雇われ者同士に遠慮なんていらないと思わない?」
「ぐぬぬ……。魔女と呼ばれるタイプは苦手です」
俺はすぐに駆けつけるつもりでいたが、敵の第一団はディアナに一掃された。
ただ、砦もどきの向こうにはまだまだ敵の気配がしている。
「シモン殿、行くぞ。新参者に先を越されるわけにはいかん」
フォンス兵の一人がシモンに声をかけた。
彼は頷いて前方へ駆け出した。
俺も遅れを取らないように急がなければ。
「この程度の戦場なら、私の敵じゃないわね」
ディアナは不敵な言葉を口にした後、岩壁の向こうへ飛ぶように向かっていった。
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