第438話 監視の目は既に見返されている
分隊が半数ほどやられてしまった―――カッジーラ一味の無事な隊は、当然ながら戦々恐々としていた。
「ある意味、俺らの判断は大正解だったなー」
「ああ、安全圏で高みの見物……文字通りにな、ははっ」
高い建物の上で王都全体を伺う監視達は気楽な気分で今日も、それとなく王都の様子を眺めていた。
「実入りは少ないが、その分だけ安全はどこの連中よりも確保されてる」
「安心安全、地道に稼ぐのが一番ってな。……にしてもー」
唯一懸念があるとすれば、王国側の動きが彼らにはまるで掴めていない事だ。
情報獲得は視認頼みだけなので限界があるとはいえ、各隊のアジトを強襲するほどの王国の兵が動けば、さすがにその数は相当に上るはずであり、集結具合から事前に目標がどこかなど掴めるはず。
だが、これまで隊が潰された際、事前にその兆候はまったく掴めなかった。
「見える範囲でまとまった兵が動いてる様子なんて今までもないのにな、あちらさん、どーやってこっちのアジトに兵を差し向けていやがんだか」
「……もしかして俺達が見てるのがバレてるのか?」
「まさか。ただの一般人装ってるってぇのに? しかもこの高さだぜ、下からじゃあ遠すぎて、俺らが何してるとかどこ見てるだとか分かるわけねぇよ」
とはいえ不安は拭いきれない。
もし監視がバレているなら、その死角になるところを移動するだけで簡単に目をあざむける。
それなら、兵士の集結の兆候なく各隊のアジトが攻撃を受ける不思議にも説明がついた。
「考えすぎだって。それに万が一、そうだったとしてもよ。結局やられちまうのはそいつらが王国の兵士らに負けたってぇことで、俺らの責任じゃねーよ」
確かにその通りではある。だが監視組は各隊に情報提供することで分け前を貰っている小隊だ。情報の提供先である他の隊が潰れて数を減らしてしまえば、自分達の収入も危うくなる。
「少し、監視体制を強化するか?」
「と、いうと?」
「上からだけじゃあなくて、下に降りてそれとなーく死角になるあたりをカバーするんだ。どっかの隊のアジト襲撃の兆候さえ掴んで教えりゃあ、この次々隊が潰されてる状況なら、デカい恩を売れるぜ?」
確かに、他の隊が連日やられている中、攻撃の兆候を掴んで事前に教えることができれば、その標的になった隊は対策が取れるし、監視組に恩を感じることだろう。
彼らは頷き合い、それでいこうと承諾する。
―――だが、それは彼ら監視組の存在がバレていない前提での話。
バキッ、ドカッ、ゴンッ
「う、う……ぐ……」「いきなりなにす……」
「そろそろ降りて来るだろうとは睨んでいたが、こうも読み通りだと逆に気味が悪いな」
リュッグは殴られて朦朧としている男を縄で縛ると、肩をすくめた。
「さすがリュッグさん。ですが、どうして下に降りて来るのを待つ必要が?」
ザーイムンが、そこが不思議だと言わんばかりに聞いてくる。
「上は狭い。戦うには立ち回りが厳しいし、それは相手も同じだ。ならどうするかと言えば、外に飛び出して建物の壁や屋根伝いに逃げる選択を取るだろうからな。王都内に逃げ込まれた場合、探すのが大変になるし、こちらの事が一味の仲間にバレるのも避けたい」
「なるほど、俺……理解。確実に逃がさない、で……捕まえる。それで、待つ」
ルッタハーズィが納得いったとウンウン頷く。
だがムシュラフュンはなお疑問があると言わんばかりに、口を開いた。
「降りて来たコイツら、捕らえた。……仲間が戻ってこない……敵は、おかしく思わないか?」
「いい着眼点だなムシュラ、その通りだ。ここから時間をかけてしまえば、上に残っている奴らは仲間が帰ってこないことから場を放棄して逃げだす可能性が出てくる。なので次は―――」
・
・
・
「! なんだテメェら!?」
「おっと、大人しくしてもらおう。抵抗しないなら命は保障するぞ」
しかしリュッグの言葉など聞くに値しないとばかりに無視し、賊達は互いに見合って頷き合うと、尖塔の外へと飛び出した。
脱出の一手―――それはリュッグの想定通りの行動。
ガシッ! ガシッ!!
「!?」「なっ!??」
建物の外から登り、尖塔の外で待っていたザーイムンとムシュラフュンが、綺麗に飛び出してきた男達をそれぞれ羽交い絞めにキャッチした。
「リュッグ、遠眼鏡見つけた。……おぉー、コレ遠く、よく……見える」
リュッグと一緒に乗り込んだルッタハーズィは連中の持ち物を調べ、
その様子をリュッグが横目で見ると、他にも簡単な食料や水、酒、防寒具など、いかにもこの場で監視をし続けるのに必要なものが床に散乱していた。
「バレてない、と思った時はだいたいもうバレてるもんだ。逃げ出すのが遅すぎたな」
「くそっ」「離せコラッ!!」
捕らわれた賊二人は懸命に暴れ、後ろのザーイムンとムシュラフュンに出来る限りの攻撃を行う。
だが
しかしムシュラフュンは、うっとおしいと思ったのだろう。思わず静かにしろと言う意味で、男の両脇に回している自分の両腕を強めに後ろへ引き、握り拳でコツンと男の頭を殴る。
だが、両肩の骨が外れる音と共に、男は失神。
その様子を見ていたもう一人は青ざめ、ザーイムンの拘束の中、途端に大人しくなった。
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