第十五章

飛び込む女子は連絡網を携える

第421話 難しいテレパスフォンの規格




 カッジーラ一味の賊、マンハタが後宮に捕らわれてから1週間後。


『(……―――情報通りだ。6……いや8人で動いている、そっちは?)』

『(10人ジャスト。間違いないみたいだな、半身半疑だったが―――……)』

 王都内を “ 王賜おうし直令ちょくれい部隊 ” の隊員たちが移動し、互いにソレを確認し合うと、頭の中で念じて会話する。


 数日の訓練こそ要したものの、ホマール以下15人は、シャルーアに精神へと焼き付けられた力のおかげで、離れていても互いに疎通する事が可能になっていた。




『(シャルーア様のお仲間によれば、オッタポヌ大臣が幅をきかせている区画が一番怪しいとのことだが……)』

『(ああ、マンハタっていう捕虜が吐いた情報とも一致する、って言ってたな。

  ということはこの拠点はヤツらの本隊じゃない……?)』

『(可能性の話だ。こっちが本隊だっていうセンもゼロじゃない―――動いた、引き続き偵察を続ける。そっちも気ぃ抜くなよ)』

『(おう、互いにな。―――……さて、と」

 同僚との念話を終えると、軽く呼吸を整えてから、彼は今まで見ていた方角とは別の方角へと向き直る。


 そして、再び念じはじめた。



『(あー、あーあー……聞こえますかー? こちら、“ 王賜おうし直令ちょくれい部隊 ”のウルモックです)』

『(はいはーい、聞こえてるよー。こっちはアンシージャムンだよー)』

 彼ら、“ 王賜おうし直令ちょくれい部隊 ” の隊員は、シャルーアによる “ 焼き付け ” によってこの念話が可能になった。なので彼らの念話は、同じくシャルーアのエネルギーの影響を多大に受けたアンシージャムンらとも可能であった。


『(これはアンシージャムン様、シャルーア様は?)』

『(ママーはねー、あのマンハタってのをエルアと一緒に搾り取ってる・・・・・・真っ最中~。アレは搾り尽くさないとダメなんだってー)』


『(そ、そうですか……)』

 ウルモックは羨ましくも可哀想にと、マンハタとやらに同情した。


『(ちなみにラフマス君も手伝ってって、さっき軽く目を回してたよ、情けないよねー、たかだか10時間休みなしくらいでさー)』

『(えーと、出来れば手加減してあげてくださいとお伝えを。……ゴホン、それともう一つ、お伝えください。例のユッバム大臣の区画のカッジーラ一味は10人いました。まだ真昼ですので、夜までこのまま偵察を続けます、と)』


『(おっけーおっけー、伝えとくー。お仕事ご苦労さまー、ウルモック君)』

 アンシージャムンは、最近覚えた “ 君 ” 付け呼びでウルモックをねぎらうと、念話を切った。


  ・


  ・


  ・


「ん-、念話って面白いなー。こっちから問いかけられないのがつまんないけど」

 シャルーア曰く、アンシージャムンらタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達は、自分から念話をかける事ができない。


 その理由は、シャルーアのエネルギーを焼きつけられた “ 王賜おうし直令ちょくれい部隊 ” とは違って、エネルギーを取り込んでその心身魂が進化した5人は、それぞれが異なる性質を持つ状態になっているのだという。


 念話はエネルギーの共通性などによって通じる。なので同じシャルーアからエネルギーを受けた者同士で念じあえる。


 だが、“ 王賜おうし直令ちょくれい部隊 ” の何万倍ものシャルーアエネルギーを持つアンシージャムンらは、相手から念話を送られてきた場合は余裕で受け止められるものの、逆に相手に念話を送ろうとしてしまうと、自分達のぶっとい回線で相手のか細い回線の接続端子を押しつぶしてしまう形になってしまう。


 そして、タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人同士だと、その接続端子の形状が違うようなものなので、やはり念話が通らない。

 唯一、全員からの念話を受け止められるのがシャルーアなのだが、彼女も彼女でアムトゥラミュクムほど自在に自分の力が使えていないおかげで、まだ自由自在とはいかない。


 アムトゥラミュクムの場合、シャルーアエネルギーを込めた武器を持たせた相手とすら自在に念話ができ、感覚を異空に導いて視覚的に対する事すら出来たが、今のシャルーアではまるで及ばなかった。





 念話があってから20分後……


「ただいま戻りました、何かありませんでしたか、アンシー?」

 アンシージャムンが後宮ロビーで暇だとばかりに寝そべってゴロゴロしていると、シャルーアがロビーにやって来た。後ろには足元おぼつかない様子のラフマスもいる。


「あ、ママー。えっとねー、おーしちょくれーぶたい? の、えーと……そうだ、ウルモック君だ! そのウルモック君から連絡があったの! えっと―― “ れーのユマム大臣のきゅーかくのカッジーラ一味はじゅーにんいた。真昼だから夜までてーさつを続ける ” ――だって!」

 忘れないようにメモした紙を読み上げるアンシーは、読み切ったあとにエヘーと笑顔を見せる。

 シャルーアは、頭なでなでイイコイイコをしてあげた。


「ありがとうございます、アンシー。受け答えできたみたいですね」

「うん、念話おもしろい。……あれ? ママー、エルアは??」

「マンハタさんが失神してしまいましたので、後のケアをお願い致しました。リュッグ様達にお伝えしなくてはいけませんから、エルアが戻ってくるまで聞き出したことを紙に書き出したいと思います」

「はいはいはーい! アタシが書くー!」

 アンシージャムンが、文字の書き方を覚えたばかりの子供のように、張り切って立候補する。



 シャルーアは温かな笑みをこぼし、その後ろでは軽くやつれたラフマタが、力無い笑顔を浮かべながら、その微笑ましい姿を眺めた。



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