第384話 感じていたモノを理解する




 アンシージャムンとエルアトゥフはメサイヤ達から離れ、わずか数分後にはグラヴァース南軍の後陣へと到着していた。


「では怪我人はこちらで診ておきますね」

「よろしくー」

「よろしくお願いします」

 グラヴァース軍の看護兵に挨拶し終えるや否や、二人はすぐさま治療用天幕の前から去り、シャルーアのいる天幕へと駆けて行った。




 バサッ


「ママー、ちょこっと久しぶりー!」

「かかさま、お元気でしたか?」

 天幕に駆けこむ様は、お外で駆けまわって帰って来た子供のようなあどけなさ。

 転がり込んできた二人に、護衛の兵士が反射的に剣を鞘から抜きかけるも、シャルーアが大丈夫と声をかけ、彼らを制した。


「怪我をした人を運んでくれたと聞きました。二人ともお疲れさまです」

「「えへへー」」

 それぞれの頭を撫でられ、二人は表情を緩ませながらまるで愛猫のようにおとなしくなる。

 3人の美少女の仲睦なかむつまじい様子に、護衛の兵士達は剣を鞘に戻しつつ軽く鼻の下を伸ばしていた。



「あ、そーだ! 伝言もあったっけ! えーと……なんだっけ、エルア?」

 アンシージャムンが撫でられて気持ちいいままに、寝てしまいそうなまどろみに突入しかける寸前で頭をあげた。


「捕えた敵から聞き出した、魔物化のお薬のお話です。あと、メサイヤさんのところに、兵力とお薬などの物資も送って欲しいっていうお話でしたよ、アンシー」

「そうそう、それそれ!」



  ・


  ・


  ・


 二人から話を聞いたシャルーアはさっそく、南軍後陣の取りまとめをしている小隊長のフオムフに兵力と物資の融通をお願いした。


「なるほど、そういう事でしたら700の兵と各種薬および医療品の類、それに工材や食糧品も送る手はずを整えましょう」

「よろしくお願い致します。……あ、それとこのお話は―――」

「分かってますよ、シャルーア様。北のグラヴァース様にも伝わるよう、手配いたします。エスナ家の御令嬢率いる兵が東の本陣跡におりますので、そこを経由し、伝達させますので」

 ルイファーンが兵を引き連れてやってきたという話を聞いた時は驚いたものだが、同時にあの人ならそれくらいやりかねないと納得感があった。


 東を固めるためにも、現在この南軍後陣から1000が出されて移動中だ。


 元々8000が割り当てられていた南軍だが、橋頭堡の確保と南門の拠点化、そしてヒュクロ勢との戦闘続きでそれなりに兵力にも損失が出ている。


 そんな中で他に兵力を割くのは、なかなかさじ加減が難しい事を求められつつも、フオムフは笑顔で上手くこなしていた。



「よろしくお願い致します。……それと、このコ達がこちらに来ましたので、私はリュッグ様の方に合流しようと思います」

 南門拠点にいるリュッグにも、情報を伝達する必要がある。


 だがそれ以上にシャルーアは魔物化の丸薬の話を聞いて、かねてより感じていた敵の “ 気配 ” の分布とその内訳を理解し、話の通り、敵の大将たるヒュクロがもっともその薬を服用しているとしたら、確実にソレと思われるひときわ大きな “ 気配 ” の居場所を把握できている。


 つまりシャルーアは実質、敵の大将を討つために必要な情報を掴んでいた。






――――――エル・ゲジャレーヴァ南門拠点。


「ヒュクロの居場所を特定できる……本当か、シャルーア?」

「はい。先ほどお話した通り、情報が事実でしたら、大きな “ 気配 ” をずっと感じていましたので、それがヒュクロだと思われます」

 かつて、バラギの血から感じた嫌な感覚ほどではないにしろ、それの残滓ざんしのような気配を、魔物化した元囚人たちから感じ続けている。


 しかしその気配の強さ、大きさがバラバラだった。


 何故だろうとずっと不思議に思っていたところ、アンシージャムンとエルアトゥフが伝えてきた情報のおかげで、ようやくその理由が判明した。


 シャルーアは確信にちかい自信を持って、リュッグに伝える。



「ふむ、なるほどな。確かにヨゥイ化した連中の気配は異質だ。シャルーアならそれを敏感に感じ取っていてもおかしくない……か。それでいうと、ちなみに今ヤツはどこにいるか……分かるか?」

「はい、分かりますリュッグ様。あちらの方向、距離は……7~800mほど先に、一番大きな “ 気配 ” があります。今は動かず、じっとしていますね」

 シャルーアが具体的に述べたことで、周囲の兵士達もおぉっと驚く。


 それに対し、何故かアンシージャムンが胸を張ってドヤ顔をしていた。



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