第356話 逃げる獲物を追いかけた先
グラヴァース軍がエル・ゲジャレーヴァに半包囲する形で西から迫る中、メサイヤ一家500名は突出して先行。
唯一エル・ゲジャレーヴァの外壁に接触しようかどうかというところまで迫った。
『先鋒部隊のようですね、軽く蹴散らしてしまいましょう』
ヒュクロがそう述べると、鬱憤のたまっている手下たちが言われずともと言わんばかりに勇んで飛び出してゆく。
500に対して300程度が飛び出していった。数の上では少ないが、個々の強さの差ゆえにこれでも過剰すぎる戦力。
だがメサイヤ一家はそんなヒュクロ側の迎撃に対し、まともに取り合うことなく外壁に沿ってエル・ゲジャレーヴァの南側へと回り込むように移動した。
『ナンだァ? ヤる気がネェのか、それトも怖気づイタのカァッ!?』
魔物化したとはいえ元人間。まるで自分達から逃げるかのような敵に対してケラケラと笑い飛ばす。
だがメサイヤ一家は一切振り返ることなく、そのまま走り去っていく。
『オイオイ、待テヨぉ』
『少しクらイ、遊ぼウぜェ!』
笑いながら本気ではない脚で追いかけて来る敵に、メサイヤはしたりと笑った。
そのままメサイヤ一家はぐるりとエル・ゲジャレーヴァの外壁沿いを回るように走る。外壁上から見ていたヒュクロ側の手下たちは日頃のヒュクロへの不満もあって、ストレス解消とばかりに次々と飛び出し、メサイヤ達にちょっかい出さんとした。
ヒュクロも何か策の可能性を危惧し、メサイヤ達の姿を見失わないよう外壁上を駆け、追いかける。
結果、1周回る頃にはメサイヤ達の後ろを追いかける者は3000にも達していた。
「親分、大成功ですぜ!」
「そのようだな。このまま “ 網 ” に入れるぞ。入れ終わったら反転だ」
「「「へいっ!!」」」
ヒュクロの失敗はメサイヤ達を目で追うべく移動したことにある。
メサイヤ一家がエル・ゲジャレーヴァの周囲をまわっている間に、グラヴァース軍は東方にてすでに迎える態勢を整え終えていた。
『! あれは……しまった!! 全員を戻させなさいすぐに!!』
指示を飛ばしても既に遅い。
やや大きめの包囲の輪、開けられていた箇所からメサイヤ達が敵3000を引き連れて入る。
途端、包囲網は一気に狭まり―――
『な、ナんダぁっ!?』
『いツの間にカ、敵ダらケダゾ!!??』
現場の兵の目線では周囲の状況というものはかなり不明瞭なものだ。
とりわけ固まって行動する集団になると、まわりが見えるのは集団の一番大外にいる一部だけで、内にいる者は味方の身体で視界が悪い。
なので外壁上から見るヒュクロからは一目瞭然な誘引の罠も現場の者は気付けない。
だが魔物化した3000は強い。並みの兵士で取り囲むだけでは簡単に破られてしまう。
グラヴァース軍もそれは例外ではなく、ただ囲っただけで優勢であるとは言い難い。
しかし包囲が狭まり、敵と兵士が完全に接敵した状態で隙間を縫うようにして敵中に入り込んだ5つの影が、そんな個体の力量差を埋める遊撃を始める。
「ひゃっほーい、アタシ達もようやく思いっきり暴れられるってワケね!!」
アンシージャムンが足を止める事なくすれ違うと同時に敵の臓器のある箇所を、軍から借り受けた短剣や手刀で的確に突き……
「パワーより、スピード……数、傷つける、数、ぶん殴る」
ルッタハーズィが巨躯を軽く縮こませながら疾走し、両拳を敵1体につき1発をぶち込んでいく。
「かーさんに褒めてもらう……頑張ろう」
ムシュラフュンが戦闘後のイイコイイコを想像し、子供のような笑みを浮かべながら襲い掛かってくる敵をかわすと同時にその腕や脚を取ってはゴキリと簡単に骨を折った。
「えーと……使い方は、これでいい、んだよね??」
エルアトゥフは素早く地を這うように走り、時に敵の股下をくぐり抜け、時に脇の下を通り越し、同時に刀を振るって斬りつけてゆく。
この世でもっとも慕うシャルーアが貸してくれた刀を大事に扱いながら、しかし敵1体に対して確実に軽傷では済まない1斬りをつけていった。
「張り切っているな、みんな。こっちも負けていられない!」
ザーイムンが走り抜けられぬように隙間を閉ざして取り囲んできた複数の敵に対し、鼻で笑うように息を一つ
ドゴッ、ズゴッ、ガスッ、バギャッ、ズンッ、ゴドボッ!!
1体に対して1撃のみ。だがその1撃で漏れなく敵は反撃できないほどの苦痛をその身に味わう。
拳が、膝が、足先が、頭が、肘が……
肉体の武器となる箇所全てを用いて、一切の硬直なく圧倒的多数の相手をもろともしない戦いっぷりは、まるで1人で複数を相手取る戦いのお手本であるかのよう。
こうして5人の
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