第338話 なにもかもお母様のいうとおりっ!
アムトゥラミュクムの顕現が解け、シャルーアが表出したことは、特に兵士達に混乱を読んだ。
「久しぶり、というのはヘンか?」
「はい、
「――ああ、分かった。そこまで言わなくていいから、十分分かったよ。アムトゥラミュクムの言っていた通り、あくまでも同一の存在ってワケだな」
リュッグが確認するように問いかけ、シャルーアはそれに答える。
その様子が何とも不思議で、兵士達はじっと伺い続けていた。
リュッグとの話が一息ついたところで、兵士達を代表して隊長のイクルドが話しかける。
「あ、あのー……雰囲気がかなり変わったのは、ええと……」
「はい、アムちゃん様は現在、私の中でお休みしています。ずっと顕現なされていましたから、少しお疲れのようです、イクルド様」
「は、はぁ……って、どうして自分の名前を??」
「アムちゃん様と私は、同一の存在です。アムちゃん様が表に顕現成されている時でも、私は同じように見聞きしておりますので、アムちゃん様が知り得た全てを共有しております」
「な、なるほど……」
本当は、いまひとつよく分かっていないのだが、とりあえず難しいので分かったことにしておく。
すると、イクルドとの話を終えたタイミングを見計らって、今度はザーイムンが問いかけてきた。
「ママ、お聞きしたいのですが、今回俺達の元に来られたのは、何かご用があったのでは??」
さすが長男。キチンと場を見て、話しかけるタイミングを見ていた事に、シャルーアは薄っすらとほころんだ。
「はい、ザーイムン達も気付いているかと思いますが……」
「ここから西の方の、しばらくザワついてる気配ですね? はい、ずっと感じていました。ですがこちらに
するとシャルーアはザーイムンの頭に手を置いて優しく撫でた。いわゆるイイコイイコである。
「ああー、ザーイずるいー!」
「……く、俺も、母に……撫でてもらいたい」
他の子らから羨ましいと声が上がる。
「(ほ、本当に
リュッグとて話には聞いていたが、実際にこうして親子してる光景を目にすると、何だか不思議な気分になった。
(※「第189話 リュッグと進化した子供達」など参照)
とはいえ、本当の血のつながった親子でないにしろ、誰かの世話を見たりする事はいい経験だ。
実際、シャルーアは彼らに接する時、いつもの無表情ではなく、薄っすらと感情が表れている。いい傾向だ。
「それで、俺達はそのザワつきの元凶を退治しなきゃならなくてな……。しかし、そのための戦力が足りないんだ」
ほっこりとした気持ちで眺めていると、いつまでもシャルーアは5人の頭を撫でてて話が先に進まないので、リュッグが口を挟んだ。
「はい、そのために―――」
「私たちの力が必要、なのですね、かかさま!」
エルアトゥフがフンスと鼻息を一つ
こうしてシャルーアと対面していると、本当に母子か姉妹と言われても分からないほどよく似ている。
アムトゥラミュクムが顕現してシャルーアは髪が伸びたので、髪型の差や全身灰色であるか否かで見分けがつくものの、まさに鏡写しだ。
「そうなのですがその前に、
「? なんだシャルーア。そういえばアムトゥラミュクムが練習をさせるとかどうとか言っていたが……」
リュッグがそう言うと、シャルーアはコクリと頷いた。
「はい、今のこのコ達なら、きっと “ 耐えられる ” だろうと、アムちゃん様が判断されましたので、アムちゃん様がお休みの間に、私が
「! はい、ママ!」
「俺、並ぶ、母の命令!」
「あ、こらルッタ、アタシが先でしょー! ママーの命令に関しては譲らないかんねっ!?」
「すまない、かーさん。騒がしくて」
「ムシュラもほら、並ぼう? かかさまを待たせちゃダメだから」
あの災害級の魔物を余裕で倒し、その死骸を楽々処理する怪人達が、明らかに身体能力で劣るであろう少女に嬉々として従うという爽やかな朝の光景。
イクルド以下10名の兵士達だけでなく、リュッグも片眉を軽くあげて驚きを露わにしていた。
「シャルーア、一体何をするんだ??」
「はいリュッグ様。このコ達に、“ 種の壁 ”を越えてもらおうと思います。もし、もっと前の段階でしたら、きっと耐えられないですが、今のこのコ達なら乗り越えられるはずですので」
「種の……壁?」
どういう事なのか分からないが、話ぶりから推測するに、おそらくは更に彼ら5人を進化なり成長なりを促すという事なのだろうと、リュッグは解釈する。
ザーイムン達も何をするのかワクワクしながら、シャルーアの言葉を待っていた。
「では、これから1人ずつ……そうですね、私とお家の中に入ります。そこで “ 種の壁 ” を越えてもらいますが、とても大変な事です。5人とも、覚悟してくださいね?」
「「「「「はい!」」」」」
怪人達に恐れは微塵もない。他ならぬ
……しかし、この数分後。
オアシスに怪人達の奇声がこだます事となり、その奇妙な目覚ましによって、いまだ寝ていたアワバ達も起こされる事となるのだった。
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