第337話 母子の語らいと替えってきた少女
そして翌日。
朝早くから、5人の怪人達はアムトゥラミュクムの前で正座していた。
『……と、いうわけでな。心配はいらぬ、安心するがよい』
シャルーアと自分の関係を改めてイチから説明し、5人はそれを聞いて頭の中で咀嚼するようにやや間を置いた。
「なるほどっ、つまりママーのママーのママーの……
アンシージャムンが分かったとばかりに、元気に片手を上げた。
『ふむ? あれからも人と接触があるようだが、良しなにしておるか?』
かつて教えたことのない言葉を口にする―――それはつまり、シャルーアと別れて以降に、彼らのオアシスへと人間が来たことがあるという証拠だ。
「はい、頻繁ではありませんが時折。ママの言いつけ通り、いきなり攻撃するなどはしていませんから、安心してください」
長男のザーイムンが、頼もしい口調でハキハキと答えると……
「歓迎すると、最初は驚く。けど、料理振る舞うだけで、皆笑顔……かーさんに教わった通りだった」
やや食い気味に次男のムシュラフュンが自分も話がしたいと言わんばかりに声をあげた。
『ふふっ、
「俺、母に同意。1度? 悪いこと考えるヤツ、きた。けどそういうヤツ、容赦しない……俺達、母の言いつけ、守る」
三男のルッタハーズィがそう言うと、長男と次男、そして長女のアンシージャムンがウンウンと頷く。
が、次女で末っ子なエルアトゥフが、ん? と言った感じで何か忘れてるようなー、と呟きながら小首を捻った。
『エルアトゥフ、いかがした?』
「あ、はい、かかさま。ええと……思い出せ―――あっ、そうだよアンシー。ほら、あの時のヘンな人間のこと、かかさまにっ」
「んー? ヘンな人間……?」
エルアトゥフに言われて、アンシージャムンも首をひねる。
ポクポクポクと一定のリズムを刻む音が流れそうな沈黙の間をおいてから、妹が何の事を言っているのか思い出したとばかりに、あっ、と声をあげた。
「そーだそーだ、あの人間のクセに魔物みたいになってたヤツらのことね?」
エル・ゲジャレーヴァの大監獄が崩壊して間もない頃、そこから出た魔物化した囚人の一部が、このオアシスに比較的近いところまで来たことがあった。
しかしその際、遭遇したアンシージャムンとエルアトゥフは、一通り
(※「第267話 成長した子らは今日も変わりなし」参照)
その話を二人から聞いたアムトゥラミュクムは、フムと少し考えながら座り姿勢を一度直し、足を組み替えた。
『その一度きりか、その後は?』
「ぜーんぜん。あの時は確かー…5人くらいだったよね、エルア?」
「アンシーがリーダー格っぽいのを1人で相手して、私が4人に絡まれて……はい、5人です。あの後は、ああいう人達は来てませんよね?」
「うん、気配も感じてないから、単純に遭遇してないだけってわけでもないんじゃないかなー。この辺りには来てないはず」
アンシージャムンとエルアトゥフの話から、アムトゥラミュクムはなるほどと理解を示した。
同時に、その両目を光らせた。
フォンッ
「んお? 温かい……風が?」
ムシュラフュンが火の消し忘れや火事を怖れて、念のため周囲を見回し、
「今のはママから?」
ザーイムンが発生元と思しきアムトゥラミュクムを伺い、
「俺、温かい……好き。馬車で一緒に寝た母の温もり、思い出す」
ルッタハーズィが思い出に浸り、
「今の、なんか気持ち良かったねー、エルア。一瞬だったけどー」
アンシージャムンはキャッキャとはしゃいで、
「ふわわ~、かかさま……神々しいですっ」
エルアトゥフはアムトゥラミュクムの様子に感動していた。
『(ほう、我の波動を受けても問題なきほどに進化しておるとは)』
アムトゥラミュクムの放った波動は、この近辺地域に潜む、全ての生物を感知するため。
一瞬のこととはいえ、妖異や邪悪なる者らにとっては不快極まりないものとして感じ、場合によっては逃げ出しさえするソレを受けて、心地よいと感じている5人。
ほぼ人の姿であるとはいえ、
本来ならばアムトゥラミュクムの波動は、嫌悪の対象にしかならないはずだが、成長と進化が良い方向に繰り返された結果、やはり彼らはもはや妖異や邪悪なる者らとは異なる存在として、その生命を確立させつつあるのだと、神は確信した。
「……ふぁあ~…。おや、朝早くから6人揃いで何をしてるんだ?」
テントから出てあくびと背伸びをするリュッグ。
『おお、良きところに起きてきよったなリュッグよ。丁度良い、汝もこちらに来るがよい』
ほれここだと、丸太椅子の自分が座ってる隣をポンポンと叩いて座るよう促すアムトゥラミュクム。
「なんだなんだ? 今度は一体何を―――」
『我はしばし休眠する。で、だ……その間、少しばかり
「? は、はぁ……?」
リュッグはまだ完全に目が覚めてない自分を覚醒しようと、寝ぼけ眼をこする。
『では後は良しなに頼むぞ……リュッグさま」
丁度、朝の太陽の光が浅い角度で差し込み、7人を眩しいほどに照らす。
あまりの眩しさに眼をこすっていたリュッグは、そのまま少し両目をおさえていたが、まぶたの上に光を遮るように手の平を配置して視界を確保する。
と、怪人たちが少し驚きの表情で自分の隣を見ているのが分かり、リュッグもそのまま隣を向いた。
「大丈夫ですか、リュッグ様? 目のお薬が必要でしょうか??」
「アムトゥラミュクム―――いや、この雰囲気……シャルーア、か?」
すると褐色肌の美少女は両目をぱちくりさせると、さも当然とばかりに頷く。
「はい、もちろんですリュッグ様。アムちゃん様が少しお休みするとの事ですので―――ふわわっ??」
シャルーアが言葉を紡ぎ終える前に、怪人の子達が飛びついてきて、シャルーアは椅子から転げ落ちた。
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