第317話 半生命の魔物
ザッ、シュバッ、キィンッ、ギシッ
路地裏に戦闘音が鳴り響く。
場所はやや込み入った、普段から人気も少ない閑静な場所だ。夕焼けの光以外に水を差すモノはいない。
『おかしい……』
『直せない……なぜ?』
オトとウェリだったモノ達は、焦りを覚えていた。
どんなに深く傷ついたとしても、形状を整え直せば何事もなかったかのようになくなるダメージ。ところが、何度やってみてもダメージは残ったままだった。
「なーる、本当は不死身ってか!?」
ハルガンがおっかねぇなと言いつつも、余裕の笑みを浮かべながら槍を振るう。もしこれがただの武器であったのなら、どんなに攻撃を当てても立ちどころにダメージ0に戻る―――この魔物はさぞ驚異的な相手だったことだろう、
「へっへっ、だが不死身だったとしても、動きは素人だなぁっ」
デッボアもハルガンに合わせつつ、槍の穂先を次々と当てていく。
実際、相手の動きはかなり悪い。それっぽい姿をかたどっているだけで、何か武芸の心得があるでもなければ、戦闘経験すらないド素人そのもの。
「二人とも油断すんなよっ、隠し玉の一つや二つあると睨んどけっ」
言いながら、アワバがシミターで魔物の腕を切り落とす。だが大ダメージを与えたとて一切ゆるみはない。最優先は、決して逃がさないこと―――そのために相手の動きに合わせて、位置取りを完璧にすることに、アワバの意識は集中していた。
『うっとおしい……』『小賢しい……人間め』
オトとウェリの姿を止めてから、やたらと無感情な口調を貫く2体。
しかしながら、明らかに焦れている。
「(……お嬢―――あの神様っつーのは、100%殺しきるように、って言ってたが……)」
普通、マークしていた敵が、さほど強くないのであれば捕えて尋問し、情報を引き出すのがセオリーだ。
しかもコイツらは国家の中枢ともいえる王宮の、その奥にある後宮にまで入り込んでいた潜入者。ますます捕えて情報を吐かせるべきだ。
しかし神―――アムトゥラミュクムは、絶対の殺害をアワバ達に命じていた。
「……テメェら、一体なんなんだ? 並みの魔物じゃあないよなぁ?」
考えた末に、アワバは折衝案を
戦闘中にも問いかけ、少しでも有益そうな情報の欠片でも拾えれば……
だが、アワバの考えは大当たりだった。
『ただの魔物……』『一緒にするな……』
魔物達の癪に障ったのか、攻撃に力が入りだす。
だがそれでも余裕で対応可能な範囲内だ。アワバは攻撃に対応しながらも、なお言葉を投げかけた。
「はーん、ただの魔物じゃなきゃ何なんだ。どうせたいして変わらねぇんだろう? 自分達は普通とは違う、って言う奴ほど、大した事ねぇってなっ」
アワバのシミターが鋭く閃き、一瞬で3撃の金属閃が魔物の眼前で舞う。
新たにできた傷は浅い。が、どうやら魔物のプライドにはしかとダメージを与えたらしい。
『キューブレン様が子の私達を……』『……甘く、見るなっ!』
「(はい、情報いただきやしたってな。キューブレン? それがコイツらの親玉か……子ってことは、それなりに年くってる魔物か?)」
激昂し、ぽろっと口が滑ったことにも気づかず、アワバ達に襲い掛かる魔物。
しかし、いきり立ったところでその実力が増すわけもない。
ドカッ! ズシュッ!!
「おっと! 惜しい惜しい」「デッボア、遊ぶなよ」
ハルガンとデッボアが1体の頭と下半身に楔を打ち込むように槍を突き入れた。
そのまま貫き、地面と壁に縫い付けるように刺す。
『ぁあああああっ、……な、ぜ……こん、どは……変えられ、ない……?』
ドロドロになる事もできなくなった事が、信じられないと言わんばかりに驚愕する魔物。
全身傷だらけで、ダメージの蓄積がその変化する能力が使えない原因かと考える。
しかし、ダメージの蓄積で自分達の生に根付いた能力が使えなくなる、というのは考えにくいこと。
ザンッ、ドシュッ、ザシュッ!!
『おぉおおおおっ、……にん、げんっぅうっ』
アワバと対峙していたもう1体は、四肢を切断され、憤りの咆哮をあげる。
「悪ぃがお前らは、アッシらがここで完璧にヤらせてもらうぜ、あばよ!」
ザザンッ!!!
高速に無数の斬撃が走り、魔物の身体は何等分にも切り分けられた。
地面に落ちたそれらは、やはりドロドロに変化することができないまま転がる。
「で、だ。確か―――……このあたり、だな」
アワバはデッボアとハルガンの槍の位置を見ながら、シミターを見定めた特定の位置に置いた。
「(えーと……あーあー、聞こえやすか、神様ー? 命令通り、魔物は動けないまで痛めつけてやりやした。これでいいんでしょうかね?)」
『(うむ、ようやった。武器は所定の位置取りに配したか?)』
「(へい、間違いないかと)」
『(では少しばかり、離れるがよい。巻き添えを喰らわぬようにな。………)』
ポゥッ……
アワバ達の武器が光りだす。そして互いに繋がるように線が結ばれたかと思うと、正三角形の形状を浮かび上がらせ、夕日に近いオレンジ色の輝きが放たれた。
『! ンアアアァァ!!』『!? ……ォ。ォオ……ァァァァアアア!!』
輝きに触れた瞬間、魔物の身体から色が消えてゆく。
そして、広がる光の本体に触れたところから燃えるような発光を放ちながら灰となっていった。
そしてその大いなる輝きが止む頃には、魔物は灰の1粒すら残さず、この世から消え去った。
――――――ジウ王国、某所。
「! ……」
キューブレンは、身体をビクリと振るわせた。
いつもの半生命を産み落とす前兆ではない。むしろ逆―――我が子が死んだことが伝わったが故の身震い。
しかし、それ自体はそんな珍しいことではない。
無数に産み落とした半生命は、当然生命というだけあって寿命に限界はあるし、魔物として人間に討伐されるケースもあって、キューブレンが産めば産んだだけずっと増え続けるものでもない。
(※「第268話 大国を蝕むは繁殖旺盛なる下女」参照)
問題は、死んだ半生命から伝わって来た ″ 死の感覚 ” の方だ。
「……バラギ様に報告、必要……かも」
キューブレンは、改めて自分の両肩を抱いて身震いした。
子達から伝わって来た感覚は、彼女達
忌まわしい波動―――子らの死の残り香から感じられた、天敵たるものの気配。
キューブレンは、
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