第255話 進む展望と進む道




 ターリクィン皇国のアンネスと、ファルマズィ=ヴァ=ハールのムー、ナーたちの友情は、皇国にとっても大きなメリットがある。


「(言うてしまえば、アンネスとご友人方の仲を通じれば、ヴァヴロナを通すことなく、ファルマズィにアプローチできるようになるワケじゃからのう……)」

 皇国にとってツテがないからこそ、間にヴァヴロナを通そうとした。だがその必要がないルートができれば、ヴァヴロナとの外交にて足元を見られずに済む。


 ジルヴァーグはあごひげを撫でまわしながら、果たしてそれは良しと見るべきか悪しと見るべきかを考えていた。




「(ヴァヴロナと我が皇国の間柄は悪いわけではない。皇国が独自にツテやルートを開拓できたとして、ヴァヴロナにとって困るような事もあるまいが……)」

 それでも国家間の外交というものは、たとえ友好国や同盟国相手でも、簡単には譲らないものだ。

 ヴァヴロナにしても、一度は仲介に入ることを期待された以上は、そこにかかるメリットを見込んだ上でいるはず。


「(まぁ、新たなツテが出来ようとも、ヴァヴロナのようにかの国とやり取りをするルートは持ち得てはおらぬしのう。アンネスと友人方のことが知られようが、大きな問題はない……)」

 どのみち連絡にはヴァヴロナを頼るしかない。今からヴァヴロナのような密使が行き来する秘密のルートを確立させようとしても、あまりに時間がかかり過ぎるし、皇国とファルマズィでは地理的な距離もありすぎる。


 だがもし、今後より大きな事態へと世の中の状況が変わっていった場合、皇国は皇国で独自のルートを築く必要性はあると、ジルヴァーグは思案していた。




「(……ワシが、弟とやり取りできれば良いのじゃがの)」

 だが生きていた弟は、おそらく連絡の取り合いには後ろ向きな事だろう。今回の事にしても、弟が自分ではなく知己の者ムーをヴァヴロナからの接触の窓口にしたことは明らかだ。


 自分を嫌っているというわけではないだろうが、一度家を捨てた身としては、軽率に接触や連絡を取るべきではないと考えている―――弟はそういう性格だ。


「(筋を通し、そのためには己から進んで不幸に歩む……か。ほとほと偉いものじゃな、お前は……)」








――――――ファーベイナの町から南東に5kmほど進んだ街道上。



「はっ……くしゅっ!!!」

 リュッグは盛大なくしゃみを1つ、ついた。


「大丈夫ですか、リュッグ様? お風邪でしょうか??」

「いや、大丈夫だ。誰かウワサでもしているんだろう……それより」

 リュッグは大きく辺りを見回す。

 馬車を進めてきた限りでは今の所は安全。危険な気配は感じられない。



「ふむ、メサイヤ一家はかなり頑張っているんだな」

 ここまで気配を感じないのは久しぶりだ。妖異たちがこの辺りにはほとんどいない地域など、昨今のファルマズィ国内ではとても珍しい。


「ファーベイナ付近の魔物は、みんなで狩りまくったから。生き残ってるのも逃げて他所に行っちゃってたりするかもね」

 馬車の御者台、リュッグの隣に座るミュクルルはエッヘンと胸を張る。荷台にシャルーアと同乗している男5人も照れるように鼻の下を指で軽く拭っていた。


 ファーベイナを出発するにあたり、メサイヤは一家の中でも適任と思われる男達とミュクルルの6人を、リュッグ達に同行させた。



『コキ使ってくれて結構。仮に死ぬような事があっても気にしなくていい、必要なら捨ててくれて構わない。野垂れ死にするほどヤワな連中ではないのでな』


 そう言ってリュッグとシャルーアの旅に同行する事になったのは、ゴロツキにしては比較的、普通っぽい顔立ちや恰好の男達だった。



 1人目、ハルガン―――ゴツい身体だが、顔は真面目な事務会計などをやっていそうな雰囲気の浅い褐色肌の男性。

 実際、メサイヤ一家では魔物討伐時に回収した素材の個数管理や報告などを綿密に行っていた、いわゆるマメな男だ。しかしそのガタイの良いミスマッチな肉体から発揮されるパワーは、1000人を擁するメサイヤ一家の中でも10指に入る、力自慢でもある。


 2人目、アーリゾ―――細手な身体つきで、両腕が普通より拳5つ分ほど長い特徴的な体形をした灰褐色肌の男性。

 その長い腕を活かして近接武器を操り、同じ武器の使い手とは一風違った距離感で戦う技術に長けている。

 

 3人目、デッボア―――熊のような体格と適当な性格の中年男性。白人系ではあるが、黒毛で全身が毛深いせいで、あまりそうは見られない事が多い。

 細かいことは気にしない、悪さをしてもまぁいいじゃないかで済まそうとするのが欠点だが、同時に暗い状況でも気持ちが沈まないため、ムードメーカーなところがある。

 見た目通りそれなりにパワーはあるが、メサイヤ一家の中では並み。


 4人目、イリージン―――終始腕を組んでムッと押し黙っている寡黙な濃い褐色系の男。体格は普通ながら上背があるため、そこそこ背格好は良い。

 槍に関する武術を修得しており、メサイヤ一家の中でもやや異質な武人めいた雰囲気を持っている。なお、ムッツリスケベ。




 そして5人目のアワバは―――……


「はい、これでお薬の塗布は終わりました」

「ありがとうごぜぇやす、あねさん」

 シャルーアに、ボコボコになってる顔面の傷の手当を受けていた。




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