第253話 天才を説教しきれぬ凡人
買い物を終え、宿に戻ったシャルーア達。
途中、逃げるように別れていったジャーラバとヤンゼビックに腹を立てながらも、ミュクルルは早速とばかりに、シャルーアに話をし始めた。
「いいですか、シャルーアさん。お買い物の時、あんな事をする女性はいません。シャルーアさんの聞いた “ お代 ” というのはですね、犯罪者たちが難癖つけて女性に乱暴するための方便! お金の代わりにはならないんですっ」
ミュクルルの前、部屋のベッドの上でちょこんと正座させられているシャルーアは、ふんふんと素直に話を聞いている。
一方でミュクルルの後ろでは、彼女同様にメサイヤからシャルーアの護衛を申し付けられた野郎2人が、ゴロツキの自分らがやる説教じゃないだろうと軽く笑っていた。
「けどよー、ミュクルル。実際にそういう事を仕事にして金を稼いでる女は世の中にいるわけで―――」
「……」
一人が茶々を入れると、ミュクルルはギロリと睨む。
その視線を受けて男は、ハイハイ黙ってますよと言わんばかりに両肩をすくめた。
「(聞けばその昔、メサイヤ親分のお仕えしていたご令嬢だという話―――ということは、とても世間知らずなお嬢さまなはずっ。間違って破廉恥なことを覚えないように教えないと、親分が悲しむっ)」
ミュクルルは使命感を持って、シャルーアに説教たれようと心に決めていた。
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……はず、だったのだが。
「はい、ここが意外と弱いところのようでして、こうしてこう致しますと……」
「~~~っっ!! そ、それ以上は……か、勘弁してくだせぇっ、の、のぉおぉぉおおうっ!!!」
「そ、そんなテクニックがっ……ゴクリ」
何故かいつの間にやら立場が反転し、男達二人を実験体にして、男を悦ばせるテクニック講座が、シャルーアによって行われていた。
「(す、すごい……まだ服の1枚も脱いでいないそのままの状態で、男のアレがもうギンギンのビンビンどころかいっちゃって―――……ハッ!?)」
裸になってくんずほぐれつしなくとも、天国へといざなわれてしまった二人の男達。
その
「ち、ちがーう!! そうではなくっ、こういう事を気軽にやるのは女としてはしたないという話でっ」
「? そうでしょうか??」
シャルーアが不思議そうにミュクルルに疑問を呈した。
「新たな命……お子を成すことは重要なことだと思いますし、そのための行為をはしたないと遠ざけることは、いささか違和感を感じます」
「え、あ……いや、それはまぁ、そのうーん???」
「殿方に奉仕し、悦んでいただければよりその機会、その行為にも恵まれるかと思われます」
「いや、まぁ、そうかもだけどね?? えーと、そういう事じゃあなくてその、あー……なんていうか、うー……」
困りながらもミュクルルは、何となくだが理解した。このコは根本的な価値観の部分で、世間一般の女性のソレとはズレている。
そして、そこに確かなポリシーを持っていて、生物的に考えればそれに一切の間違いがない。
しかし人間という生き物は、秩序や一般常識といったモノによって個体間に一定の統一性を持たせて社会を築き、維持している。
見栄や恥、倫理感や常識といったものは、その枠組みを逸脱することを防ぐための概念だと言ってもいい。
もちろんその枠組み自体が間違っていないとは限らないが、少なくとも問題なく世の中が回っているのなら、大きく逸脱しなくとも枠の中におさまっていれば人間は安定して生きていけるだろう。
しかし天才はいる。
時の枠組みに縛られた一般の凡庸な人々とは違い、時に真実に辿り着き、時にその枠に疑義を唱え、改修できる者達。
あるいはシャルーアもそんな一人なのかもしれない。世に現れた、“ 当たり前 ” の枠に一石を投じる天才なのかもしれない。
―――と、そんな事を感じていたミュクルルだったが、残念ながら彼女は凡庸な人々で枠の中にいるだけの人間で、かつ生まれも育ちも悪いゴロツキな身の女性だ。
ふんわりと感じたそれを理屈や理論だてて言葉に変え、さらには利用して説得する、などという高尚な頭は持ち合わせていない。
なのでシャルーアに上手く言い返せず、しかし言いたい事はなんとなーくわかってるんだけどもと、もどかしい気持ちでうーうーと唸っていた。
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