王都への道
第251話 ファーベイナに吹く新しい風
ダレコヴィッテの騒動を機に、ファーベイナを取り巻く空気が変わり始めた。
「エッケリフさん。新町長就任、おめでとうございます」
「「おめでとーう!」」「「おめっとさーん!」」
「あ、あはは、……正直、僕には荷が重いですから、少し憂鬱ですよ」
閑古鳥の鳴いていたあの酒場で、リュッグがエッケリフ町長就任祝いの席を用意。
酒場内には、町長周辺の役人やお偉いさんに加え、メサイヤ一家のゴロツキ達の姿もあった。
ダレコヴィッテが失脚したことで、メサイヤ一家の本当のところが人々に広がった。
当初、ファーベイナの町の衰退は、メサイヤ一家が大きな顔をして街道を行き交う商人から通行料や積み荷をせしめているせいだとされてきた。
だが本当のところはというと、小心者のダレコヴィッテが裏社会の人間に脅される形で、町の財政からいわゆる横領・横流しを行っていた事が発覚。
それを表向きは、商人たちから多少の通行料や護衛料を取って活動していたメサイヤ一家がそうした見返りをその実態よりも多く、そして悪質に取っているという事にしていたのだ。
「財布の中の金の量は決まっている。そこからいくらかでも抜けば、減っていくのは当然……その理由と責任を、それらしい者達に押し付ける……か。悪い政治家の考える事は、どこでも同じようなもんだな」
リュッグは軽く酒をあおると、しみじみとした。
「フッ……まぁ、行き交う者から
隣で同じように酒をあおり、自嘲するメサイヤ。
確かに、あんな小者に、悪人に仕立てられてツケを押し付けられていたというのは、1000人から擁するメサイヤ一家の頭目としては、悔しくも情けない気持ちにもなる。
「だが、エッケリフさんの町長就任で、色々な事が変わるだろう。ひとまずは安堵だな」
「だといいがな……それよりも、リュッグ。改めて礼を言わせていただきたい」
「? 礼? 一体何の?」
かしこまるメサイヤに、リュッグは首をかしげる。
「お嬢様のことだ。リュッグがお嬢様を助け、教え導いてきてくれたこと、俺は感謝の念に絶えん。本来であれば俺が成さねばならぬことであったはずなのに、俺はあの日、お嬢様から遠く離れる道を選んでしまった……己の判断の誤りが、お嬢様を尚のことお辛い目に合わせてしまったかと思うと―――」
メサイヤの言葉に熱がこもり始めたところでリュッグは、新しい酒の入ったコップを、下げかけたその頭の額に向けてコツンと当てた。
「そういうのは抜きだ、メサイヤ殿。……人生、何が起こるかなんて誰にも分かりはしない。俺達は神様でもなけりゃ悪魔でもない、ちっぽけな力しか持たないただの人間だよ。後悔してもしたりな事なんて山とあるのが当たり前……今はまぁ、ただひたすらに飲んで、そういう事は忘れるべきだ、そうだろう?」
くいっとアゴで示すは、酒場の中の盛り上がる光景。
配下のゴロツキ達が、おかたい役人と顔を赤くしながら肩を組んで笑っている。
しみったれた話には似つかわしくない場所だ―――メサイヤは息をついて笑みをこぼすと、肩から力を抜きながら下げかけた頭を戻し、リュッグから酒のコップを受け取った。
「ああ、そうだな。今は……飲むべき、だな」
―――リュッグ達がエッケリフ新町長就任の宴をしていたその頃。
「……」「……」「……」
あ、ども……初めましてみなさん。私はメサイヤ一家のど下っ端、ミュクルルっていいます。
ただいまメサイヤ親分直々のご命令で、シャルーアなるこの女の子の護衛の仕事に他の仲間数人と一緒に就いているのですが……
「はい、これとこれを……できれば少し、お安くしてはいただけないでしょうか?」
「お嬢ちゃん、そいつあ厳しい相談だぁねぇ。こっちも商ばい―――ッ!?」
ムニュウ……
「えーと、こちらで “ お代 ” にはならないでしょうか??」
「……く、こ、こんな色仕掛けに…っ、ま、負け―――」
ムニュウウ……
「―――ええい、ちくしょう! 分かった、分かったから!! こんだけ、こんだけまけてやるから、その気持ちいいのはもう勘弁してくれぇっ!」
「こんなに……よろしいのですか? " お代 " をもっとお支払いした方が―――」
「大丈夫だから! もう十分過ぎるから!! ~~~ぁあっ、もう、頼むからそれで勘弁、な? 悪かった、こっちが悪かったからよぉお!!」
シャルーアなるこの女の子―――何とお買い物にて店主の頭をその豊かな胸に挟むことを “ お代 ” と言って躊躇なく行い、ふっかけられていた分を丸々まけさせたんです。
まぁ後ろで私達、あきらかに堅気じゃない雰囲気の者が睨みをきかせてますから、店主的には引き下がるしかなかったと思いますが。
「あの……シャルーアさん。いつも
「? いえ、この町で初めて教わりました。“ お代 ” と致しまして自分で体を張れば、お金の代わりとしてくれるだなんて、いい仕組みですよね」
そう、このコがしれっと言ってのけた瞬間、二人ほど視線を明後日の方向に向ける同行者がいました。
「ですが不思議です……路地を通り抜ける “ お代 ” は、たくさんの男の方々を相手に
「そ、そうデスカ……」
私は思わず、ギギギと軋むような音を立てるような動かし方で、ゆっくりと視線を逸らした二人の男達を睨みました。
“ お代 ” ―――要するに、道にたむろして通ろうとする女性に無茶を言って、乱暴する路地裏の世界における、自分達のテリトリーを利用した悪質な行動……
それをこのコ、何か勘違いして覚えちゃってるじゃないですか!!
責任追及の意を込めて睨む私の視線をスルーするように、ジャーラバとヤンゼビックはしばらく、明後日の方を向いたままでした。
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