第205話 不生はその動き封ずるに徹す
『グォオォオ……』
『ギャオォオ』
『オォオオオッ』
脚を著しく損傷し、立ち上がることすらできなくなった巨人たち。ところがそんなことはおかまいなしに動き続けている。
「(確かにちょっと生き物にしちゃおかしい挙動……シャルちゃんの言う通り、生き物じゃないのかー。じゃあ何なんだろ?)」
ナーは油断なく通常弾を込めて銃を構え直し、いつでも射撃できるよう整えながらも、おかしな妖異に眉をひそめる。
「(とりあえず目ん玉の1個でも撃ち抜いとこ。まぁ目でモノ見てるかは怪しいけどさ)」
何せ顔半分が吹っ飛んでるにも関わらず、まったく視界に難を抱えてるように見えない個体がいる。
正直、見た目通りに目が目の役目を果たしているかどうかも怪しい。
ズドンッ!!
それでも何もしないよりはマシと考え、目を射ぬく。だがやはり、さほどの反応は示さない妖異に徒労感がこみ上げてきた。
何発撃ち込んでも手応えを感じられず、いい加減ウンザリする。
「ナー、大丈夫か?」
「お、リュッグ、やほー。大丈夫も何も、ずっとあの調子だからねぇ。むしろ危険な事が何一つないってゆーか……」
あの妖異は、あくまで会場中央を前進し続けることと、自分に取りついてきた兵士たちに対応してるだけで、間合いを取って攻撃してるナーには見向きもしない。
「それもそうか。とりあえずこっちはお前がシャルーアに指示したこと、準備終えたよ」
「お、マジ? 早かったねー、もうちょい時間かかるかと思ってたよー」
「オキューヌ殿とその配下の兵達が協力してくれてな。それで仕掛けるタイミングは?」
「んー、兵士が巻き添えになっちゃうから、あのヘタレ将軍にも話通して協力してもらわないとだけど、そだなー……」
どんな仕掛けでもタイミングは重要だ。相手の動きやこちらの味方の動き、さらには位置関係や状況も考えないといけない。
「私が1発撃った後、銃身あげてクルクル回したら合図、ってことにしよう。悪いけどメッセンジャーよろしくリュッグ。お姉ちゃんに話通しといてー」
「わかった、そのタイミングでヨゥイから兵士達を離させればいいんだな? 伝えてこよう」
リュッグのいいところは必要であれば雑用も厭わないことだ。通常、年を重ねたベテランになるほど、ヘンなプライドが凝り固まってくる。
だが状況に応じてどんな役目も受けこなす彼は、非常に連携しやすい。
「うーん、さすがリュッグ。もう壇上に着いてるよ、素早い。……よし、こっちも負けてらんないね」
銃を構える。すると会場の脇にシャルーアの姿を発見……柱の陰でよく見えないが、その手には何か持っている―――どうやら言った通りのモノを準備できたようで、ナーは
・
・
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その柱の向こう側では、シャルーアがオキューヌの兵士たちに説明をしていた。
「こちらを持って走ります。そちらの先端はそのまま引っ張られないように待機してください。あちらに到着しましたら、今度は両方同時に会場の後ろに向かって走ります。それで上手く掛けられるかと」
「分かりました、ではこちらはお任せください!」
「シャルーアさんはそちら、お一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫です、向こう側にはナーさんもいらっしゃいますので。ヨゥイにかかりましたら、そのまま後ろの方に回りまして、ぐるっと包み込みます。よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」「かしこまりました!」
「では、グラヴァース様が攻撃中の兵士さんを退避させる合図を出されましたら、それと同時にまいりますのでご準備をお願いします」
シャルーアは分銅のついた先端の1方を握り、壇上を伺った。
ちょうどリュッグが二人に説明を終えたところらしく、グラヴァースとムーの視線がこちらに向けられたので、シャルーアは軽く手をあげて振った。
「あとはナーさんの合図待ちですね……」
ナーの合図と一緒に走り出すと退避する兵士とぶつかってしまう。なのでシャルーア達のタイミングとしては、1拍置く意味でもナーの合図を受けてのグラヴァースの兵士退避の号令に合わせる。
一度ナーの方を確かめるように伺うと、ちょうど銃口を妖異に向けて射撃体勢に入っていた。
ダァン!!
数秒の後、ナーの愛銃が火を吹いた。そして銃口から煙たつ銃身をあげて、クルクルと回す。
「全員一時退避! 退避後は床に身を伏せよ!!」
「今です、行きますっ」
グラヴァースの声にシャルーアが走りだす。先端の分銅を引いて彼女が柱から遠ざかると、柱とシャルーアの間に目の粗い網が広がっていった。網にはところどころに針がついていて、会場の明かりでキラリと光る。
「シャルちゃんこっちこっちー!」
ナーが走ってシャルーアが来るべきポイントに移動する。
「兵達は指示あるまでそのまま伏せて待機を継続だ!」
グラヴァースが間違っても身を起こさないようにと戒めの号を床に伏せてる配下にかける。
「……おっけー、あと、6秒……で、完成」
ムーが、シャルーアとナーが合流したのを見て、そこから仕掛けが完了するまでの時間を予測して告げた。
「グラヴァース殿これを使ってください、シャルーアの刀です。切れ味がかなりあるので扱いにご注意を」
宴席ゆえ、グラヴァースが今持っている剣は緊急時用……さほどのものではない。あのヨゥイにはさほど深く攻撃は入らない。
リュッグは預かっていたシャルーアの刀をグラヴァースに貸し渡す。
そうこうしている内にシャルーアとナーが、そして反対側ではオキューヌの兵士達が並行して走る。
網は伏せてるグラヴァースの兵士達の上を通り過ぎ、もがきながら床を這いずるように前進しはじめていた巨人たちに絡んだ。
「このままあいつらの後ろっ」
「はいっ!」
テーブルを飛び越え、ぐるっと中央の妖異たちの後ろへと回り込み、兵士達と合流。先端の分銅同士を絡み合わせて縛った。
『グォオオ』
『オォオオン……』
『ギュァアアアッ』
お互いに身体が絡んでいたこともあって、ますます身動きが取れなくなった巨人たち。しかも網のところどころの針が身体に刺さっているので、巨人の動きにある程度柔軟に網も動くため、束縛がとけない。
「細いっつってもチェインメイル用の鎖製の網だ、簡単には切れまい!」
「身動きはかなり封じられたはずだ、今がチャンスだぞ」
「早くとどめを!!」
オキューヌの兵士達が、シャルーアとナーと一緒にその場から離れ、会場の端による。
グラヴァースは借りたシャルーアの刀で天を指し構えた。
「全員で魔物に最後の一撃を加える! かかれっ!!」
伏せていた配下の兵は、待ってましたと身体を起こす。そして思い思いに槍や剣を構えて突撃。
グラヴァースも壇上から飛び出して、走り、跳躍して、全力で刀を魔物に深く突き立てた。
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