第154話 無罪者が入れられる牢




 ――――――ガシャン。


 鉄格子が閉ざされる音がこだました。


 牢獄としてはかなり綺麗で明るく、まだ新しく建てられたばかりだと分かる。綺麗に横並びになっている牢屋は、それぞれの間が実に3mはある分厚い壁で区切られていて、凶悪犯や重犯罪者を想定しているとしか思えないような造りだった。





「やれやれ……まさか牢屋行きとは。この町の正義はどうなってるんだか」

 ゴウが嘆くのも無理はない。まさか悪辣なゴロツキではなく自分達がしょっぴかれる事になるなんて、誰が想像するだろう?


「まぁリーファさんがあれだけ怒ってたことだし、長くは拘留されんでしょう」

 特にリュッグが牢に入れられたことがルイファーンの怒りに火をつけた。今頃は恐らく、この町の町長なり警備の責任者なりが冷や汗をかいてることだろう。



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「申し訳ありません、まさかここまで腐敗が進んでいたとは……」

 隣の牢屋でコーヴェスが落胆しきった様子で、同じ牢に入れられたジョイルとハクラに謝った。


「なーに、俺達だけで済んだだけ、まだマシってもんだ。お嬢様とハヌラトムさんが話つけてくれるさ」

「だな。さすがにエスナ家を敵に回すほど腐っちゃいないだろうさ」

 ハヌラトムは、ルイファーンと共にこの町の上役に掛け合ってくれている。何一つとして間違ってないと自信ある彼らは、一切の負い目はなく堂々と座していた。



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「拘束なんて久しぶりだね、お姉ちゃん」

「ん……、手足自由……楽ちん……」

 さらに隣の牢屋にはムーとナー、そしてシャルーアが入れられていた。


「お二人は拘束された事があるのですか??」

「まー、似たようなもん? 今ほど自由が利かなかった感じだけどー。ううん、ある意味自由は利いたっていうかー……?」

「自由時間は、楽。……アレの時だけ、手足と首……」

「だねー、あの態勢で3時間ぶっ続けとかあり得ないっしょー。まー、もう10年以上昔の話……おぉっ、そういえばもうそんなに経つんだ!?」

「……時の流れ、早い……感慨深い……」

 何だかんだで余裕綽々よゆうしゃくしゃくな二人はいつも通りだ。ただ、愛銃が没収されて両手が寂しいらしく、何もないところをワキワキさせている。


「お二人も今までに色々なことがおありだったんですね。……誰か来たみたいです、先ほどの看守さんでしょうか?」

「んー、そうっぽいけどもう一人いるみたいだねー」

 シャルーア達の入れられた牢屋は、この牢獄の入り口の一番近いところにある。なので誰かが階段を降りてくる気配はすぐに分かった。



「ほお、なかなかに若く上玉がいるではないか。しかも3人も」

「おやめくださいラッファージャ様。彼女らは仮拘留です、手出しは―――」

「別に構わんだろ。牢獄にぶち込まれる時点で犯罪者決定なんだ、どうしようと問題ないだろ」

「いえさすがに問題ありますって。彼らの連れが町長に直訴しに行きましたゆえ、その話の次第では……」

「一人くらいよいだろ。それで手を打ってやる……よし、そこのいい身体をしている黒髪のお前、出ろ」

 何やら言い合っていたかと思えば、シャルーアに牢から出るように命令する男。


 見た目には結構な金持ちのようで、なかなか豪華に着飾っている。やや成金臭のする恰好ながら、本人は中肉中背で富貴に溺れただらしない身体つきではない。

 ただその目はいやらしい輝きを灯しており、シャルーアの身体をねぶるように注視していた。


「シャルーアちゃんシャルーアちゃん、大丈夫? 平気?」

「……何なら、かわる」

 二人の言わんとしてること。そして男の目的をシャルーアも理解している。


 だがソレは、この少女にとって何ら辛苦なことではない。なのでシャルーアは心配されること自体にキョトンとした。


「はい、大丈夫です。よくわかりませんが、ご心配ありがとうございます」

「何をしている、早く来るんだ」

 荒げはしないものの、苛立っている男の呼び声に、シャルーアは素直に応じてついていき、一人だけ引き抜かれるように牢獄をあとにした。




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 シャルーアが連れていかれてから1時間後。


「な、なに!? ラッファージャの奴が……またかっ!?? よりにもよってエスナ家の連れに手を出しおって、あの馬鹿者め!」

 看守が思わずビクリとするほどの剣幕で怒っているのは、このサーナスヴァルの町長、ウルムルトン。その後ろで町の重役の一人、ジャマクーダも青ざめていた。


「ウルムルトン町長、これはどういった仕儀でしょう?」

 声と共にビリビリとしたプレッシャーが、ウルムルトンとジャマクーダに浴びせられる。二人は恐る恐る振り返った。


 ルイファーンが笑顔のまま怒りをあらわにしている―――ただでさえ不当な捕縛と投獄を受けた上に、仲間の一人がどこぞの男に連れ出されたと聞かされたならば、その怒りのほどは、山の頂へと達していた。


「お、お、落ち着いてくだされ、ルイファーン様! こ、このたびの次第はワシらも存ぜぬことでしてっ」

「そ、その通りでございますっ、ラッファージャという男が全て悪ぅございましてっ」

「悪人をのさばらせている責任からは逃れられません。その者が悪いと言うのでしたら、すぐにひっ捕らえてきなさいな!」

 ごうっと突風のごとき叱咤を受け、ウルムルトンとジャマクーダは思わず背筋を伸ばし、ピンと真っすぐに立った。


「「は、はいいい!!!」」




 かくして投獄されたリュッグ達は、さほどの時間も置くことなく釈放された。


 それでひと安心―――というわけにもいかない。いずこかへと連れ去られてしまったシャルーアが、行方知れずなのだから。




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