第132話 高くて難しい近代兵器
傭兵の収入はその日暮らしといってもいい。なので金勘定は自然とシビアになる。
「やっぱり銃は高くつくのか?」
「ん。部品、少ない……火薬、弾、高額」
「私達の銃だって、やりくりの結果だもんね。安く手に入ったモノで改造していってのコレだし」
そう言ってナーが背から取り出した愛銃は、確かに既製のマッチロック式銃とは似ても似つかないほど原形がない。
よくよく観察すると、金属の質感や汚れ具合がパーツごとに違っていて、都度部品を組み替えて改造され続けているのが分かる。
「エウロパ圏の国々でも、技術的な面から量産は難しいようだしな。当然っちゃ当然なんだろうが……」
砂漠や荒野の多いファルマズィのような国は、僅かな風でも砂煙や土埃があがる。
購入仕立ての時ならまだいいが、長く使っていくほど昼夜の寒暖差で金属が変形して歪んだり、細かい粒子の砂なんかが目に見えないような隙間にも入り込んでしまう。
なので銃とは、暴発や不発の確率が高い武器という認識が強く、実際に死亡事故も少なくなかった。
「ワンオフ、多い。モノによって、デキは……ピンキリ」
明らかな魔改造されまくりのムー・ナー姉妹の銃が、さほど奇異に見られないのも、意匠が職人によってマチマチだからだ。比較的高い技術力を持った銃職人ほど、1点モノが多い。
逆に、金儲けのために銃を大量に作ろうとする職人や生産組織は粗悪品を量産するため意匠が同じで、銃に精通している者から見れば、
「うーん、シャルーアちゃんにだったらー、やっぱ
「うん。……軽くて、扱いやすい……アレも、良い。でも、殺傷力、弱い……」
「あくまで護身なら十分だって。やっぱ
「口径、合う弾、少ない……無難は、
「えー、デザイン地味すぎない?? 形ゴツゴツしてるし。それにあそこのは火皿の位置、初心者にはやりにくくない?」
「なら、
「でもでも
レックスーラで銃を扱ってる店を見つけたムーとナーに連れられ、良さげなものがあればシャルーアに持たせるのもいいかもしれないと思っていたリュッグ。
だが双子が盛り上がりすぎて完全に置いてけぼりだ。
「よくわかりませんが、色々とあるんですね」
「らしいな……というか、そんなに
リュッグとシャルーアどころか、店主でさえポカーンとしている。自分が取り扱ってる銃はあくまで商品であって、詳しい知識はないのだろう。
「正確には、
「専門、
ムーとナーの教えを、店主が参考になるとばかりにメモを取っている。そういう情報があるのとないのとでは、今後の仕入れも違ってきて、二人のような銃を扱う人間の顧客が増えるだろうから、売る側には耳よりだろう。
「それで、いいモノはあるのか? できればあまり荷物にならない方がありがたいが……」
ただでさえシャルーアは非力だ。二人のような長砲身な重量級の銃は、持ち運ぶだけでまず無理だし、手入れなど出来る気がしない。
それはリュッグにしてもそうだ。戦闘スタイルはあくまで近接戦。一撃必殺でなくとも、間合いが開いている時に取れる行動の選択肢を増やせれば……くらいの感覚でしか、銃に対する期待はない。
「……うーん、ゴメン。ちょい難しいかなソレ」
「店に、悪い……けど、ナーの、言う通り。期待に応える品……ここ、ない」
「そ、そうなのか」
とはいえ、二人は何か買う気満々のようだ。もとよりこの辺で銃を扱ってる店自体が貴重だし、主力の愛銃以外の武器を買い足す気なのだろう。
……と軽く思っていたら、見る間に二人の両手には何やら積み重なっていく。
「お姉ちゃんは
「ん。……連発、あこがれ。ナーはMERX《メルクス》?」
「うん、弾口径おっきくて規格合う弾少ないけど、中近の威力が魅力的かなーって」
その他にも色々部品めいたものやら何やらをどっさり抱えてカウンターに置く二人。店主がほくほく笑顔でその合計金額の計算を始めた。
「銃以外に何を買ったんだ?」
「? 半分くらいは買う銃に必要なアレコレだよ。もう半分は改造用の部品とか」
「銃一挺に、付属品……いろいろ、必要」
リュッグはてっきり銃本体と弾、そして火薬だけあればOKだと思っていた。
しかし、実際には銃1つ使うのに多くの付属品が必要らしい事を知り、なかなか奥の深い世界なんだなと、認識を新たにしていると……
「お待たせいたしましたお客様。お会計はこちら様が18万、こちら様は22万となります」
「ぶっ!?」
リュッグは思わず噴く。手の平2つ分ほどの大きさの銃1本に、そんなにかかるのかと驚きを隠せなかった。
しかし当のムーとナーが平然とお金を払ってるところを見ると、どうやら適正価格らしい。
しかし先の稼ぎが丸々吹っ飛ぶ値段が当然のレベルというのは―――思わず意識が遠のいていきそうだった。
「(うん、シャルーアに銃を買ってやるのはまたの機会にしよう……)」
何せ買ったあとも使っていけば、消耗品の弾と火薬の代金がずっと必要になる武器だ。
常に懐が潤沢でいられるならともかく、リュッグの金銭感覚ではとても手を出す気にはなれなかった。
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