第115話 お仕事.その9 ― アイアオネ鉱山3 ―





 本日の活動を報告し合うべく焚火を囲む一同。

 しかし、メインである調査隊の成果は芳しくなかった。




「帰り道中、ガウラウト牙長猫の死骸が消えていたのが一番の妙と言えよう」

 ミルスは、訳が分からんと言わんばかりに肩をすくめた。


「考えてみるとアタシら3人が前に入った時もそうだったのかもね。戦闘で飛んだ血なんかの跡は残っていたが、あれだけの数の魔物の死骸がほとんど残ってなかった事に気付かなかった自分が情けないよ」

 ナーダも失敗したとバツが悪そうに首の後ろの辺りをさすっていた。


「魔物の死骸が消える、か……完全に普通じゃない事だけは確かだな」

 リュッグ達が入り口を常に張っていた以上、ミルス達が鉱山から出てくるまでの間、外から新たな魔物が入ることはない。


 坑道のどこかにまだ魔物が残っていた可能性はあるが、ミルス達が奥までいって戻ってくるまでの時間で、骨も何もかも残さず綺麗に食べ尽くして、坑道内で気配を消してどこかで身を隠していた……というのは少々考えにくい。



「死骸があった場所周辺には、他の魔物の痕跡は一切見受けられませんでした。死骸が食べられたというセンはかなり低いかと思われます」

「でもさ~フゥーラ。フゥーラが何か見落としてるってことはないのー?」

 茶化しながら聞いてくるラージャだが、本気でそう思ってるわけではない。フゥーラの性格ならむしろ逆で、やり過ぎなくらい調べたに違いない。


「私の見落とし……で落ち着くのでしたらまだ安心できるんですけどね……今回は学者であるヘンラムさんも同意見ですし」

「ええ、正直驚いてます。私も今までに幾度と魔物の現場調査におもむきましたが、ここまで奇妙なケースは初めてですよ」

 学者のお墨付きとなるとこの鉱山に起こってる問題は、現時点ではかなりの難問ということだ。



「シャルーアはどうだ? 何か見つけなかったか?」

 リュッグの問いは、以前の黒い煙のようなモノの時みたく、他の人には見えなかったモノが見えていなかったかという意味だ。もちろんそれは、事情を知っている者にしか分からない問いであり、ある意味で一番何かしらの答えを得られる望みが高かった。


 しかし、シャルーアは首を横に振る。


「最深部の広い場所は少し不思議な感じがしました。ですが変わったモノは何も……」

「そうか、だがミルス殿も何かを感じたのは最深部だったと」

「左様。皆には何のことやらわからぬかもしれんが、" アルイキィーユ ” といって、生物が生存しておった名残とも言うべきエネルギーが空間内に皆無であったのだ。コレは、いかなる場所においても、希薄ということはあってもゼロは決してないものでな。その決してありえん場所がこの鉱山の最深部、というわけなのだ」

 ミルスの説明に何人かは緊張感を持った。

 特に普段から危険と隣り合わせの傭兵達は、この先何か相当にヤバい事態が起こる可能性も、頭の中で考慮しはじめる。


「……では、最深部は迂闊に行かぬ方が良い、と。ならば明日はまず、坑道を隅々まで念入りに調べることに集中すべきという事で良いか?」

 ゴウの一言に全員が頷いた。







「じゃっ、周辺警戒班からの報告ぅ~。本日は魔物が数回、視認できる距離で接近してきただけでしたー」

 双子姉妹傭兵のうち、妹のナーが明るく報告する。その横で姉のムーが夕食を咀嚼しながら、その通りと頷いていた。


「獲物はアローシェイプ2匹とー、隠れ砂狼サンドローガ1匹、サークォウコ砂ガッパ が2匹でーす。ちなみに今、皆さんが食べてるお肉はアローシェイプでーす!」

「ぶっ! な、なんだと?? 食えるのか??」

 ナーの説明に思わず噴くゴウ。

 同じくヘンラム、ナーダ、フゥーラ、ラージャが噴くとまではいかずとも、少し微妙な表情をしていた。


 一般的にアローシェイプは、毒があるので食べられないという認識だからだ。


 一方で傭兵のリュッグ、ナー、ムーの3人と、暗がりの住人であるアッサージは平然と食し、シャルーアとミルス、そしてスラーブは美味しいなら何でも良しと言わんばかりに平然としたまま食べ続けている。



「普通はあんま知られてないかもな、アローシェイプが食べられるってのは。毒のある尻尾とその付け根あたりを除いた肉はウマいんだ。滋養強壮でその筋・・・じゃ有名だし、傭兵の間じゃあ結構なご馳走になってる。闇市にもたまになかななの値で流れるくらいだ。理由は……まぁウマいからってことで」

 アッサージの説明に、少し臆していた4人は感心したように改めて手元の器を見る。そう聞かされるとスープ付けの肉が途端に美味おいしそうな気がしてきた。


「一つ聞いてもいいかい? まさか隠れ砂狼サンドローガサークォウコ砂ガッパ まで食えるとか言って……ここに入ってるとかはないだろうね?」

 その質問にナーがニッと意味ありげに笑い返す。ナーダはまさかと頬がヒクついた。

 

「残念、入って……ない。サークォウコはゲロマズ、食べられない。サンドローガの肉は、美味しい。けど、処理大変……ここですぐ食べることは、できない」

「あー、ダメだよお姉ちゃんっ、簡単にバラしちゃー! もー、面白かったのにぃ」


 ムーの説明に、ナーダ以下危惧していた4人はホッと安堵した。





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