第113話 お仕事.その9 ― アイアオネ鉱山1 ―
再びアイアオネ鉱山にやってきた一同。ただし今度は3人ではない。
「よし、まずは鉱山入り口前にキャンプを作るぞ。その後、キャンプ組は周辺を警戒する照明塔と囲いの防護柵を設営、調査組とその護衛は鉱山に入る」
「「はい」」「了解」「「おう」」「おっけー」「「わかった」」「ウム」
リュッグの指示に、全員がそれぞれ異なる返事で了承の意を返す。
今回は12人編成のパーティで鉱山にあたる。
―― まずフゥーラ、シャルーア、アイアオネの町に住んでいる学者のヘンラムの3人が調査隊。
―― その調査隊を護衛するのがナーダ、ミルス、アイアオネの町に住んでいる腕っぷしに自信あるならず者アッサージの3人。
―― そしてキャンプに残り、調査拠点設営を行うのがリュッグ、ゴウ、ラージャ、そしてアイアオネの町に常駐する若手女傭兵のナーとムー、さらに元鉱夫スラーブの6人という組み合わせとなった。
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「ふーむ、坑道の壁面にはこれといった変化は見られませんね」
一行が坑道を進む中、学者のヘンラムは岩壁をしきりに確かめながら首をかしげた。
「何か問題があると?」
「ミルス殿、前回来た時は魔物が詰まるようにひしめいていたという事でしたよね? それほどの数の魔物が生息していながら、この岩肌……あまりにも綺麗に過ぎるのですよ」
魔物とて生物だ。排泄物をはじめとした生き物としての痕跡が、生活している場に残るのが当たり前。
大量の魔物がこれほど狭い空間に詰めて生息していたにしては、環境が汚れていない事に、ヘンラムは着目していた。
「我々がぶっ飛ばした際の死骸や血こそあるが、言われてみればなるほど確かに」
「ミルス様をはじめ、前回のパーティ面子ではそうした痕跡を捉えることは出来ないかと。……ミルス様もたいがいですが、他の方々も血の気が多そうですし」
フゥーラが容易く想像がつくと皮肉たっぷりに言う。するとナーダが大笑いした。
「ハッハッハ! まったくもってその通り、3人とも目の前に出てくる魔物を倒すことばかりに専念していたからねぇ。それでフゥーラ、前回我らが見逃したモノは他に何かありそうかい?」
聞き返されたフゥーラも、かなり坑道の隅々まで視線を巡らせる。僅かな違和感も見逃さないと言わんばかりの視線は、別の観点から異常を捉えていた。
「まるで削れもしていなければ、崩れた箇所もないのが気がかりですね。鉱山としてはこの坑道はかなり広い方ですが、それでも多勢で戦闘を行うには、十分といえない広さ……まして魔物が普段、坑道をどこも傷つけないように暮らしていたというのも、おかしな話で―――」
言い終わる前に、フゥーラの身体が後ろへと引っ張られた。
入れ替わるようにナーダとアッサージが前に出る。
「出番だな、急襲とは上等だこの野郎めっ」
アッサージはククリという短剣を複数本、身体のあちこちに備え、どんな姿勢からでも攻撃を繰り出せる器用さを持ち味としている。
傭兵ではないが、暗がりの住人として、アイアオネの町を陰から治安を支えてきた人間、戦いの経験も豊富だ。
暗闇から飛び出してきた魔物の下に潜り込むように入ると、その腹に短剣を2本突きさして勢いを殺す。
動きの鈍った魔物に、ナーダが切りかかり、その頭部を切断した。襲ってきたモノは地面に落ちて完全に沈黙する。
「まだ雑魚が残ってたとはね。一体どこに隠れてたんだか……」
解せないという面持ちで剣を強く振るって血を飛ばし、鞘へと納めるナーダ。
「前回は気づかなんだ横道があったか……ふむ、これは盲点だったな」
ミルスが手元の坑道地図を今一度確認する。その横で、ヘンラムが急に驚いたような声をあげた。
「な、なんと?? これは
ガウラウト―――牙の長いネコ科の動物のような姿をした魔物。
獰猛で、いかなる状況でも威嚇などを一切行わずに標的に襲い掛かる。長い牙はあまり使わず、爪や短い牙部分での噛みつきなどが主な攻撃方法だ。
長い牙は自分の体躯よりも大きい敵を相手にする時、その体躯に突き入れ、根本から
隠れ住むといった行為を一切行わず、広々とした場所で堂々と生活しており、人間が通る街道などにもよく出没する。
なので洞窟のような暗く狭い場所を
「いえ、このガウラウト……この坑道内で暮らしていたわけではなさそうです」
フゥーラが改めて魔物の死骸を確認する。
毛並みは綺麗で、足裏には坑道内の砂や土で汚れた形跡がほとんどない。つまり、この坑道内で長く暮らしていた魔物ではなく、ごく最近に外からやってきた可能性が高いことを意味していた。
「前回、ナーダさん達が帰った後に、外からやってきたヨーイ……という事ですか?」
鉱山の入り口は別に完全封鎖されているわけでもない。外から魔物が入ることは余裕で出来るし、前回と今回の間で丸1日の時間があった。その間に外の魔物が鉱山内に入る可能性は少なくないだろう。
なので、シャルーアの言う通りだろうと誰もが思った。
「…………」
だが、フゥーラは考え込んでしまう。何か引っかかりを覚えるものの、答えが出ないといった様子だ。
「フゥーラよ、とりあえず先に進もうぞ。魔物1体に時間を掛け過ぎては、調査が進まぬのではないか? 死骸を詳しく調べるなら後でも良いだろう。入り口にはリュッグ殿らがいる以上、他の魔物なりがソレを喰らうという事もあるまいて」
「それは確かに……わかりました、ミルス様」
フゥーラが立ち上がり、一行は進行を再開する。
サァァァァ……
「?」
妙な感覚をおぼえてふとシャルーアは振り返った。だが何も変化はない。気のせいと思って再び前を向き、歩を進める。
しかしガウラウトの死骸は、彼らの死角になっているところから砂のように崩れて消え始めていた。
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