第109話 大人達、お説教を受ける




――――――アイアオネの町、町長屋敷の応接間。




「うん、とりあえず勘弁してくれ……」

「まったくだ、勘弁しとくれよ」

「本当に、マジで勘弁してくれや。ガチで怒るでしかし」



 リュッグ、マレンドラ、そしてこのアイアオネの町長で独特な喋り方をする男性のトボラージャが、三者三様ながら同じ意味の台詞を順番かつテンポよく述べた。


 3人の目の前には騒動の元凶であるゴウ、ミルス、ナーダが、後ろにラージャとフゥーラがキッチリ並んで床に正座させられていた。




「申し訳ない……勘違いとはいえ、多大なご迷惑をおかけした」

 最初に、生真面目軍人気質が働いたゴウが真摯に詫びる。


「ううむ、手が先ん出てしまった以上、申し開きもない。誠にすまんかったっ」

 続いてミルスがパワフルな土下座をして派手に頭を床に叩きつけ、大きな音を立てた。


「私も完全に早とちりだった。すまなかったよ」

 ナーダは頭を軽く傾ける程度―――だが所作はゆっくりと丁寧で、その表情は沈痛な面持ちだ。本来の立場を考えると、この場での謝罪はそれが精一杯なのだろう。


「ごめんなさーい……つい勢いでぇ~……まさかあんな事になるなんて思わなかったんだも~ん……」

 ラージャがシュンとなって上半身を曲げ、両手を伸ばしてベターと床につけるように伸ばす。いつものテンションはさすがに鳴りを潜めていた。


「私がラージャとミルス様を抑えなくてはならなかったのですが……力及ばず、このたびは皆さまと町に大きなご迷惑をおかけしてしまい、本当にすみませんでした」

 フゥーラは言葉を尽くす。


 こうして謝罪を述べるだけでもかなり人柄が出るものだと、リュッグはやや毒気を抜かれながら5人を眺めていた。

 しかしあとの2人は違う。前列の問題児ならぬ問題大人3人を見る目は厳しいままだった。




「アンタらの謝罪は確かに受け取ったよ。で、どうなんだい・・・・・・トボラージャ?」

 ここでクドクドと彼らを責めても意味はない。マレンドラはスパッと切り替え、町長に被害について問いかけた。


「酷いモンやわ。……つーても大通りの一部やから、町全体でヤバいっつーほどのモンやない。通りの店の数件には金出さんとあかんやろーけどな」

 そう言ってトボラージャが軽くジロリと睨むは、小さくなってるゴウとミルスだ。

 一番派手に暴れた二人の大男は出せる金がほとんどないときてる。なので被害を受けた店への補償は全額、町から出さなくてはならない。


「むしろヤバいんは、暗がり連中を大量にノシてもた方やないか? マレンドラ、病院送りになったヤツはどんくらいおんねんや?」

「300はくだらないね。しばらく治安の低下は避けられないよ。しかも、ぶちのめされた連中に “ 飴 ” 出してやんないと先々の治安も悪くなるからね、とんでもない出費はどのみち免れそうにないだろう……やれやれだね」

 この町の後ろ暗い連中は、町の治安に貢献するという誇りでもって、その腕っぷしを振るいつつも、普段は大人しくしている。


 ところが勘違いで大騒ぎになった上に、大怪我負わされてはたまったものじゃない。病院送りになった連中どころか、そうした連中全体に対して今回の件について慰めとお詫びが必要不可欠。

 でなければ、今まで治安の一角を担ってくれていたヤツラが一転して、町の暗黙のルールを放棄し、犯罪に走り出しかねない危険もあるのだ。


 今度はマレンドラがジロリと前3人を見る。


 ナーダも比較的マシだったとはいえ、ゴウとミルスが暴れる中に途中から突貫して混乱に拍車をかけた。ぶちのめした奴の数もそれなりだ。

 3人合わせて合計300人以上もの、腕っぷしに自信ある男達を病院送りにしたという事実は凄いが、その影響は短期および長期にわたって町全体に及ぶ。


 町長と仲介業で顔役として町の名士たるマレンドラが、適切なケアをしなければならないのだ。


「……」

 さすがのナーダもバツが悪そうに両目を伏せた。

 彼女的にはゴウとミルスだけを狙ったつもりだが、乱戦状態では邪魔な他の男達をどうしてもぶっ飛ばしてしまう。

 結局ぶちのめそうとした野郎どもに加担するような形になってしまったのを気に病んでいた。




「少しはリュッグとシャルーアちゃんを見習いー。ホンマ二人は関係あらへんのにめっちゃ頭さげて、みんななだめて混乱おさめて……挙句お前らに容赦して欲しいゆうて願い請うてきたんやからな?」

 実際、リュッグがいなかったらもっと被害は拡大していただろう。完全にヒートしていた場を宥めるだけでも多大な苦労がかかったはずだ。

 そしてシャルーアはまるで自分ごとのように町長に頭を下げ、自分にも非があるからと3人を庇った。

 実際、いくらかシャルーアが原因と言えなくもないが、それはシャルーアが何かしたからではなく彼女を理由に周りが勝手に暴走しただけで、彼女自身が騒動に加担したわけではない。



「……それでトボラージャ町長。その、難しいのは何となくわかるが、少しは容赦してもらえるのだろうか?」

 申し訳なさそうにリュッグが切り出す。

 シャルーアともども二人に罪はない。なのにこの二人が一番今回の騒動の収束に頑張っている。


 なのでトボラージャは不公平なきようにと、ある考えを罰として5人に突きつける事にしていた。


「もちろん、タダで容赦はできまへんよって。でっかい被害が出とるんやからな。空いた穴はそのままにしとかれへん、塞がなアカン。せやろ?」

「は、はい……それはもちろん……その……道理、かと……」

 険しい表情で睨みつけながら、頭突きでもしよとうする勢いでゴウに顔を寄せる町長。タジタジになりながらも、ゴウは何とか言葉をつむぎ出して応じた。


 すると町長はそのまま隣にスライドし、今度はミルスの前に顔を置く。


「じゃあ塞ぐモン・・・・を持ってへんおどれらお前らは、どーやって穴塞げばええんや? あ?」

「そ、それは……は、働いて返す、などするしかあるまいが……」

 実際、旅先で金銭トラブルが起こった時、ミルス達はタダ働きによって返してきた。だが今回の騒動は規模と被害を考えると、多少の無償奉仕でどうにかなる話ではない。筋肉隆々の大男も今回ばかりは自信なさげだ。


 そして町長はナーダの前に顔を持って行った。


「つーことはや、塞ぐためのモンをヨソから持ってくりゃえーわけやないかい。そう思わんかー、美人のねーちゃん?」

「理屈ではそうかもしれんが……持ってくるその ” ヨソ ” とやらがなければ意味がないのではないか??」

 二人に比べればまだ罪の軽い(?)ナーダは、やや余裕を持って応じる。


 彼女の聞き返しにトボラージャは、睨みつけた顔をフッと緩ませ、かけてた眼鏡のズレをやたらポージングしながら直した。




「問題あらへん。ちゃーんとヨソはある……しかも、腕っぷしばかり誇るアンタらみたいなのにうってつけのがなぁ」

 そう言って懐から地図を取り出し、彼らの前に広げて見せた。


「知ってるで、リュッグらとねーちゃんはマルサマの鍛冶工房に用あって来たんやろ? ならそっちにとっても一石二鳥な、悪ぅない話があるんや、ホンマ」

 そういって広げた地図、その一部をトントンと指し示す。


 アイアオネの町の北東、距離はよく分からないが示されたそこには、鉱山を思わせるマークが記されていた。






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