第72話 お仕事.その6 ― 砂の三獣 ―
――――――ジューバの町から北へ4km地点。
リュッグは、他の傭兵達と共にスルナ・フィ・アイアを目指していた。
「ホント、助かりましたよリュッグさん。仲間の怪我が治らず、仕事が出来なくて、手持ちもヤバかったので」
「いやいや、こちらこそ無くした剣を拾って届けてもらった恩がありますから。……それにしてもあのヨゥイが、こんな離れたところまで移動していたとは驚きました」
彼らは、ウェネ・シーがスルナ・フィ・アイアからジューバへと向かうにあたり、その護衛仕事をつとめた傭兵チームだ。
(※「第44話 消えゆく安全」参照)
しかし、その際に仲間が負った怪我が重傷で、チームとしての戦力面での低下もあってジューバから離れる仕事を行うのは厳しく、大きな収入にありつけずにいた。
そんなところへ先日、行先きを決める意味でも仕事を探さんとして、ジューバのギルドに顔を出したリュッグに、彼らは声をかけた。
「(……まぁ、シャルーアは置いてきて良かっただろう)」
今回の仕事はウェネ・シーから入院中の、彼女が働いているスルナ・フィ・アイアの酒場主人の容態確認と、出向中であるジューバの酒場の主人からの手紙を届けること。
昨今の魔物頻出の治安悪化から、それなりの報酬額ではあるものの、比較的楽なお使い仕事。
そこでリュッグは、シャルーアにそれなりのお金を持たせてジューバの町に留まらせた。手持ち無沙汰にならぬよう、町中で出来る簡単な仕事をギルドから取ってきて与え、またこちらの依頼人であるウェネ・シーにも、自分の留守中に彼女に良くしてやって欲しいとお願いしている。
「(ワッディ・クィルスでも俺が不在の時はちゃんとやれていたようだし……それに気晴らしの時間も必要だろう)」
シャルーアは、やはり故郷の地にあってか精神状態がいつもと違うように思えた。ジューバに到着してから3日が経過し、表面上は落ち着いてきたように見えるも、どこか心ここに在らずな事がまだ時折ある。
そんな状態の彼女を、故郷であるスルナ・フィ・アイアに連れて行くのはよした方がいいと、リュッグは判断した。
それに今回は――――――
「! 皆さん、お出ましのようですよ」
砂の山が左右に連なっている街道。スルナ・フィ・アイアまであと3kmの地点まで歩みを進めた時、リュッグ達の前に立ちはだかる影があった。
『フゥゥゥ、シュルルルッ』
『グルルルッ』
『フゥーハァァァァ』
いずれも砂地に生息するという意味では共通しているが、こうして組んで出てくるような妖異たちではない。
「おいおい、やっぱ妙ちくりんな組み合わせかよ」
「事前の情報通りってことか」
「こないだの鎧の妖異といい、ホント最近どーなってんだかっ!」
文句を言いながらも、彼らはすかさず戦闘態勢に入る。
ガシャンッ!
ドスンッ、ガシャガシャ!
ほんの10km先へのお使い。だが今回はリュッグも含め、全員が十分な重武装状態で仕事に挑んでいた。
「(さすがにシャルーアには、この重量は無理だからな……)」
それこそが今回、シャルーアをジューバの町に残してきた一番大きな理由だ。
最近は少しはマシになったとはいえ、出会って間もないころはほんの2、3kg程度の荷物を背負うのでさえ、気を抜くと後ろにコケるくらいに非力だった少女に重武装を施せば1歩も歩けない。
このところの地域における魔物の目撃情報からして、単体でもそう弱くない魔物が組んで襲ってくることが多くなっている、と聞いて今回の仕事にはあらゆる敵に対処できるよう重武装の必要性があるとリュッグは判断。
結果、先の鎧の妖異と再び遭遇することを念頭におきつつ、あのレベルに現状で考え得る対処可能な武装の数々を持って、一向は街道を北へと進んだ。
「サンドローガは任せてください!」
「ヴァイプ・サーペンターは俺達でやりますっ」
「リュッグさん、セラヴンマファゲーを抑えておいてくれますかっ、こっちすぐに片付けますんで!」
「分かった、だが焦るなよ。サンドローガもヴァイプ・サーペンターも決して弱くないヨゥイだからな、注意しろ」
「「「はいっ」」」
セラヴンマファゲー。
顔がやたらと大きい、怒りをそのまま固定したように表情がまったく動かない亜人。
全身がユラユラと蜃気楼のように揺らいで見えるのが特徴で、実体はあれどその大きく見える姿からは想像できないほど攻撃が当てにくい。身体の真芯に近いところを狙わなければ、こちらの攻撃はまるで蜃気楼のようにすり抜けてしまうというヨゥイだ。
「(こいつには本来、広範囲で一撃が重い攻撃が有効だが……)」
大柄なリュッグと比肩するぐらいの身長と体格があるが、その6割が顔で埋め尽くされている異様な姿。
両腕の先端には手がなく、先端が鋭くなった鉈のような爪が片腕につき4本伸びていて、それをカニのハサミのように動かす。
伝承によれば “
「(やはり。相手が自分より小柄でないと慎重になる習性がある、というのは間違いないようだ)」
対峙するリュッグに、構えこそしているものの安易に襲い掛かってこようとはしない。
セラヴンマファゲーは、自分より小柄な相手であればあるほど襲い掛かてくるという性質をもっており、今回のメンツの中でもっとも大柄なリュッグが相手をすれば、安易には攻撃を仕掛けてこない。
そのことを他の傭兵達も知っていたからこそ、リュッグに対応をお願いし、リュッグ自身も即座にそれがベストと考え、この奇面なる妖異の前に立ちはだかった。
『フゥー……ハァァァァァァァァァ……』
「(とはいえ、そろそろ来るか?)」
それでもずっと様子を伺ってくれているわけはなく、セラヴンマファゲーはひと際深い呼吸をし、そして――――――
ドンッ!
『ワウイオアイエエガァァァァ!!!』
奇声を発しながらリュッグへと飛び掛かった。
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