第84話 悩めるタケ

 というわけで、早速用務員室に通され、ここに絵に描いたような作業着姿の用務員が二名誕生したわけだけど・・・。




 まあ案の定、斎藤の奴は不安そうにしてるな。




「・・・ね、ねぇ斉藤、これからどうしたらいいんだろう?」




「とりあえず理事長からは、理科室の電灯が切れてるから交換しておいてくれって頼まれただろ」




「そ、そういう事じゃなくてさ!純子さんと杉村さんの関係を洗うなんて本当に出来るんだろうか?」




「お前が言い出したことだろ?」




「それはそうだけど、まさか用務員になって学校の中で探るなんて思いもよらなかったし」




「まあな、でもいいじゃないか。こんな経験滅多に出来ないぜ?一応会社は有給使って休めたし」




「う、うん。でも山田、俺たちが揃って有給出しても別に全然構わないって感じだったね。他の社員、特に竹下君なんて、中々休み貰えない雰囲気あるって言ってたし」




 う、そこは俺も気にしてたんだよな・・・。




「・・・まあ、それだけ俺たちは会社では居ても居なくてもどちらでもいい存在なんだろうさ・・・」




「そ、そうだね・・・」




「まあ、そんな暗い顔するな。共学とはいえ、実際ほぼ女子高なこんな天国で働けるなんて、神のお導き以外ないんだからさ」




「嬉しいのは斉藤だけだよ。俺は女子高生には興味は無い」




「へぇ~、じゃあお前ってどんな女がタイプなんだ?そういえば聞いたことなかったよな」




「え・・・?そうだな、しっかりしてて優しくて、こんな俺をリードしてくれるような人かな」




「何だよそれ、情けない発言だなぁおい。もうちっとしっかりしろよ。男なら、あの水原さんを落とすくらいの気概がなくっちゃな」




「む、無理だよ、水原さんを落とすだなんて。彼氏だっているし・・・」




「例えばの話だろ?・・・って、話が横道に逸れたな。とりあえず、理科室の電灯換えに行くか・・・」








 う~ん、廊下で行き交う多数の美少女たち。いやぁ、たまんないねえ。みんないい匂いがするんだわ。こりゃ、会社辞めてここに永久就職でも全然いい気がしてきたな。




「・・・ねぇ、斉藤・・・」




「あん?どうした?周りがカワイ子ちゃんばかりでチビりそうか?」




「いや、こうして周りの女の子たち見てるとさ、つくづく純子さんは華があって奇麗な人だなって思ったよ」




「ほぉ?お前からそんな発言が聞けるとはな。惚れたのか?」




「違うよ。ただ、彼女が芸能界から目を付けられるのは当然だってこと。この人たちも綺麗だけど、やっぱり彼女は違うよ」




「まあな。でも、それはつまりあの杉村にも言えるのか?」




「え、杉村さん?」




「お前の推理通りなら、杉村が台本を書き換えて、芸能界を目指そうとしているってことになるだろ?」




「う、うん、そうだね」




「あいつもやっぱり華は無いか?」




「いや、あの人も確かに綺麗だよ。でも、やっぱり純子さんには敵わないんじゃないかな?でも、あの演技力は見事だった」




「そう、俺もあいつは性格は最低だけど演技力って面に関しては大したもんだと思うぜ。この間の演技を本番でも見せれば、正直スカウトの目は杉村の方に行くかもしれない」




「だよね・・・」




 ん?斎藤の奴、急に真剣な顔して考え込んだぞ。




「・・・どうかしたか?」




「あ、いや、ふと思ったんだけどさ、理事長の目的はこの学校から芸能人を出すことを目的にしてるわけでしょ?」




「ああ、箔が付くとか言ってたな」




「それが目的なら、何も純子さん一人に拘らなくてもいいんじゃないかと思って」




「ん?そういえばそうだな・・・」




「だろ?確かに見た目や存在感に華があるのは純子さんだよ?でも、杉村さんだって決してぼろ負けってわけじゃない。しかもあの演技力は目を見張るものがある。だったら、本番でも杉村さんにチャンスを与えてあげてもいいんじゃないかと思うんだ」




「う~ん、そう言われたら確かに」




「だから、これからもし純子さんの説得に失敗したら、理事長に逆に杉村さんを推薦する方がいいのかもしれない」




「ええ~、なんか癪に障るな、杉村の味方をするのは」




「でもそれが一番いい解決かも」




「まあな・・・。あ、そういえばさ、今日俺たちが用務員に扮してるってこと、純子知らないんだよな?」




「知らない筈だよ、昨日決まって今日だもの。竹下君だって知らないさ」




「純子の奴、俺たち見たらびっくりするだろうな」




「びっくりするというか、どうしてここにいるかの理由をちゃんと考えてきたのかい?」




「え?い、いや、特に何も・・・」




「はぁ、そんな事だろうと思ったよ・・・」




「じゃあ、お前は考えてきたのかよ?」




「考えたけど思いつかなかった。だから不安なんじゃないか・・・」




 あ、成程ね・・・。








「よし!理科室の電灯の交換終わり!」




「・・・チャイムが鳴った。昼休みだね」




「ああ、脚立を用務員室に片付けたら昼飯行こうか」




「のんびり食べてる場合じゃない気もするけどね」




「ま、まあそうだけど・・・。確か純子は三組だって言ってたよな理事長」




「うん、一年三組。そこに行けば、あの杉村さんもいるんだろうけど」




「まあ、面と向かって調査するわけにはいかないもんな」




「そうだよね。でも、誰もいない理科室でこうして二人で居たって何の進展もないわけだし・・・」




「だろ?とりあえずなんか食おうぜ?腹が減っては戦は出来ぬだぞ」




「そうだね・・・。ん?」




 なんだ?理科室の扉を開けようとしている奴がいる。ガチャガチャやってんな。確かに俺たちが入って来る時も中々立て付けが悪くて開かなかったからなあの引き戸。




「おい斎藤、ちょっとそこの教壇に二人で隠れよう」




「え?何でそんな事」




「だってちょっとびっくりさせたいじゃん。ほら、あの扉にある擦りガラスのシルエットはどう考えても女だ」




「だからってそんな悪趣味な事」




「いいからいいから、可愛い女子高生がびっくりして悲鳴を上げる声を生で一度は聞いてみたいと思うのが男ってもんだ」




「そんな男はお前だけだって・・・・わ!お、押すなよ!」




「ほら、隠れて隠れて・・・」




 うし、二人で隠れたな。斎藤の奴めちゃくちゃ迷惑そうだけど、こうして隠れた以上、お前も同罪だからな。




 さてさて、一体どんな可愛い女の子がやって来るのやら・・・。




 ガラッ・・・。




 よし、開いたぞ、どれどれ・・・ん?




「・・・ね、ねぇ、斉藤、あの人って・・・」




「あ、ああ・・・」




 一体どうしたんだあいつ・・・。


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