第82話 悩めるタケ

 んで、本番までもう少しの今日、もう一度この公園で練習をすることになったわけだが・・・。




「なあ、斎藤、どうせならタケの奴も一緒に来ればよかったのにな。あいつも早上がりだったから今日来れただろ」




「まあね、でも気持ちはわかるよ。だって本来は、竹下君がこれまでの事を立ち回らなければならない役目な筈なのに、純子さんは俺たちを選んだんだ。その時点で、自分がお呼びでないと思って落ち込んでいる部分もあると思う。でも当然放ってはおけないから俺たちに託すしかないんだ」




「そんなもんかねぇ・・・」



 まあ、俺はあいつの気持ちあんまり分からないな。心配するなら自分で行動しろって感じ・・・。



「・・・ちなみに今日の純子さんの役は純子さんみたいだ」



「ああ、そうらしいな。でも今週は例の情に脆い心優しい探偵の役のはずだったのに」



「さっき純子さんに、今日練習を組んでくれたことのお礼を言ったんだ。その時に純子さんの役に違和感を覚えたから聞いたんだよ。そしたら、今日はあくまで犯人を割り出すために組まれた練習だから、探偵役になる必要ないんだって」



「お、おい、それって・・・」



「俺も思ったよ?じゃあ今日の純子さんは純子さん本人なんだって。でもね、その後彼女言ってた。万が一また台本が書き換えらえて、また自分が純子役になるかもしれないからまた純子の役をやっておこうって・・・」



「なんだよそりゃ。純子は一体何者なんだ?純子って名前も本名じゃないんだし」



「台本書き換え犯を割り出すより難しいよ、純子さんの正体を暴く方が」



「全くだな・・・。お、練習始まるみたいだぞ・・・?」



 さてさてどうなることやら・・・。


 


「・・・ねぇ、竹下さん・・・」




 ん?何だよ明後日女の奴、今から始まるって時に純子を名指ししやがって。




「何?杉村さん」




 お、そういえば名前聞くの初めてだな。杉村っていうのかあいつ。




「今日まで練習はみんなしっかりやって来たと思うの。それなのに、わざわざ今日も練習する必要ないんじゃないかしら?」




「え・・・。でも、本番まであと三日よ?だからこそ最後に練習をと思って・・・」




「必要ないんじゃない?現に私は台詞は完璧に覚えたわ。他のみんなだってその筈、どう?」




 そう言って杉村の奴、他のメンバーの顔を見渡してやがる。




「・・・自分も、もういいんじゃないかと思います・・・」




 あいつはたしか、フードコートの店員役の田中だったな。




「あたしも、たかが文化祭の出し物で、ここまで密に練習する必要もないと思う」




 あいつは清掃員役の矢田だったな。




「ぼ、僕も同感です。文化祭が終わればすぐに中間テストがあるし、そこの準備もしておきたいところだし・・・」




 で、こいつが小道具係の石上だったな。中々の記憶力だぞ俺。あと、あそこで同じように苦虫を嚙み潰したような顔で立ってるのが、バスツアーの運転手役とガイド役の田所と安田だな。あの顔見るにあいつらも周りと同意見ってところか・・・。




「ちょ、ちょっとみんなまでなによ・・・」




 純子の奴、四面楚歌って感じだな。あれじゃいくらなんでも可哀そうだぜ。ここは俺が颯爽と間に入って場を鎮めれば、純子の好感度も上がるってもんだけど、さて、どうしたのものか・・・。




「ね、ねぇ斉藤、あれじゃ純子さん可哀そうだよ」




「ああ、分かってるよ。だからここは俺が間に入って、場を鎮めてくるぜ。二人してこうやって芝生に座ってるだけじゃ何のために来たか分からないからな」




「う、うん、頼むよ。第一、僕らが竹下君を通して純子さんに今日の練習のセッティングをしてもらたんだから責任があるよ」




 んだよ斎藤の奴、俺に丸投げかよ。責任感じてるならお前も行動しろってんだよな。まあ、お前には元々無理な話だとは思うけどよ。ここは俺一人でやった方が、好感度独り占めで美味しいわけだし。




 よし!行くか!




「・・・まあまあ君たち、仲間割れは止めたまえ。中間テストは確かに大事だ。でもな、今こうして若い者同士が、一つの事に向かって取り組む素晴らしさは、何物にも代え難いものだよ?今日は折角こうして集まったんじゃないか。ここはみんなで手と手を取り合ってだね・・・」




「うるさいよ、おっさん・・・」




 な!おっさん!!!!!!!!?杉村の奴、俺がおっさんだというのか!!!




「大体、なんで今日もいるんですか?一回見たんだからもういいでしょ?ただでさえ、大したアドバイスもしなかったんだから」




 な!な!何だって!この野郎!!!!!!!!




「斉藤、まずいよ、ちょっと一旦引こう。今じゃ火に油だ」




「で、でもよ!この女、今俺をおっさんって・・・」




「気にするのはそこじゃないだろ!ほら、下がって・・・」








 ・・・ふぅ、斎藤の奴に引きずり降ろされはしたが、お陰で怒りは収まったぜ・・・。




「・・・純子さんも、大丈夫ですからって言ってたし、後は任せよう。なんだかんだで、折角集まったから短めの一発練習ですぐに解散って事になったみたいだし」




「あ、ああ・・・。でもよ、あの杉村って奴、感じ悪すぎだぞ?見た目は純子の次位にいいけどよ」




「今は見た目の話をしてる場合じゃないよ。ていうか、斉藤だって気づいてるだろ?」




「気づく?何を?」




「あの台本を書き換えた人物のこと」




「・・・ああ、こればっかりは推理する必要もないな」




「そうだよね・・・。あの杉村さん、どうも純子さんと何かありそうだよ。この前の練習の時から、純子さんを見る目が何となく冷たかったし、今もあんな言い方をしていた。それにそもそもの話が、純子さんがやる役だった役を代わりに彼女がやったっていう事実が、彼女の犯行を物語っている」




「だよな・・・」




「これは、二人の関係性を洗う必要があるね」




「お、探偵小説っぽいノリになってきたな」




「まあね、今回も中々に骨が折れそうな展開になりそうだね・・・」




「・・・まあな、イテッ!!」




 な、なんだ?急に後頭部に何かぶつかったぞ?こ、これは石?




「さ、斉藤、見てよほら、あの茂みの所・・・」




 ん?あいつは・・・?


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