第80話 悩めるタケ
「・・・いやあ、びっくりしたよ。悲鳴が聞こえてきたと思ったら、舞台で倒れているんだもの。本当に殺されたのかと思ったよ」
「ふ、それを伝えたら、悲鳴を上げた清掃員役の矢田さんも喜ぶだろうね」
じゅ、純子の奴、まだ例の偏屈な探偵役になりきってるのかよ。
にしても、劇が終わった後、体育館の裏へ呼び出されるとはな。斎藤も動揺してんぞ。普通体育館裏といったら、告白場所のメッカだけど、それが偏屈だけど情に脆い心優しい探偵役になり切ってる可愛い女の子から「劇の感想を聞きたいから付いてきたまえ」だもんな。
まあ体育館内は、予期せぬ展開に動揺しまくっていた理事長や先生たちが騒いでいたから、場所を移す必要はあったけども。
「・・・それでさ、ちょっと聞いていいか?」
「なんだい?手短に頼むよ」
「そうか、じゃあ単刀直入に聞くけど、なんで被害者役だったんだ?俺たちはてっきり純子役で出てくるものばかりだと思っていたから」
「ふ、それが私も不覚を取ったよ。突然の腹痛に見舞われるなんて」
「腹痛?」
「ああ、こんな飄々としているように見えて、私も意外と繊細なのかもな。だからリハーサル直前に急に腹痛になってしまった」
「それで?」
「トイレから帰ってきたらもう劇は始まっていた。まあ、彼女が純子役を完ぺきにこなしてくれたから助かったがね」
あの明後日女のことか。
「でも、なんでわざわざ被害者役で出たんだ?そのまま休んでいればよかったのに」
「台本にそう書かれてあってね」
「台本に?何でだよ、役はこの間の公園での練習の時点で大方決まってたんじゃないのか?」
「ああそうさ。だけど私がトイレから帰ってきた後、他のメンバーが見せてくれた台本が書き換えられていたことを知ったんだ」
「え?一体何で?」
「さあ?聞くに私がトイレに行っている間に、新しい台本だから目を通しておくようにというメモと共に新しい台本が置いてあったんだそうだ・・・」
う~ん、妙な話だな。一体誰がそんな事・・・。
「き、奇妙な話ですね・・・」
お、ようやく斎藤が口を開いたぞ。
「で、でも、純子さんは当然そんな指示は出していないんですよね?」
「無論だ。本番まであとわずかだというのにわざわざ変更はせんよ」
「変更した箇所って具体的にどこなんですか?」
「役名の変更だけさ。純子役が彼女、そして探偵役が石上、そしてこの私が被害者役というわけさ」
「な、なんでそんなことに?誰が一体そんなことを・・・」
「さあ、それが分かれば苦労はしないがね。でも、私はこれでよかったと思っている。元々、私は主役をするガラではないからね。これで丁度良かったのさ。ふ、腹痛でトイレに駆け込んだ後にトイレで殺されるなんて、中々オツじゃないか」
・・・本当にそんなんでよかったのかね。まあ、純子がそう言うならいいのかもしれないけど。
「・・・ねぇ、斉藤。このまま黙って本番を迎えるのは違うんじゃないかな?」
「え?ど、どうしたんだよ」
「だって気味が悪いじゃないか。純子さんがいない間に台本が書き換えられていたんだよ?」
「ああ、確かに気味が悪い。でも誰がやったか分からない以上どうしようもないんじゃないか?」
「これは調べてみる必要があるよ」
「え?」
「斉藤、乗り掛かった舟だよ。ここまで関わったんなら、ちゃんとこの謎を解明しなくちゃ」
出た!斎藤の十八番のお節介が。全く懲りない奴だね。第一、純子自身がこれでよかったって言ってんだからいいと思うんだけど。
「ふむ、それに関しては私からもお願いしよう」
なぬ!?ど、どうして純子まで・・・。
「いいんですか?俺たちに任せてもらっても」
「ああ、勿論だ。確かに、結果的には今回の台本変更は、私にとってはよかった展開になったが、今度の本番までにまた突然の変更が起きたりするかもしれない。今度そんなことになったら、流石にメンバーたちにも迷惑がかかる。それになによりも、一体誰がどんな理由でこんなことをしたのかという謎は追及したいものだ。これでも私は偏屈だけど情に脆い心優しい探偵だからね」
「・・・そういうわけだよ斉藤、とりあえず今日は帰りながら明日からの事を相談しよう」
はぁ、折角秘密の花園を満喫していたってのに。こいついると本当に面倒な事ばかりに巻き込まれるよな・・・。
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