第77話 悩めるタケ

 ま、これだけ暖かくて晴れてるときたら、今日は絶好の練習日和ってわけだよな・・・。


「・・・ねぇ、斉藤本当に行くのか?」


 んだよ、さっきから同じことばっかり言いやがって。


「今更なんだよ。もう公園の敷地内に入っちまったんだぜ?」


「そうだけど、やっぱり何度考えたって俺たちに劇の監修なんて無理じゃないのか?帰った方がいいと思うけど」


「へ、お前と一緒にするなよ。確かに最初言われたときは俺だって出来るか不安だったけどよ。でもあんな可愛い人が俺たちに頭下げて頼んでくれたんだぜ?これは受けなきゃ男が廃るってもんじゃないのか?」


「な、何も竹下君の妹に色目使わなくても」


「そういう意味じゃない。それに、面白そうだって思える部分もあったしさ。まあとにかく行ってみればいいんじゃね?今更後戻りは出来ないんだから」


「ま、まあね・・・。あ、あれかな?芝生の広場で集まってるよ?」


 お、本当だ。結構いるな、十人くらいか?背丈からして高校生くらいだし、まず間違いないだろう。


「・・・あ、お二人ともお疲れ様です。お待ちしていました」


 ・・・うんうん、今日も相変わらず純子は可愛いと。そういえば、来週からまた純子の役作りが変わるって言ってたな。確か来週は偏屈だけど情に脆い心優しい探偵役だったな。つまり今日がこの真っすぐ純粋な優しい純子の見納めってわけだ。


 んで、他の連中は・・・。まあ、普通の高校生って感じだな。地味めの奴もいれば、少し髪の毛遊ばせてる奴もいるし、でもみんな普通の高校生の範疇って感じ。


 ん?一番右端の女。あれだけちょっと違うな。まあ純子には負けるけど、中々垢ぬけていて、可愛いというよりは奇麗な感じだ。セミロングの黒髪が映えるぜ。街へ行けばスカウト来ても不思議ではないかも。でもちょっと冷たそうな感じはするけどな。一人だけ明後日の方見てるし・・・。


「わざわざ休日に来てもらって本当にありがとうございました」


「いやいや。・・・それにしても人数沢山だな。みんな劇をやるのか?」


「はい、皆ではないですけど、事件パートの小道具係とか衣装係りの人も今日は集まってもらいました。折角お二人に来てもらうんですから」


 こりゃまた随分なVIP待遇だな俺たち。


「・・・では、初めにメンバー紹介からさせていただきます。一応、私の中で仮で決まっている配役も併せて紹介します。ええと、田中君」


「はい」


 お、無難な好青年て感じ。


「彼には事件現場となるサービスエリアのフードコートの店員役にと思っています」


 え?ん?サービスエリア?フードコート?


「次に矢田さん」


「はい、初めまして」


 今度は眼鏡の芋娘って感じだな。


「彼女には殺人が起きたサービスエリアのトイレの第一発見者となる清掃員役にと思っています」


 ト、トイレ・・・?清掃員・・・?。


「そして田所君」


「どうも」


 ちょっと不愛想な髪の毛遊ばした小太り男だな。


「彼には被害者が乗っていたバスツアーの運転手役です」


 バスツアーに運転手・・・ねぇ。


「次は安田さん」


「はぁい」


 この子はパーマがお洒落で可愛いく見えるけど、よく見ると普通の顔だ。でも明るそう。


「彼女はバスツアーのガイド役です。トラブルメーカー的な役目も担っています」


 ハハハ、トラブルメーカーなバスガイドね・・・。


「配役が決まっていて、事件が起きるパートの登場人物は今のところ以上です。他のパートにはキャピキャピギャルや病弱な体育教師なんかも出てきますが」


 あ、初めて純子に会ったときのキャラがキャピキャピギャルだったな。その前の週が病弱なキャラとも言ってたし。しかし、本当に個性的な登場人物なこと。


「どうでしょう?」


「・・・あれ?探偵役は?」


「あ、それは私がやろうと思います。この探偵が実は時間旅行をしてやってきた純ちゃんなんです。実際はこの時代にも探偵はいてそれがさっき話していた、偏屈だけど情に脆い心優しい探偵役ですが、その役はまだ未定なんです。純子の役は相談したんですけど、原作者自らやる方がいいだろうって。本当はやってもらいたい人がいたんですけど・・・」


 ん?横目でチラッと誰を見たんだ今?


「・・・あの、被害者役は誰なんですか?」


 お、斎藤の奴、ようやく口を開いたな。ここまで本当に存在感がなかったからな。少しは参加してもらわなきゃ困るよ。


「あ、それもまだ決まっていないんです。一応、被害者は霧深い温泉街での高級食材食べ放題ツアーの客なんですけど」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。随分と突飛な設定だな。霧の街が舞台って聞いたから、てっきりロンドンとかのお洒落な街かと思ったのに。しかもバスツアーでサービスエリアにトイレが現場だなんて」


「ありきたりな設定じゃ面白くないと思って。ちょうどテレビの旅番組でカニの食い倒れツアーをやってて、探偵がいる街と言えば霧の街だからそれをミックスしてみました。純ちゃんがタイムスリップしたのは、バブル景気真っ只中で、お金に糸目をつけない食道楽たちが、カニやらイクラやら松茸やらの高級食材をたらふく食べる豪華ツアー一行のバスの中なんです」


「な、成程ね」


「・・・それで話は戻りますけど、被害者の役はまだ決まっていないんです。性別もまだでして。どうも失礼ながらピンとくる配役が見つからないんですよ」


 成程な。まあ、原作者がそう言うんならそうなんだろう。単なる学芸会かと思いきや、こりゃ中々凝った芝居になりそうだな。


「・・・本当は被害者役は私がしようかとも思ってたんですが」


「え?でも、君は探偵役なんだろう?」


「そうなんですけど、原作者自ら主役をはるというのは、どうも本心を言うと乗り気じゃなくて」


 まあ確かにちょっと調子に乗ってるって思われても仕方ないよな。


「だから本当は適任の人がいたんですけど・・・」


 ん?また横目でチラッと・・・。誰を見てるんだ?


「・・・あたしはやっぱり、原作者が主役をやるのが一番だと思うわ」


 お、さっきから明後日を見ていた中々の美人がようやく口を開いたな。声も中々可愛い。


「そ、そうかな・・・」


「そうよ。だって純ちゃんの性格を一番よく分かっている人だもの。被害者役なんて誰だってできるわ。石上、あんたがやればいいじゃない?」


 石上ってこの、ほとんど骨と皮だけのひょろガリ野郎か?


「ぼ、僕!?僕は一応小道具係だし」


「だから兼任すればいいじゃない。劇が始まれば小道具係なんて見てるだけなんだから」


 おいおいこの石上ってひょろガリ困ってんぞ?この女、名前は知らないが結構強気な奴だな。だがそれがいいんだけどね・・・。


「まあ待って。最初の話通り、私が純ちゃん役をやります。それで被害者は・・・そうだ、お二人に選んでもらうってのはどうかな、みんな」


 な!?なぬ!?


「ちょっ!?お、俺たちには無理だよ・・・。ねぇ?斉藤」


「あ、ああ。どうして俺たちなんだよ?」


「やはりここは、実際にミステリーを体験したお二人の意見を参考にしたいんです。その為にお越しいただいてるわけですし・・・」


「そ、それは・・・」


 それを言われると何にも言えねぇな。


「とりあえず、これから初めから通しで劇をやってみますので、お二人とも見ていてください。一応、仮の被害者役を石上君、お願いできる?台本のセリフは、裏方含めてみんな熟知してるでしょ・・・?」


 おいおい、本当に俺たちにそんな重要な決め事を任せてもいいのかよ。こりゃ斎藤の言う通り、帰った方がよかったかもしれないな・・・。










































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