第73話 悩めるタケ

「・・・確かに変わった妹さんだね。それで?竹下君にはなんてアドバイスしたの?」


「いや、まだ何も。とりあえず帰って資料を見てみるって言ってさ」


「資料?」


「その方が専門家っぽいじゃん。タケも期待の眼差しで見送ってくれたし」


「・・・変にカッコつけると後に引けなくなるぞ?」




 ぐっ・・・斎藤の奴、痛いところついてきやがる。




「資料って、どうせアニメかなんかの資料じゃないの?」


「わ、わりぃかよ。家にはな、様々な性格の女の子の資料があるんだ。ツンデレ、ヤンデレ、クーデレ・・・」


「何それ?三兄弟なの?」


「ち、違う!性格の種類なの!」


「でもアニメなんだろ?」




 ぐ・・・ま、また痛いところついてきやがる。




「後に引けなくなっても知らないぞ?下手を打つより前に断った方がいいと思うなぁ。カッコつけるのはお前の悪い癖だ」


「んだよ、世話好きで首を突っ込みすぎるお前も立派な悪い癖なんだからな!」




 待て待て、ここで言い争っている場合じゃない。実際の所、昨日はタケの母ちゃんのハンバーグを食べて適当に駄弁って終わっただけだ。肝心のタケの悩みには全然応えられていない。とりあえず家に帰って資料を見てみるなんて尤もらしいことを言って。そこであいつも何の疑問も持たないのもどうかと思うが、まあそれはタケがそれだけ真剣ってことだな。




 とりあえずタケは今日は休み。一日は猶予があるってわけだけど、ただ先延ばしにしてるだけなのは不味いってことで、とりあえずこいつに助け舟を出したわけだが・・・。




「・・・と、とにかくさ、ここまで話を聞いてお前はどう思う?」


「え?どうって急に言われてもなぁ、すぐには思いつかないけど」


「頼むよ、タケは明日出勤なんだ。あいつの事だ、開口一番に聞いてくるぜ?どうでしたか?って」


「そうだろうね、期待値は高いだろう」


「だけど、悔しいことにお前の言う通り、俺の持ってる資料はアニメの物だ。現実の女に当てはまるものじゃない。ってか、あんな奇妙な女、アニメにも中々いないぞ」


「う~ん、そうかもね。確かに凄い話だった。だから俺から言えることって何も・・・」


「おいおい、それじゃ困るんだよ。な?何かないか?これから俺はどうすればいい?頼むよ、何か知恵を貸してくれ。ほら、もうすぐ昼休みも終わっちまう」


「う~ん・・・」




 おいおいそんな難しい顔するなよな。おじさん探しの時のような推理を俺は期待してるんだからよ。




「・・・まあ、もしかしてだけど・・・」


「お!何だ?」


「あ、いや、もしかしてだぞ?その純子さん?一応仮でそう呼ぶけどさ、多分だけど、芸能界に入りたいんじゃないのか?」


「え?芸能界に?」


「うん。だって、役になりきってたり名前まで変えてるんだからそう思って」


「でも、純子のお父さんは芸能界入りには反対だったんだぜ?」


「でもそれは純子さんのお父さんの気持ちだろ?純子さん自身の気持ちは聞いたのかな?」


「そ、そういえばそうだな。聞いてないのかな」


「もし聞いてないのなら、純子さん自身には本当は芸能界への夢があって、それが元で離婚してしまった両親に対して複雑な気持ちを抱いているのかもしれないよ。全てを明かさないところにはそういうところがあるのかも」


「明かさないって?」


「だって、竹下君がはっきり純子さんに聞けば済む話じゃないか。何でそんな役になりきったりとか変な事をするんだって。でもお前に相談してきたってことは、それはしてないってことだ。勿論、お母さんだって聞いてないだろう。それはつまり、純子さんが明かしてないって事なんじゃないかな?」


「な、何で明かさないんだ?」


「それだけ竹下君とお母さんにまだ心を許してないんだろう」


「・・・なるほどなぁ。いやあ、流石だよ。相変わらずの名推理だね」


「推理じゃないさ、あくまで憶測」


「でも、お前が言うならその通りな気がするよ。んでさ、仮にそうだったとして、俺はどうすればいい?」


「とりあえず、竹下君に今の話をして今後の事を考えるべきじゃないかな?」


「ああ、そうだな。よし、善は急げだ。今日仕事終わりにあいつの家に行ってみるか」


「そうしたらいいよ」


「勿論お前もな!」


「え!?な、なんで俺まで!」


「いいじゃねぇか付き合えよ。推理した本人が行かなきゃ話進まないだろ?」


「で、でも・・・」


「いいからいいから、ほら、昼休み終わるぜもう、とりあえず仕事に戻ろうぜ!」


「お、おい斉藤!?」




 よしよし、これで方向性は決まったな。タケにはこれが俺が全て資料を調べた結果だと話せば、俺の株も上がるしな。これは仕事が終わるのが待ち遠しいぜ・・・。




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