第42話 DJ
「・・・何を言ってるザマス?うちの可愛い真彦ちゃんが、あなた達みたいな薄汚い輩と話しなどあるはずないザマス。さ、お引き取りくださいザマス・・・」
「・・・何だよザマスって、そんな事言ってなかったぞ?」
「ああいうお高くとまってる金持ち婦人は大体語尾にザマスが付くもんなんだよ」
「んなこと言われても・・・。」
・・・んだよったく、そんな辛気くさい顔すんなよな。俺だってムカついてるんだ。だから折角あのムカつく女の真似して場を和ませてやろうと思ったのに・・・。
あーあ、だからこんな所来たくなかったんだ。
そりゃこの間無理くり休まされたから疲れは溜まってないけど、本来なら明日がいよいよ念願の休みなんだ。だから帰ってゆっくりしたいのにあのガキの家まで付き合わされて。
今は薄暗くなって余り全容は見えないけどさ、それでも流石理事長の息子の家だけあってご立派な建て構えですよ。まさか庭にブランコや滑り台まであるとは思わなかったし。
でも結局無駄骨の門前払い。あの激カワ妹でも拝めたらまだ来た甲斐があったかもしれないけどさ。まあんなこといってる様じゃ俺もまだまだ二次元の呪縛から解かれてないんだなぁ。
「なあ、帰ろうぜ?もうこんな時間だ。今日は山田が休みの日だから、定時きっかりで帰れたんだ。こんな滅多なチャンスを逃す手はないんだぜ?」
「・・・分かったよ。仕方ないけどこれで諦めるか。このボタン、一応ポストに入れとこ。ここだよな?」
「ああ。・・・さて!帰るとするか、んじゃな斎藤」
「ああ、俺はこのまま病院寄ってくよ。進藤さんも大分回復したからもうじき退院だ。最後の見舞いってとこかな」
ったく、ご苦労なこったよ。怒鳴られた上にまだ見舞うつもりか。
「わかった。じゃな」
さてと、あいつはこのまま原チャリでブーンか。俺もバス乗ってさっさと帰るかね。明日はやっと公式の休み、所謂公休ってやつが待ってるわけだし。
・・・ん?何か音がしたな。後ろか?
あん?ザマスの家の2階の窓が開いたようだな。こんな時間に洗濯物でも干すのか?ベランダじゃないみたいだけど。
「えっ!?」
おいおいなんだよ。窓から何か長いものが飛び出してきたぞ?
「あれって、シーツか?」
だな、間違いない。シーツを結んでロープみたいにしてるんだ。ってことは、あの部屋から誰か下に降りるつもりか?すげぇな、漫画でしか見たことない展開だぞこりゃ。
「・・・あれ?あいつってもしかして」
間違いない。あのガキんちょだ。まさかまじであそこから降りる気か?いくらなんでも小学生のガキには無茶な芸当だろう。
ちっ、こんな時に斎藤も行っちまったしな。ここは仕方ない俺が何とかしなければ・・・って。
「あ!降りやがった!」
んだよ、止める間もなく何の躊躇もしなかったなあいつ。こないだ会ったときはあんなにビクついてたのに、本当に同一人物か?
しかし、あそこまでして外に出てどこに行く気だ?玄関から堂々と出ないでこそこそ出ていくってことはあのザマスに見つかったらヤバい所に行くってことだよな。
・・・うし、明日は休みなわけだしここはテンション上げ上げで奴の後をつけてみるか。ここまでして行きたい場所なんてよっぽどの所だぞ?
斎藤は・・・いいや。原付に乗っちまったんなら電話しても気づかないだろうし。
・・・すっかり暗くなっちまったな。もう少し詰めてつけないとあのガキ見失っちまうな。
しかし、この道は・・・、もしかして学校に向かってるのかな。あそこを右に曲がったらほぼ確定だけど・・・、あ、曲がった。間違いないな。
わざわざこんな時間に学校に行かなきゃならない理由なんてあるのか?飼育小屋のウサギに餌でも忘れたかな。
・・・いや、待てよ?もしかしてあのボタンを取りに行こうとしてるんじゃないだろうな?
この前あの激かわ妹に取りに行かせたけど見つからないもんだから今度は自分で探しに来たってところか。
シーツ使ってまでこそこそと取りに来なきゃいけないってことは、やっぱり斎藤の睨んだ通りあのガキが進藤さんの事故を引き起こしたってのは間違いなさそうだな。
理事長である親はそれをもみ消そうとしている。そしてあのガキは両親の知らないところで良心の呵責に一人耐えながら、とりあえず証拠品であるあのボタンをこっそり持ち帰ろうとしてるってところか・・・洒落、入りました。
・・・まあ、そういう事だってのは分かったな。探しに行っても見つかるわけないんだけど理由が分かった以上、これ以上あのガキをつける理由は無くなったわけだが・・・。
ま、ちょいとばかし説法してやるかね。いや、本気でこの事態に向き合ってるんじゃないからな。このまままっすぐ帰っても何もないし、あくまで暇つぶしであのガキに話しかけるんだから。
斎藤が傍にいると茶々を入れてくるだろうから丁度良かったな。よし、そっと忍び寄って驚かしてやるとするか・・・。
「おい」
「えっ!?」
うわ~、ビクつき過ぎだろこいつ。雷にでも打たれたみたいに飛び跳ねたぞ。まあ暗がりで背後から声かけられたら誰だったそうなるかもしんないけど。
「こんな時間に何やってんだ?」
「え・・・」
ん?こいつのこの顔つき、俺の顔に見覚えがあるって感じだな。まあこの間声かけた場所も大体この辺りだったし思い出したんだろう。
よし、今は敢えてそこには触れないでおこう。
「ガキ一人でこんな時間にうろついてるなんて怪しいな。何してる?」
ま、知ってるけどね。俺も意地悪な奴だな。
「し、親戚のおじさんの家の帰りです・・・」
ん?こいつこの間もそんなこと言ってたな。
「・・・この間もそう言ってたなお前」
「え!?あ・・・・。」
まあこれで俺がこの間会った兄ちゃんだってのはこいつの中で確定しただろうな。
怖いだろうなぁ。二度もおんなじ奴からこんな暗がりで話しかけられたら。ま、俺は結構楽しんでんだけど。
「可愛がられてんだなぁ、そのおじさんとやらに。んで?そのおじさんは知ってんのか?この事をよ」
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
ラノベなんかでこの状況を説明したとしたら、きっとこんな表現になるだろうなってくらい動揺してやがる。ビビり過ぎだろいくらなんでも。2階から飛び降りれる度胸があるなら少しは構えてろよな。
「あ、あなた何者ですか?」
「何者だぁ?・・・そうだな。名は名乗らんが、お前を正しき道に導く者ってところかな」
なんちゃってな・・・。
「・・・やっぱり、嗅ぎ付かれたって事か・・・」
ん?何だ?このガキ、急に雰囲気変わったぞ?妙に落ち着いてやがる・・・。
「・・・お兄さん。ちょっと僕に着いてきてもらえませんか?」
「え?きゅ、急に何だよ。どこに行こうってんだ?」
「それは着いてくれば分かります」
何だってんだ?このガキ、さっきまでおどおどしてた奴とは大違いだ。まるでこれから闇取引にでもいかんばかりの形相だぞ?
・・・ん?何だ?ポケットから取り出したのは携帯か?おいおい今時のガキは進んでんなぁ、もう携帯なんか持ってんのかよ。お前らみたいなガキには早すぎるだろ。駄菓子コーナーに売ってるおもちゃの携帯で十分だ。確かラムネ入りだったかな?
(いやさ、最近色々物騒だろ?子供を狙った犯罪ってのも増えてるらしいし。だから、警備が厳重になってて、運動会なんかも親御さんでも許可証がなければ入れないらしいんだ)
(えっ!マジで!?そこまでするのかよ)
(まあつまり、世の中ロリコンが多くなったってことだな)
そういえばそんなやりとりをあいつとしたことがあったな。つまりこのガキが持ってる携帯も身を守るためのお守りってことか。
・・・ちぃとばかし耳が痛い話ではあるな。そりゃ今は卒業したつもりでいるけど、つい最近まで魔法少女ちゃんを筆頭に幼い美少女たちに萌え萌えキュンキュンだったんだから。
極めつけはこのガキの妹にまで萌えてしまったんだから、俺にも十分犯罪者の素質があったということだ。繰り返し言いますがもう卒業していますからね。
「・・・さあ、行きましょうか」
「え?・・・ああ、はい・・・」
どうやらどっかと連絡がついたみたいだな。これは感傷に浸ってる時間はないらしい。とりあえずこの先の展開が気になってきたからここはひとつ騙されたつもりで着いて行ってみるか・・・。
・・・まあ、さっきから黙って歩くこいつの後ろを俺も黙って歩いているけどよ。一体どこまで行く気なんだ?もう10分は歩いてるぞ?
しかもこのまま行けばどんどん山の方に行っちまう。すっかり夜だってのにこんな時間に山に向かって何をするつもりだ?
・・・まてよ?こういう展開ってたまにサスペンスドラマとかである流れか?このまま山に連れていかれて、いきなり背後から別の誰かに頭をど突かれて・・・。
これはもしやそのまま穴掘って埋められるパターン?
おいおい冗談じゃないよ。こんなところで殺されてたまるかよ。
しまったな、もっと早くこの展開に気が付くべきだった。三次元は水原さん以外敵と見なしていたから、サスペンスドラマなんて普段見ていなかった。見るのはいつも女の子がキャッキャ言ってるのばっかだったからなぁ。
「どうしました?場所はもうすぐそこですよ?」
な、何だよ急に振り返るなよな。さっきからこのガキが妙に不気味に見えてきた。
こないだ会ったときはただのビクついたガキだったのに、まるでアニメなんかでよくある、悪の組織の親玉が実は天才少年だった的な展開じゃないか。
で、でも所詮はそれはアニメでの展開だ。ガキはただのガキ。こんな奴に殺されてたまるかよ。よぉし、行ってやろうじゃないの!!
「・・・ここです」
「・・・ここ?・・・」
・・・ここってここか?てっきり山の中に行くかと思ったけど、その手前のアパートに連れてこられたってことか?
こんなところに来て一体何をするつもりだ?
大体何だこのアパート。街灯の光だけでボンヤリとしてるけど、そうじゃなくても確実に時代に取り残されたかのような昭和なボロアパートにしか見えない。なんか漫画家たちが共同生活してそうな雰囲気だなこりゃ。
「・・・このアパートに入るのか?」
「そうです」
「入ってどうする?」
「それは入ってからのお楽しみです」
な、このガキ、もしかして今薄ら笑いをしなかったか?
や、やっぱり俺殺されちまうんじゃないか?場所が山からアパートに変わっただけで、ドアを開けた瞬間いきなり背後からゴツンと・・・。
「・・・ま、まさかな・・・」
「え?」
「ああ、いや何でもない」
「さあ、行きましょう。階段を上がって2階の一番奥の部屋です」
お、おい。そう淡々と行くなよ・・・。って、ええい!!俺も男だ着いて行ってやろうじゃないの。たとえ奴さんに殺意があったとしても所詮はガキだ。見事返り討ちにしてやるぜ!
・・・な、なんかこの鉄の階段のコツコツという音が不気味さを醸し出すな。俺が変に構えてるから余計そう感じるんだろうけど。
ええと、一番奥の部屋とか言ってたな。ということはあそこか。
「・・・ここです」
「・・・そ、そうか・・・」
「ちょっと待っててください」
ん?一体何を・・・って、え・・・?
このガキ一体何を始めたんだ?ドアを何度もノックしてやがる。そこにあるのインターホンだろ?何でそれを押さないんだ?
・・・ん?さっきからこのノックの音、妙にリズミカルだ。もしかして何かの曲に合わせてノックしてるのか?何だ?何をしている?このガキさっきから本当に何をしている?
・・・まてよ?この曲、どっかで聞いたことがあるような・・・。なんだ?最近も聞いたぞ?いや、毎日のように聞いてた気がするぞ?何だ?一体何の曲だ・・・?
あ、叩き終わったみたいだ。一体このガキ何を・・・って、あ、ドアが開く。誰か出てくるぞ?
「やあ、待ってたよ。もうすぐ時間だ。全員揃っているよ」
何だ?中から出てきたのはやっぱりガキだ。まあこのガキよりは間抜けな顔してるけどよ。
「ありがとう。ごめん、急にこんな展開になって」
「いいんだよ。で、その人?」
「そう。よろしく頼むよ」
な、何だよ。一体俺は何をよろしくされるんだ?
そういやさっき、もうすぐ時間だとか全員揃っているとか何とか言ってたな。これから一体何が始まるんだ?この部屋の奥にはまだお仲間がいるってのか?
もう何が何だがさっぱり分かんねぇ。
「さあ、入りましょう・・・」
は、入りましょうって、大丈夫なのかこの部屋?何で部屋の中まで真っ暗なんだ?ええと、ここは台所なのか?向こうに細い廊下みたいなのがあるけど・・・、あ、やっぱりそっちに行くのね。で、短いなこの廊下、もうドアの前についちまった。
ドア、当然開けるよな。開けたら一体何が待ってるんだ・・・?
「・・・改めましてようこそ、僕たちの秘密の花園へ・・・」
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