第17話 おじさん失踪事件
バス停に到着。まだバスが来るまでには十分な時間があったので、俺たちは近くの自販機でコーヒーを買って乾杯した。前祝いというやつだ。
斉藤は相変わらず余裕たっぷりといった様子で、ホットなコーヒーをクールに飲んでいたが、俺は斉藤の見事な推理の結果を早く知りたくて、自然と気が急いていた。
「さあ、来い!今日こそは絶対見つけてやるぞ」
この台詞も叫んでいたのは俺の方だった。すっかり斉藤の推理の虜になっていた俺は、恥ずかしげも無くそう叫んでいたのだ。
「気合入ってるな。大丈夫さ、絶対おじさんはやってくる」
そう言って、ニヤリとキザっぽい笑みを浮かべた斉藤。普段なら、その顔でよくやるよと、小バカにするところだが、今日の斉藤は何をしても決まっていた。本当に格好いい。これじゃあ、あの水原さんでも役不足かもしれないぞ。
相変わらずの凍てつくこの寒さは、せっかくコーヒーで暖まった体を段々と侵食していったが、この心の火照りと興奮までは脅かすことはなかった。地団駄を踏むように足踏みをしながらも、リスがどんぐりを食べるように、カタカタと歯をならしながらも、俺の心は燃え上がっていたのだった。
そして・・・、とうとうバスが来たのが見えた。斉藤が普段乗っているバスで、斉藤が降りた後の次の停留所、つまり、この停留所にやってきたという事になる。
俺の心の熱は最高潮に達した。ライブの開演を待ちわびていた客が、開演を知らせるブザーと共に叫びだす心境そのものだ。
おじさん探しは今日が最終日。今日、絶対見つけなればならなかった。このバスに乗っていなかったら、また当てもないローラー作戦が待っている。それは嫌だ。
だが、その心配は無用だろう。斉藤の推理は本当に見事だった。あれ以上の答えは絶対にないだろう。あいつが好きな星林達郎をよく知りもしないのは事実だが、俺には胡散臭い星林より、ここにいる男の方がずっと凄いと感じていた。
水原さん、星林なんて忘れちゃえよ。あなたの目の前にもっと凄い男がいるぜ。あんたは幸せもんだよ。これからの人生、なにかある度にこいつの名推理に酔いしれることが出来るのだから・・・。
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