第46話 チョーカー。




 あのチョーカーもきっと、ユージアのつけていたゴツい首輪と同じようなものなんだろうと思った。というか、お揃いの時点で、確定だよね…。



(『従属の首輪』…ユージアのよりは比較的作られたのは最近っぽいんだよなぁ。今も作れる技術が残ってるのかな…)



 ユージアと契約中である「奴隷契約」も多少は強制力があるけどね…『従属の首輪』は強制力というよりは、もう洗脳というべきかなぁ。


 酷い仕様の物だと、主人格と一方通行の意識の同調とか、完全な隷属のために別人格を作り出してしまうものとか、あったんだよね。

 あまりにも非人道的だと批判を受けつつも、要人への対応用に「絶対に裏切れない」という安心感からか、貴族や王族など、裕福層からは重宝されていた時代があった。


 しかも予め期限を決めておく「奴隷契約」と違って装着し続けている限り、本人の意思とは関係なく、期限がない。



(私も「聖女」としてあのまま教会ここにいたら、着けられてたのかも)



 ……ふと、そんな考えに至り、ゾッとした。

 あの、フィアのことだから。

 3歳児セシリアを最初っから扱いに困り、怯えるようにしていたフィアだから。


 速攻で私を持て余して、『従属の首輪』に丸投げするに違いない…。

 いや…あの初回で駄々をこねた時点で、教会の壁ぶっ飛ばして騒ぎにならなければ、早々に装着されてたのかもしれない。


「隙を見て、抜け出して帰ろう」なんて考えがものすごく甘かった。

 今世での初めての魔法で、加減がわからなくて壁まで吹き飛ばしてしまったから、誘拐はダメだけど、建物の破損に関しては、ごめんなさいしようかと考えていたんだけど…。



(駄々こね→壁ぶっ飛ばし→騎士団の捜査、のコンボが無かったら…やばかったんじゃ…うん、確実にやばかったと思う)



 まぁ確かに、初対面の時点でもフィアは高位のローブ着てたし、それなりの権限がある人間ではあるのがわかってたから、きっと誘拐に関しても多少は関係してるんだろうな?くらいには考えてたけどさ!

 そもそも、教会もだけどフィアがセシリアわたしの誘拐犯どころか、裏でまさかここまで非人道的なひどい事をしてるとは思ってなかったんだよ…。



(腐敗してくさってるとかいうレベルをはるかに超えてるよね…これは)


「……セシー?大丈夫?あなたは、無理しないでいいのよ?」



 少し、考え事が過ぎて動きが止まってしまったのか、母様から心配気に声がかかる。

 この状況を見て、固まらない方がおかしいっちゃおかしいかもしれないんだけどね。

 ていうか、母親の立場からいえば、こんな教育に悪すぎる場所に一瞬たりとも置いておきたくないわけだけど。



「…おかしゃま、まひは、なおせましゅか?」


「麻痺?できるけど…この子の、毒素、は…消したわ。麻痺は…して無いわよ?」



 泣き過ぎて、というか今もこのまま萎れてしまうんじゃ無いかと思うほどに、ぽろぽろと涙が止まらない様子の母様。しゃくりあげながらも、少し不思議な顔をされてしまった。


 しかし、さすがの解毒済みだった。そうか、早急に空気の入れ替えしてるくらいだし、毒だってのは伝わってたんだね。それなら説明は早い…と思う。…のだけど、さて、どう伝えようかな。



「おむねがまひしてましゅ。だって、おかしゃまがなおしたのに、うごけないのでしょう?……おかしゃまに、なおせないことなんて、ないのでしゅよ!」



 自信たっぷりにどーんと胸を張ってみる。

 ──なるべく、歳相応の子でいれるように言葉を選んで。

 我が子がしっかりするのは嬉しいことだけれど、いくら非常時とは言え、いきなりしっかりし過ぎて、得体のしれないものにはなりたくは無いし。



「そうね…がんばる、からね。セシーも一緒に頑張ろうね…セシーもお胸に手を置いて?」



 泣き笑いだろうか?少しだけ、母様の声のトーンが上がった気がして見上げると、そのまま母様に手を掴まれて「雛」と呼ばれていた子の胸の上に誘導される。



(母様、もうちょっと下がいいな、そこは心臓に近いけど、麻痺は心臓と腎臓だから。腎臓も治さないと長患いしちゃうから、もうちょっとだけ下がいい)



 そう思って手をこっそり下にずらす。その手を包み込むように上から母様の手が置かれた。

 とても柔らかくて温かい手。その手がさらに温かさを増していく。



「セシー?母様の手、温かくなったのがわかる?…麻痺はね、この温かさを、冷たくて寒くて震えてしまっているところに、届けてあげるの……一緒に冷たいところを温めようね」



 母様の声とともに、手の温かみは一層強くなって、でも熱いわけではなくて、心地よさが増していく。患部の治療ではなくて、私が癒されてる気がしちゃったよ。

 主に私の心。見た目と違って、中身は結構なおばあちゃんだからね…さっきの動揺といい、思いのほか汚れまくってるのかもしれない。


 ちなみになんだけど、腎臓が大事なのは、というかこの毒虫の麻痺がなんで腎臓に大ダメージになるのか?それは簡単な理由なんだけどね。

 腎臓って血液中の掃除屋さんなんだよね。そうやって掃除して出たゴミを、尿として排出する器官だから、血液中に毒素がまわってきた時に、1番にダメージを受けてしまうの。


 そう考えてみるとよく冒険者が猛毒の後遺症で患う病気は、多分だけど腎臓の不調からだと思われる症状が多い気がしてくるよね。

 流石にこの世界には透析なんて技術はないから、治療院を訪ねるか、薬師に薬を出してもらうかで対応することになってしまうのだけど。



「…頑張って…もう少しだから…頑張って…」


「こんな事で…この子たちの、未来を…奪わないでっ…!」



 ぽつりぽつりと、母様の祈りのような言葉が聞こえ続けている。


 ぱっと見た感じではあるけれど、3人ともユージアより少し上くらい。

 前世の高校生になったばっかりくらいの男の子に見える。顔色こそ悪いけれど、体格も何もまだ発展途上な、中性的な美貌を持ち合わせているように思える。



(……どんな子なんだろうね。早く元気になって、笑ってほしい)



 確か、心臓と一緒に治してほしい腎臓は、心臓よりは下で…前世で習った人体標本を思い浮かべてみる。

 あれって、前世にいたにほんでは小学校低学年で習っちゃうんだもんなぁ。人体の不思議って。かなり簡略化された物だったとしても、現世こっちに持ってこれたら、立派な医学書として使える気がしちゃうよ。


 えーと、腎臓は心臓より少し下で、肋骨を半分被るように守られているように描かれていた気がする。

 確か左右にある拳大のサイズで…そう頭の中に想像を巡らせて、麻痺の治療の魔力が腎臓へ流れるように意識していく。



(まだまだ若いんだから、ここからいきなり透析レベルの長患いとか、絶対にさせたくない)



 心音は麻痺治療開始直後から随分大きく戻ってきていて、手を当てているところからでも、鼓動が感じれるようになってきている。

 もちろん、呼吸も速く…最初に見た時よりは速く、多分だけど通常の呼吸に戻ってきてると思う。


 蝋人形のように全身蒼白だったのも、ほのかにではあるが生気を取り戻してきているように見えた。



「…もう少し、もう少しだから、頑張って…!」



 母様の祈りのような声が響き続ける。



「あっ…もう、大丈夫よ…!」



 母様のほっとした声に、胸から手を離して顔を覗き込むと、意識を取り戻したのか、薄っすらと瞳を開き始めたところだった。

「よかった…」と安堵からの呟く母様をぼんやりと見つめる様にして……。



 ──私と目が合うと、突然、叫び声をあげた。



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