第43話 確保。
「……残念ながら、もう
フィアの癇癪に対する返答なのか、ユージアはフードを外してみせる。
証とは…『従属の首輪』の事だろうか?
ゼンが食べて外してしまったけどね。
あんなものがないと成り立たない主従関係なんて、ろくなものじゃないと思うけど。
ユージアの首にずっと当たり前のように着けられていたはずの『従属の首輪』が失われていることに気づいたのか、フィアの双眸が一瞬大きく見開かれるが、すぐに何もなかったかのような無表情に戻り、叫び始める。
「なんで、なんで来ないのよ!早く来なさいよ!ここの全部捨てちゃってよ!」
癇癪を起こした幼子のように、きーきーと叫びを上げる。
しかし先ほどとは打って変わって能面のような、何も読み取ることができない表情となっていた。
『フィア司祭確保!至急応援頼む』
……風の魔法だろうか?拡声し、館内へ響き渡らせていった。
すると、ほぼ待ち時間無しに隣の部屋から、彼と同じローブの人間が5人ほど駆けつけてきた。
「びっくりさせちゃってごめんね?オジサン達は王国の魔術師団の魔術師だよ。酷い事をしてた人たちを捕まえにきてたんだ」
精一杯子供たちを落ち着かせるようにと、にこりと笑顔で私たちに話しかけてきた。
魔術師団が来てるという事は……父様も近くに来てるんだろうか?
その視界の奥では、フィアの両腕、両足首に銀の装飾の入ったブレスレットを装着しているのが見えた。
手枷足枷のようなもので、装着者の魔力の発生を感知すると途端に磁石の様に、互いに貼り付こうとする性質を持っている。
しかも装着者の魔力を使って、魔力分だけ全力で貼り付くので、実質魔封じとなり、魔法を使うことが出来なくなるんだ。
「しかしこれは凄いな。君たち火傷はしてないかい?ずいぶん怖い思いしたみたいだけど」
「こんな…小さな子供に向かって、なんてものをけしかけてるんだ!」
「これの処理どうするんだ?高温すぎて水じゃ無理だぞ」
火の壁を見上げ、ユージアのぼろぼろになってしまったローブとを見て口々に心配そうに私たちを見渡す。
「確かフィア司祭は水の属性持ちだったはずでは?」
「フィア司祭は聖女として光でも登録があったし。案外あてにならないぞ?」
火の壁までフィアのせいになっていく。どうやって誤解を解いたものやらと、ぼーっとユージアに抱えられたまま考えていると、レイの不満げな声が響いた。
何かずっと不満な感じなんだけど、レイはどうしちゃったんだろう?
「それ、セシリアがやらかしたやつだから。フィア司祭じゃないよ」
「セシリア…セシリア嬢か!師団長の御息女であれば、納得の…」
「いや、納得しちゃダメだからね?」
不機嫌そうに「納得しちゃダメ」と魔術師団員に向かって言うレイに、ローブを目深に被った人が近づいてくる。
体格的には、ユージアより少し背が高いかな?といった背格好に見える。
「君もだよ?……レイ。あとでしっかり反省会だよ?」
そう、レイに話しかけながらローブのフードを上げると青い髪が零れ落ち、出てきたエメラルドグリーンの瞳の涼しげな美貌に周囲はハッとなって見惚れてしまう。
当の本人は全く気にした様子もなく、自身の背後にゆらゆらと怒りのオーラを纏いながらレイに中性的でとても美しい笑顔を向ける。
たしか…この国の守護龍のアナステシアスさんですよね。
「あ…はい」
少し不機嫌気味ではあるけど、基本的にはずっと落ち着いていた印象のレイが、見る間見る間に萎れていくのを見て、そばにいたエルネストが顔を引きつらせていた。
美人さんの笑顔って、ものすごい迫力があるんだよね…怒りがこもってると余計に。
ていうか、国の守護龍が出てくるとか、教会で何が起こってたんだろう?
「いや~ユージア君、足速すぎて一瞬見失っちゃったよ…って、ちょっと見ないうちに随分ボロボロになってるけど、そのローブ、借り物じゃなかったっけ?」
一番最初に話しかけてきた魔術師団の人がにこにこしながらこちらに小走りに駆け寄りつつ、話しかけてくる。
「あ…。あとで謝るしか…あぁ~許される気がしないっ!」
「だよなぁ。それ、師団長の子息に支給されたばっかの、初任の階級ローブだろ…」
師団長の御子息って…セグシュ兄様だよね?
セグシュ兄様の魔術師団就任のローブだったんだね…。
「弁償…できる気がしないし、どうしよう」
ユージアは私をそっと側に下ろしつつ、軽く頭を抱える様な仕草をして、壁にもたれて座る。
その頭をくしゃくしゃとしながら数人の魔術師団の団員が話しかけてくる。
「ちびっこ頑張ったな!ただ、少し無理が過ぎたな!こういうのは大人に任せとくもんだ」
「もうすぐ治療院の連中も来るから、それまでここを動くなよ?」
「あ~。バレてたかぁ」
ふぅーっと深いため息をつくと「頑張ったでしょう?」と力無く笑う。
「戦いのプロをバカにすんなよ?」
「お前は頑張ったよ!司祭クラス相手にチビ3人守り抜いたんだから、あとはゆっくり休んどけ」
「どうしたの?…って!え?」
「無理しすぎ」この理由がわからずに、直接確かめようと振り向くと、私を小脇に抱えていた側の脇腹がじんわりと血がにじんでいることに気づいた。
もちろんのことだけど、私の服にも血がうつっていた。
「…あ~、やっぱ辛い。ちょっと休ませてね」
そう言うと、ゆっくりと崩れ落ちるままに横になる。
「ゆーじあ、これ、いつから?」
「え~っとね、この手前の部屋。フィアが『籠』って呼んでた部屋なんだけど。そこにも助けなきゃいけない子がいたからね…頑張ってきたんだけど、ちょっと失敗しちゃってねぇ」
……この状態で、ずっと私を抱えていてくれてたの?
助かった、と思う感情から一気に血の気が引いていき、一気に視界が歪み始める。
今、泣いてたってしょうがないのに。
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