第20話 今度はどこだ。



 甲高い金属の当たる音と怒声がたくさん聞こえてきて、目が覚めた。


 私はふわふわの毛皮に包まれて寝ていた。



(……今度のここは、どこだ?)



 さっきは自分の魔法の反動で、壁に強かに打ち付けられて意識を飛ばしてしまって。

 と、周囲を確認していく。

 綿麻のような、帆布の薄目のような生地で出来た、ごわつくけど微妙に柔らかい?なんかよれよれの衣類に着替えさせられて…場所も移動してる。


 湿気が少し高い感じで、薄暗くて少し寒くて…さっきの個室の半分以下の広さに、トイレと水瓶飲み水完備。

 条件だけで言うならば、まるで単身者用ワンルームアパートのよう。


 敢えて問題として挙げるならば、この四角い部屋の壁、4面のうち1面が鉄格子になっているように見える、ということかな。

 壁も地下なのだろう、地下水が浸み出して水滴がたれていたり、ちょろちょろと水流ができている場所もあった。


 ……カビ臭いし、不衛生極まりないってことだけは確かだけどね!



(一度の反抗への罰としては…酷すぎない?幼児だよ?やっぱり、誘拐するくらいだから常識ないんだろうなぁ)



 さて今度の布団、ガサガサのシーツの下は、藁かな?これは。少しすえた臭いがあって、万年床のようで妙にしっとりしてる。

 枕だけ異常に上質な毛皮……と目があった。



「ぴゃ!」

「ぜん!」



 思わずぎゅっと抱きしめる。ゼンはかなり大きめの真っ白な猫の姿をしていた。

 途端に視界が歪み始める。ゼンと会ってから過ごした時間も、分かれていた時間すら、ほんのわずかだったのに、その身体の温かさに緊張が緩んだのか、涙がぽろぽろと止まらなくなってしまった。



「ぜん~あえてよかった!よかったよ…うっ…」

「ぴゃ…ぁ、落ち着いて!セシリア!ここを出よう?家に帰ろう?」



 号泣して涙が止まらない私を困ったように、そして周囲をチラチラと見渡し焦りながら、なだめてくれている。

 たくさんの大人の足音と、ガチャガチャと金属の擦れる音がどんどん近くなるにつれて、これから何が起こるのか、恐ろしくなって、自然とゼンにしがみつく力が強くなる。



「この…おとは…?」

「セシリア、大丈夫だよ。これは君を助けに来た騎士団の足音だから」



 ならば、と立ち上がり、鉄格子に手をかけるが、しっかりと鍵がかけられており、開く気配がない。

 騎士団の突入に気付き、咄嗟にセシリアを隠匿するために放り込んだ先が、この鉄格子のある部屋なら、ここは「絶対に見つからない」自信のある場所なのだろう。



「ていうか、きょうかいに、ろうやとか、おかしっいで…しょ…」

「うん、ここは魔術で秘匿された場所になってる。ここから出ないと、騎士団もセシリアを見つけられないんだ」



「だから早く!」と急かすように尻尾が揺れる。


 涙は止まらないし、号泣してしまったから、しゃくり上げてしまって、いつも以上に喋りにくいし、泣きすぎて酸欠なのか少しふらふらとする足取りで鉄格子に触れる。


 鉄格子には上の方にびっしりと記号のような模様が彫り込まれている。


 ……これ、読めるし。昔の文字だ。

 魔法陣を鉄格子に彫り込むことで、物質の強度と永続性を高めている。


 これと対を成す錠前をつけることで、収監されている者は魔力や力を失う。

 つまり、完全なる無力化ができる牢獄なのだけど、騎士団の詰所ならともかく、どうしてこんなものが教会の地下にあるのか?いや、あったのか?


 考えるだけで背筋がゾクゾクしてしまったので、ひとまず思考を中断させて、鉄格子の様子を観察していく。



(錠前が、新しい…?)



 この魔法陣が刻印された錠前であるならば、そうそう壊れる物じゃないんだけど。と錠前を確認する。

 私の手のひらほどの重みのある、銅で出来た錠前。表面に魔法陣が彫り込んであるが、発動していない。



(いや、そもそも誤字だらけだわ)



 まぁ、古代文字なんて、古代と言うくらいだから今は使われてないし、読むにも書くにも、それなりの専門知識が必要そうな感じになってるし。

 そりゃ、意味がわからなかったら、写し絵のように模倣するしかないもんなぁ…。



(鉄格子の魔法陣はとても綺麗な文字なのに、錠前の魔法陣の文字は…汚すぎる。解読できないんだけど!)



 平仮名で言うならば「あ」と「お」が判別できないという、ささやかなレベルどころではなく「なかま」と言う文字が「おかま」になってるという有様で。

 思わず添削したくなる衝動を抑えつつ、錠前をなんとか外せないかとガチャガチャしてみる。



「セシリア、その錠前壊そうか?」

「できるの?!」

「任せて!」



 とととっとゼンが錠前に噛み付くと、ガキンっという音を立てて粉砕されて、もぐもぐと咀嚼し…ごっくん!と、そのまま飲み込まれていった。



「え、ちょっと!たべちゃだめよ?おなかこわすよ!」

「美味しいよ?」


「えー…。きんぞくをたべる、ねことか、ないわ…」

「これは美味しいやつだから良いの!」



 ──よくないと思います!


 なぜか満足げなゼンはさておいて、錠前は無くなったので、鉄格子の閂状かんぬきをどうにかこうにか…よじ登って外して、通路へと脱出する。


 人の気配は所々にあるような気がするのだけど、見回りがこちらに来る感じはない。

 私以外にも投獄されている人がいるんだろうか?


 つまり、教会は日常的にこの監獄を運用しているという事で…それって宗教と言うより狂信的な何かがあるのだという考えに至ってしまう。



(この悪習が王都の教会だけならば、まだ救いはあるのだけれど…本殿がこれじゃあ、末端の各地に広がる教会もなにがしか、やらかしてそうだわ)



 フォーレス教はここ、メアリローサ国の国教のように浸透してしまっている。ぶっちゃけどこの街にでもあって、冠婚葬祭はフォーレス教に則って行われることが主流になってる。


 それが慈善事業と、信心深い人たちからなっているのであれば、とても素晴らしいものなのだと思う。ま、私は宗教って聞くだけで、拒絶反応が出ちゃうのだけど。


 前世の、ものすごく科学技術が進んだ世界ですら、宗教を騙る集団が気づかぬうちに肥大化、組織化されて、異文化や他の宗教の信者等等を、自らの障害となりうる存在を敵とみなして侵略行為や大量虐殺へとエスカレートしていった。


 信仰の強さとは恐ろしいもので、高学歴といわれるような一般的には頭が良くて、騙されないだろうと思われているような人たちが、自らの仕事や地位を捨ててまで、そして、自分の能力を最大限に発揮をして、嬉々として宗教的な紛争に参加しているという事実。



(教会は、私を聖女教育のために教会に通わせろとか、父様母様に言ってたんだっけ?一度の反抗でこの対応だと、利用価値があるから殺しはしないが、人権一切無視の濃厚洗脳コース一直線!とかじゃないの?……うわぁ…絶対に関わり合いになりたくないな)



 出口を探して、かれこれ30分ほど経ったのだけど景色すら変わらず、ひたすら監獄が続いている。

 どれだけ広いのか見当もつかない程に、ただ、私の足音とゼンのじゃりじゃりと金属を食べる音だけが響いてる。


 ……ゼンは至る所の錠前を、食べて歩ってるのだ。美味しいのと…そうでない物があるようで、多少の好き嫌いをしつつだけど。


 公爵家うちで出す食事も、金属のほうがいいのかしら?ゼンの嗜好がわからない。そう考えつつ歩いていると、唐突に私のではない声が響く。



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