第11話 side セグシュその2。




 6人兄妹の末っ子で、僕と12歳も離れた可愛いセシリア。



『……今日はセシリアの王子様になってあげてね』



 母に頼まれて、魔力測定会のセシリアのエスコート役を務めた。


 会場ではお茶とお菓子を美味しそうに食べて、そのあとは庭園へ遊びに行った。

 そろそろ順番が来そうだからと、庭園へ呼びに行くと、白い猫のような生き物を抱えて座り込んでいた。


 魔力測定では、白い生き物がセシリアにしがみついて剥がれず、一悶着あったが、測定は完了した。



「魔力測定の水晶玉を溶かした」という前代未聞の記録を残して。



 セシリアは溶け出す水晶に驚き、手を離したが……直後に、白い獣に勢いよく飛びつかれ、転倒し意識を失った。


 即座にセシリアを抱き上げて、白い獣を剥がそうとしたが離れず、またあの青い髪の男が白い獣に、やや呆れの色味を持った声色で引き剥がしながら話しかける。



「君は…加減というものを知りなさい。守るどころか、意識を奪ってるじゃないか……」


「きゅう……」



「御前、失礼いたします!」



 焦る声で、周囲の人をかき分け、母さんが近づいてくる。

 抱き上げたままのセシリアのおでこに手を当てて、状態を探っている。


 光の魔法は治療や体への影響特化の魔法だから、母さんがいてくれると本当に安心する。



「気を失っているだけのようですわ、セグシュ、あちらの部屋へ」


「馬車を手配したから、セシリアを頼む」



 母様と父様に控え室へと誘導され、帰宅の手配がされた。



「……申し訳ないのだが、その白いのもセシリア嬢と一緒に連れて行ってもらえないだろうか?……と言っても多分勝手について行ってしまうと思うのだけれど」


「わかりました。各々の正式な対応は後日とさせていただきます。まずはこれにて失礼させていただきます」



 ……いろいろ言われた気がするけど、何よりセシリアが心配なので、退室の礼もほどほどに会場を後にする。







 ******







「セグシュ様、おかえりなさいませ!医師がこちらへ向かっております」


「お、お嬢様を、お部屋へお連れいたします」



 帰宅早々に、セシリアを専属メイドのセリカに引き渡し、身支度を整えている間に両親が帰宅してきた。


 セシリアは母が診ても、医者が診ても「寝てるだけ」とのことだった。

 一緒について来た白い獣は、ベッドの隅に丸まり、ひと時も離れずそばにいた。



 翌朝になってもセシリアは起きず……結果として言えば、セシリアの意識が戻ったのはさらに翌日、つまり倒れてから2日後のことだった。



 セシリアの体調を心配をする家族の心配をよそに、周囲の関心は魔力測定の結果のみであったために、翌朝より昏倒中のセシリアについての面会の申し入れが殺到するという、非常識という意味での非常事態になっていた。


 会場で倒れた、という情報が広がっていても、である。


 ……特に多かったのが、セシリア本人の意識の無い状態にもかかわらず、婚約申し入れの殺到だった。


 婚約に関しては、在宅中である、公爵家の当主に決定権があるとはいえ、それでも当主の家族であることには変わりないのだからせめて「セシリアの容体が落ち着いてから」という配慮くらいできないのだろうか?

 おかげで両親はセシリアの看病もままならず、来客対応に追われてしまった。







 ******







「セグシュ、悪いな、セシリアの看病までさせてしまって」


「父さんこそ大丈夫?ほとんど寝てないんじゃない?セシーは僕が看てるから、母さんも一緒に一休みしておいでよ」



 昏々と眠り続けるセシリアを看つつ、学園の課題を片付けているところへ、来客が済んだのか夫婦そろって入室して来た。

 今回はセシリアのエスコートとついでに、婚約者のデビュタントが迫っているので、その打ち合わせもしようかと思って、学園への外出届は2週間にしてある。



「セグシュ、お疲れさま。ありがとうね。あなた達の軽食をお願いして来たから、準備ができたら代わるわ」


「早く起きるといいね…」


「ぴゃー……」



 セシリアの頰をつつく。ふにふにで…とても柔らかいんだ。

 早く目を開けて、また笑って?


 母さんもいつもの優しげな声、ふわりと優しい雰囲気なのに、目の隈で台無しだね。

 僕でもほとんど寝てないのだとわかる。


 両親の退室後、少ししてからサンドイッチとチキンベースのスープが運ばれて来たので、それを片手に課題を進める。



「お前も食べなさい」


「ぎゅ…」



 あの白い獣は、セシリアが倒れてから何も食べていない。

 片時も離れず、ベッドの枕元に小さく丸くなってる。時折、長い尻尾がゆらゆらと揺れる。


 サイズが変わったり羽が生えてたりと、犬や猫では無いから、霊獣や精霊の類だと思われるので、もしかしたら食事が必要では無いのかもしれないが……。


 現在進行形でセシリアから離れず、家まで連れて来てしまっている。

 いずれは王家に返さなくてはいけないし、それまでに弱られても困るんだけどな。



「お前さ、セシリアのそばに居たいのなら、これ以上セシリアを困らせるなよ?……好きな子を泣かせるとか、最低だぞ?一緒に居たいなら、まずは食べなさい」


「ぎゅぅ…」



 納得したのか、白い獣はテーブルの上に来て、丁寧に前脚でサンドイッチをつかんで食べる。意外に器用で笑ってしまう。



「お前は、セシリアが好きそうなぬいぐるみっぽいし『セシリアのおともだち』なんだろう?それなら、次からは……ちゃんと守るんだぞ?」


「んぎゅ!」



 神妙な顔つきで、サンドイッチを咥えながら返事をする。


 改めて白い獣の体を見る。体は中型犬か少し大きめの猫で、首が少し長めで、顔は前方に尖り気味で爬虫類っぽい?背に今は見えないが翼があった。

 全身、真っ白でふわふわな長毛に覆われていて、特に耳の先、尻尾と襟毛というのだろうか、首回りが目立つように長くて優雅だ。



「いや……食べてからで良いから。そういや、お前は体のサイズ変えられるのなら、形も変えてるんだよな?それは……可愛さか、かっこよさを目指したのかわからないから……くくっ…!」


「ぴゃー!」



 白い獣が何か訴えてるが、色々中途半端すぎて、さらに長い毛に埋没している状態なので、毛玉にしか見えない。



「あとで図鑑見せてやるからさ、猫なり犬なり、姿の参考にしたら良いよ……あはは」


「ぎゅ」



 憮然としたような雰囲気を醸しながら、食事が終わったのか、白い獣はそっとセシリアの眠るベッドに戻って行った。



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